第3ターン
●大いなる闇の中で
■桂言葉/島田介子/宮嶋シゲキ
▲大宮
「見てください!この一方的な攻撃。この風景を。 普通の方が見たら、こんなところに攻撃されてはかなわないと感じるのは当然」
取材に訪れたマスコミ陣に共産党ゲリラ(と大日本帝国では報道されることになっている)による病院の惨状を報道陣を案内しながら声高らかに訴えあげるのは従軍女医、桂言葉である。この問題は政府によって強調されていた。病院を故意に狙ったテロルは西側に対して明らかに人道的優位性を誇示することができるし、共産党のイメージを殺ぐことができれば、西の連立内閣、そして臨時コミンテルン本部のあるイギリスと反共姿勢の強いアメリカの間に大きな楔を打ち込むことが期待できる。
「それで、どれほどの人が無くなったのですか」
ずいと乗り出してきたのは女性記者。想価会機関紙「ウッシオ!」の島田介子だった。元々人手不足で始めた報道記者めいた活動が最近板についてきた。
「死者13名、負傷者27名というところです」
「それはそれは…」
島田は痛ましそうな顔つきで更にネタになりそうな悲劇を聞き出そうとして無神経な声にさえぎられた。
「フリーのカメラマンの不肖・宮嶋と申しますがぁ、桂先生は賊をばったばったと斬り捌いたという武勇伝を聞きましてなぁ。その現場を見せてもらえませんかねぇ」
そういいながら宮嶋シゲキはパシャリと言葉の姿を撮影した。白衣を押し上げる胸周りに視線が引き付けられているが、その眼光には緊張感が滾っていた。
「お断りいたします」
言葉の返事はそれ以上踏み込むことを許さぬ如き固さがあった。宮嶋の勘の疼きはどうやら「隠したいこと」に触れたようだった。
「そうですか。しかし、先生はお若いのに肝が据わっていらっしゃいますな。聞き及ぶところによりますと、臨時医専の出でありながらドイツにまで留学…」
「五月蝿い!、私が臨時医専の出だからといって留学しては行けないという法でもある?私はドイツで学んだ技術でここで多くの人を救ってきたの。下種の勘繰りでどうこういわないでくれる?不愉快です。直ちに当病院から消えなさい」
少しばかり偏狂とは言われるが、普段はにこやかに笑んでいるのが似合う人と思われていた言葉らしくない怒気と切迫感を持った叫びだった。そばで聞いていた島田にはその声がどこか悲鳴めいて感じられるのだった。
☆
「糞っ、糞っ、畜生めっ!」
どうにか気まずそうな顔で続けられた島田の取材を切り抜けた言葉は部屋に戻って錠剤を飲み、心を落ち着かせた。
言葉の主な研究対象であるこの薬品は適切に運用すれば多くの問題を解決するものだと思われている。言葉はこの研究と運用に人生を賭ける覚悟を持っていた。この研究に眉をひそめて戦場の過酷さに目をそむけて生きている正規の「医学部」を出た主流派の済ました連中の目を引きずり出してやりたい。
弱さゆえに魂を壊された人が何をするのか、それを防ぐために医学は何を為すべきなのか。それを探し出すのが桂言葉の生き様だった。
でなければ、なぜあの戦争以後、私はなぜ無垢な娘でいられなくなったのか。野獣どもにあのかわいい妹が目の前であんな無残な目にあって殺されなければならなかったのか。思いは既に怨念。二度とああした無残な事件がおきないように、桂言葉は人の心から弱さを消さねばならないのだ。たとえどれほどの死塁が築かれようとも。
言葉は軍への報告書を記述し始めた。題はこう始まっていた。
「戦争神経症に対するリゼルグ酸ジエチルアミドの効能について」
●宿敵
■逝毛田B作/宮本顕治
▲新潟
逝毛田B作は大きな成功を収めつつあった。雨の日も風の日もずぶぬれになりながら一つ一つビラを配り、声をあげ、戦争で困っている人間を拾い上げて軍関係の職を紹介したり、手当てを施すことによって想価会の会員数はうなぎのぼりに増えつつある。政府との関係が作れたことでその勢いは加速度を増している。
