こんなゲームデザインはやめてはどうか

さて、本日はボードゲームデザイナーの端くれの頁をおめくりいただき、
誠にありがとうございます。
ゲームのデザインを商っております、サークル熊猫小屋、管理人でございます。
タイトルをつけるときは本当は「やめちまえ」と江戸ことばでぶちたくなりましたが、
誰かに突き刺さる批判となって本当に辞めてしまわれると業界の損失と思いまして、
トランプという馴染みのカードでちょっと講義調に観念論を弄んでみましょう。

一覧性への配慮



さて、ここにトランプがある。本日はこのトランプというカードを見本に、
もしも、トランプがこうであったら不便ではないか?という話からゲームデザインの失敗について述べようと思う。

トランプ、中国発祥、アラビア育ち、ヨーロッパで活躍した、世界へ広がったゲーム用のカードである。
日本においては、英米系の1〜10、JQKの13枚の数字に、2色、4種類の52枚にジョーカー2枚を加えた54枚のカードとして、流通することが多い。

トランプは、左上に数字と模様を小さく描いている。
これは右利きの人が左手で扇状に他プレイヤーに対して隠して持って、右手でカードプレイするのに適している形である。
もしも、トランプのカード属性が中央下部に書かれていたら、扇状で持っていてはカードの全容がわからないため、プレイの前にいちいち捲って確認することになるだろう。



一方、こちらはヴァイスシュバルツというトレーディングカードのカードである。
上の理屈から考えれば、これは中央下部に特殊効果が書かれており、一覧性に欠けるように思われるが、
本ゲームは机の上にデッキを構築して、カードをオープンにして遊ぶものであるから、このように記載してもゲームプレイの阻害にならない。
その代わり、プレイには一定面積のカード置き場を必要とするから、修学旅行のバスの中で遊ぶには難が出てくるだろう。
場所を選ばない融通性こそはシンプルなトランプ・カードの持つ強みであるといえる。

同じカードゲームのカードであっても、想定される遊び方によって適切なデザインは変わってくる。
ゲームプレイの際に余計な導線を作らずに一覧性が保てるように意識をすることが大切であろう。

カード枚数と可能行動

先述したようにトランプのカードは54枚から成る。
2人で分けると27枚、
3人で分けると18枚、
4人で分けると13枚が2人と14枚が2人、
5人で分けると10枚が1人と11枚が4人、
6人で分けると9枚

4〜6人でそれぞれ手持ちの札数は10枚前後になるのである。
カード1枚ごとにアクションがあると考えると、1手番あたりの可能行動はそのまま10前後
1秒に2〜5種類の手を認識して決心しても、1手5秒以内にアクションが可能である。1手5秒で54手のアクションが行われると、総ゲーム時間は270秒、4.5分となる。
インストとセッティングを込みにしても、10分以内で1ゲームできることになる。

一般に、人間が一度に認識可能な選択肢は10前後、5〜20くらいであろう。そしてその中から最適解の可能性の高い手は2〜5程度である。
もしも、これらの中にそれぞれに特殊効果のあるカードが入っていたら?必要な認識時間は二倍から三倍となり、ほぼ同じ程度に思考時間も伸び、ゲームのプレイ時間も合わせて伸びる。
多すぎる選択肢はゲームを間延びさせる要因となる。一回の可能行動が多く成りすぎないようにすべきである。
複雑な局面にしたいならば、決心のフェイズを分割させることを考えよう。
三択のアクションを3回やらせれば、それは27通りのアクションになる。それは最初から30個の選択肢を並列考慮させるより早いはずだ。


手札の枚数、ペア、確率

先の札をみれば、全てのカードを配った場合、どの場合においても手札数の違いは10%を超えない。
手札の枚数がゲームルールや技量、カード配の運の中に吸収してしまえる誤差に収まっている。これよりもカード数を削れば、当然に1枚の持つ差はより大きくなってしまう。

また、4柄×13数で5枚引きのポーカーをやったときに役無しが発生するのは、およそ50%である
仮にこれが6柄×9数=54枚のカードであったとき、役無しが発生するのは、およそ30%となる。
トランプは柄と数字の種類数に傾斜を与えることで、数字揃いの発生確率を下げ、意味をより強く持たせているカードである。
ゆえにポーカーや大富豪といったゲームにおいて数字揃い効果は強く設定されている。
確率は傾きを与えることで、ゲーム上の楽しみのみならず、ゲームの目的さえ産んでしまえる。

このように人類が長い叡智をかけて洗練させてきたトランプというゲームは絵柄、枚数、システムにわたって「よく出来ている」のである。
カードの使われ方とデザイン、プレイ時間のコンントロールとしての選択数、乱数発生のメカニズム、最も知られたこのカードから学ぶべき点はたくさんある。

ゲームデザインでは、得てして「基本的」であるがゆえにすっぽ抜けて、無駄な部分の手直しばかりしていることがある。
そのようなデザインはやめてはどうか(タイトル回収)
このゲームは何でプレイヤーを悩ませるのか、何を乱数の運に頼らせるのか、不要な手間をかけていないか。
そういうところにしっかりと立ち返って、デザインを完結させようではないか。

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