会員は逝毛田の言葉に従って無給残業をこなし、前線へ励ましの手紙を送り、共産主義者を密告した。その行動は大いに政府によって称揚されるものだった。時にそれがいきすぎて問題を生む場合も報告されるようになりつつあったが、このままいけば戦後においても東日本の中で大きな勢力へ躍り出ることができるだろう。
本日ラジオでアジテーションの声明を読み上げられるという事にもその力が既に反映されていると言って良かった。戦時にあって若きカリスマとしての存在感をしめしつつある逝毛田の声は電波に乗って日本の至る所へ浸透しつつあった。
「西日本による病院襲撃は、彼ら、特に井上など西側指導層の残虐性、非人権的体質を如実に表している。
また、宗教家にして平和活動家(ラスプーチン)虐待事件は、
彼らの攻撃性、何よりも宗教への非寛容を世界にさらした大事件である。
このような連中に占領されれば、我ら平和と自由、人権を愛する国民は、奴隷のごとく暴力的な弾圧を受け、
宗教の自由、言論の自由すら失うであろう。
これから育つ子供達のためにも、この自由な東を守りべきでは無いだろうか。
そのために、私たち大人が率先して努力し、奮闘いたしましょう。
その背中は子供達だけでは無く、御仏もきっと見守ってくださいます。
さあ、後藤閣下とともにこの国を守る武器無き戦いに、
自由と平和を尊重する我が東の強気意志を西に見せつけようではないですか! 」
薄暗い隠れ家で逝毛田の放送を聞きながら宮本顕治は下唇を強く噛締めた。
敵の扇動に乗って「人体事件を繰り返している病院」を襲撃する形になり、
今また宣伝によって大きく共産党への不信が高められようとしている。
知らず知らずのうちに追い込まれつつある自分の身が悔しかった。
今はただ、潜伏に徹し嵐が過ぎ去るのを待つ。
東において大打撃をうけ、その精神的な影響力も大幅に衰えたものの、
共産党はまだ壊滅しているわけではない。
ことに逝毛田の想価会の貧者を戦争の奴隷へとかりたてる手法を許してはおけない。
再起を胸に秘めて宮本は隠れ家を後にした。
彼が何をしようとしているかは未だ誰も知るものは居ない。
●偶像誕生
■立花雪音/真壁六郎/野田松之助
▲静岡
西側の農地解放政策は乱暴ながら、東側の日本が未だに解決できていない問題を直撃した。小作人制度の持つ封建的主従関係が東の農村地域に残存しているという点である。如何に西側が「悪逆非道の不忠の輩」であったとしても、自分の生活がよくなるという幻想を抱かせるならば兵どもは戦意を失う。
現実問題として東側が執政権を回復した東海地方では「解放された」土地は自分のものであると主張する小作人と東京や新潟にいて自らの所有権が残っていると主張する地主の対立が抜き差しならぬほどに激化しており、これが争点化すると東日本の国内に大きな断層を発生させかねない。
野田松之助は省庁横断で対策本部を結成して、これを機に東側の農地解放を実施することにした。小作への分割ではなく地主を経営者とする農業株式会社化であった。これによって小作人は「労働者」として労働法の監督下に入る。一方で地主は自分の会社の利益を増大させるために努力するので、国家としては全体的な生産性の向上が期待できる。
この案には自らの権限縮小につながる農商省(農業政策および軍需外生産担当)から激烈な反対を受けたが、混乱を招かない解決策が他にないことをもって説得し、軍需関連の迅速な天下りポストの多くを明け渡すことによって妥協を得た。
野田は全国の地主層を駆け回って「御国の為」といって株式会社化を推進するように頭を下げて回っていた。(その中には東北地方の大地主である彼の実家も含まれる)次官として最も調整が困難な静岡へ入り、不在地主に頭を下げて荒れた静岡に連れてきて、農民に株式会社化のメリットを説いて回り、被害復旧のための情報を集め獅子奮迅の働きをしていた。
そんな野田がひと時心を休める時間があった。
ラジオのダイヤルを新潟放送協会にあわせると、先の戦争後にファンファーレ式の勇ましい音色に変曲された君が代に続いて、まだたどたどしさを残した鈴の音のような声が響いてくる。
その番組は戦場からの便りと銃後からの便りを読み上げていくだけの3分ほどの番組であった。
かびすましい情宣的な報道や話が満ちている中でその番組は法外なほどに無加工だった。
悔しさも怖さも恨みも感謝も励ましも気高さもそのまま読み上げた。
放送は次第に評判になり、多くの兵が、その妻子が、恋人がその声を通して自分の思いが語られることを望むようになった。
彼女の伝える言葉は自らをこの世に繋ぎとめる共感の輪を作っているかのように響くのだ。
「なるほど、立花の野郎、いい娘を隠しもちやがって」
野田はひと時、手を休めてつぶやいた。
人の血と涙を食らって苦労と妥協を重ねる日々の仕事の中で、一つは人に誇れる仕事ができたかもしれないという満足感がそこにはあった。
☆
真壁六郎は立花雪音の放送中を見守りつつ、この番組の実現に向けて動いた自分の狂的なまでの情熱を振り返っていた。
立花雪音に当初与えられた役割は西側に対する批難キャンペーンの一翼であった。
なんでも病院破壊行為をした共産ゲリラ批判をするように、後藤首相直々に梃入れがったようだ。
父親からの許可をとって、この業界入りした雪音にそうした仕事を割り振るのはまあ、成り行き上当然なのだが
真壁にとって内心忸怩たるものがあった。
どこにでも転がっている報道員として、戦争の渦中にこの少女を放り込んでよいのかという迷いがあった。
その思いは先輩が仕切っている番組を聴いてますますそう思うようになった。
穂村愛美という被害病院の看護婦を呼んできて、ヒステリックに西側を攻める言動を繰り返させるのに熱中することに
なんらかの意味を見出すことができなかったのである。
「俺のやりたかったことは、こんなことじゃない」そうした思いが募っていった。
そんな彼にキッカケを与えたのは雪音の母である。
穂村看護婦と同様の情宣活動に自分の娘が入っていることが解ると、
「桂女医の手先などと組ませるようなら、即刻辞めさせる」と電話口でスッパリと申し出てきたのだ。
どうやら、雪音の母は女医であり、現在渦中の桂言葉女医の指導をしたこともあるらしい。
その時から、「手段のためなら目的を選ばない」「自分の認めない人間は実験対象である」「急進的優生思想家」である
桂の事を嫌いぬいていた。
それでも上からの事なので、しかたありません。と言い訳をしようとした真壁の耳に強い言葉が届いた
「私は、絶対に娘があの女の手先になるのは厭です。そんなことなら爆弾でも括りつけて敵につっこませます。
厭なことは戦場でいくらでもできます。厭なことをしたくないなら闘うのよ。現実と」
この言葉で自分のやりたい事をやろうと真壁は決意した。
真壁は馬渕軍需大臣を説き伏せ、その紹介状を手に山本元帥を辿って軍と交渉し
「好きなようにやる」枠を放送局にねじ込むことに成功した。
以後、社長から「声だけじゃ儲からない」と言われたり、軍の一部から「率直過ぎる」という苦言を貰ったり、想価会の会員らしき人物から「報道に非協力的な売国奴」と罵られることもあったが、そうした騒音を全て自分が受け止めることで、雪音だけはまっすぐにこの戦争の中でも生きてもらいたかった。そして、人の思いを繋ぎとめる姿と声で戦争の終わりを皆と共に笑ってほしかった。
只の女学生を苦界へと招きこんだ男が今更願うことではないかもしれない。しかし、既に後には引けないのだ。
敗戦国の情宣員の生涯は恵まれた物になることは少ない。
あるいは、ただ単に敗戦国の国民のいたいけな女学生というだけでも襲い掛かる不幸は存在するのだ。
自分の知らないところで、幸せが壊されるかも知れない世なれば、少しでも足掻いて不幸になった方が気分はいい。
●ぱーてぃーにて
■イワン・セーロフ、シュトロハイム
▲東・ウラジオストック
戦争の最中だからと言って、どこもが耐乏生活を送っているとは限らない。同盟国の主要港湾都市、そして同盟宗主国たるドイツの領事館ともなれば、なおさらだ。
きらびやかなシャンデリア、贅を尽くした料理の数々、着飾った男女の貴顕たち。しかし、そんな中でも、無粋な話に熱中している人たちもいる。
「日本帝国が自足できない以上、長期戦は我が国も、そして貴国も、その負担に耐えられないでしょう」
黒と銀に飾られた軍人に向かって話しているのは、ロシア軍極東方面軍総司令官、イワン・セーロフだった。
「卓見です」
長身で金髪碧眼、黒と銀の制服に身を固めた男…ルドル・フォン・シュトロハイムは頷いた。金髪を角刈りにし、その体格からプロの格闘家にしか見えない彼は、第二次世界大戦後のドイツの戦いのことごとに姿を現し、活躍してきた軍人である。あまりに変わらないその姿と不死身ぶりから、「ノスフェラットウ」や「機械仕掛け」などと呼ばれたりもしている。
この男も、見かけよりはずっと有能なのだな、とシュトロハイムは思った。セーロフは見たところはくたびれた感じの、冴えない初老の軍人だが、上層部の意向と自国の置かれた立場、そしてこの戦争の行く末を冷静に判断し、分析し、自分の出来ることを実行に移している。
シュトロハイムもセーロフも、自国の方針(極東における、ハートランドに付属した孤島の橋頭堡の確保)は明確に理解している。ただ、同盟国たる日本帝国の戦争方針の不明快さを理解することまでは出来なかった。しかし、彼らが行った上申に対する上層部の回答は明快だった。『この戦争における自国の立場を、戦果を持って確保せよ。同盟国を救命せよ』というものである。
「どちらにしても、陸軍の増援はこれで手一杯…あるいは、十分と言うべきでしょう。問題は、航空戦力と言うことになるのでしょうな」
彼は、煙草に火をつけた。一息吸い込んで、紫煙をはき出す。
「現在、連合国の海上戦力は圧倒的。しかし、その力は主として空母〜航空機によるものです。我々が一時的にでも制空権を握るためには、これを排除ないしは機能不能に追い込む必要があります」
シュトロハイムは陸軍の軍人だが、義勇軍司令官として、海空の兵力・戦略にも気を配る必要があった。冷徹な彼の軍人としての能力は、十二分とは言えないまでも、それに対応している。
「…過飽和奮進弾攻撃ですか?」
シュトロハイムは無言で頷いた。そこまで理解しているのか。やはりこの男、ロシアに置いておくには、のちのち危険なのかも…。
「ところで、お国の国防軍が、日本戦線に参加されるとか」
シュトロハイムの表情を読んだのか、キーロフが話題を変える。シュトロハイムの眉が、微かにつり上がる。
「本来、海外での汚れ仕事は、我々親衛隊の管轄なのですがね。どうも、勲章の数を増やしたい方々もおられるようで」
彼らの会話は、まだまだ終わりそうもないようだ。
●しゅと
■イワン・コーネフ、アンデルセン
▲東・新潟
その店は繁盛していた。肝っ玉なおばさんが作る定食の数々は、貧弱なおかずにもかかわらず、盛りも味も良かったからだ。しかしその日のお昼、店の中は緊張に包まれていた。背広とはいえ大柄な白人が、なぜか店の真ん中のテーブルに陣取っていたからだ。
「あ、あの…ぷりーず?」
お盆を持った店で働いている少女が、おそるおそる話しかける。周囲の人たちが、心の中で一斉に「この国にいる外人はドイツ人かロシア人だろ」とツッコミを入れるが、さすがに代わってる度胸のある人間はいなかった。
小首をかしげた外人は、たどたどしいながらも返事をした。
「オナカスイテイマス。ナマノモノダメ。ナニカタベルモノクダサイ」
おかみさんも含めて、ホッとした雰囲気が周囲に流れる。やがて持ってこられたのは、目玉焼き定食だった。箸使いこそ上手くなかったが、だぶだぶとソースをかけた定食を平らげた外人は、いかつい顔に精一杯の笑顔を浮かべ、きちんと料金を払って店を出て行った。
『お一人とは、ハラハラさせられますな』
渋い男の小声が響く。ロシア語のそれは、どこから聞こえてくるのかよく判らない。
「まあ、この国の現状を調べるのが私の仕事だからね、アンデルセン」
これまた小声で、男…イワン・コーネフは答えた。彼がロシア軍上級大将と知れば、先ほどの店の連中は驚くことだろう。彼らの常識(いや、ロシアの常識でも)、平服でふらふらと出歩いている身分ではないからだ。
「ふむ、活気はあるな。さすがに戦争当事国とはいえ、一方の首都だけのことはある。しかし、若い男が少ないな」
確かに、新潟で働いているのは、女性が多かった。電車の車掌、運転手に始まって、交通整理の警官まで。先ほどの店でも、働いているのは女性だけだった。
「国力が限界まで達している証拠だな。その割りに活気があるが、統制経済だけあって闇市の方が元気がいい」
誰に聞かせるともない風情で、コーネフは続ける。
「首都に機能と富が集中するのは、発展途上国の典型的な例と言うことになる。地方都市や田園も見ておく必要があるか」
『…西側の武器が流れているのも確認し。闇市の奥だ』
半ば呆れたような声で、アンデルセンと呼ばれた男の小声が、またどこかから響く。
「そうか、ではそちらを先にしよう。案内してくれ」
コーネフは踵を返した。彼らの正体、そして目的は、まだ明らかになってはいなかった…。
●後方地帯
■加藤健夫
▲新潟
加藤健夫航空作戦本部次長は、決して無能ではない。想定戦場の見極めから義勇航空隊との連携に至るまで、うまくこなしている。
が、人である以上、判断ミスの一つや二つは誰にでもある。
「……地域ごとの『航空戦闘指揮所』は良いとして、それらを全般統制する『中央指揮所』を設ける、ですか。まあ、作れとおっしゃるなら、作ってご覧に入れましょう。しかし、まさに屋上屋を架す、ですな。航空作戦本部こそが全般統制の為の組織……海軍で言えばGF司令部に当たるものでしょうに」
「私としては、航空作戦本部は戦略組織として位置付けているが」
首席参謀たる前田俊夫のいつもの嫌味に対する加藤の返答は、明らかに判断をミスしていた。
確かに、遠からず発展的解消を遂げて空軍の母体となる資格を充分持ってはいる。だが、今はまだ、そこまでの価値はない。加藤は、自らが旗振り役となって生み出した、我が子とも言うべき航空作戦本部を過大評価していた。加藤自身と黒江保彦に加えて前田、更に本部長が山本五十六と来れば、夢を見たくなるのは当然だろうが。
前田は、あからさまな嘲笑を浮かべた。
「……戦略という言葉の定義をご存知ないと見えますな。
どれほど隷下戦力が多かろうと、実働部隊は作戦レベル以上の組織にはなり得ません。独立した空軍であれば戦略組織と呼び得ましょうが、現状の航空作戦本部が、その名に値しますかね」
煎じ詰めれば、基地航空隊を束ねて、司令部がその上に置かれているだけの組織である。命令のくびきからは事実上解き放たれているが、だからと言ってそのまま空軍になれるわけではない。組織運営のスタッフがいないからである。作戦立案・指揮権を持つことと、戦略組織であることはイコールではない。
例えば、戦略において不可欠な、兵站を担当するスタッフがいない。いや、勿論いるのだが、彼らが担当してきたのは部隊単位であり、大局を見渡して運営した経験はない。
「ふふふ。作戦レベルまでしか対応できない組織が、戦略に口を出しますか。末期状態ですな。それを裁けない無力な国が、ね」
前田の嫌味が、加藤を射抜いた。陸軍軍人にとって最も聞きたくない嫌味が。
実働部隊は実働部隊でしかない。それ以上の権限を求めて活動したり、命令を的確に遂行するという本分と誇りとを忘れて独断専行したりすれば、国を傾けることになる。
大日本帝国陸軍には、まさにそういう組織が存在した。即ち、関東軍。満州事変を始めとする一連の暴走をしでかし、結果として日本をやらずもがなの対米戦に追いやった輩。
その同類扱いされた加藤は、流石に顔色を変えた。
そこに、山本の声が割り込んだ。放って置くと加藤と前田が本気で対立しかねないために、話を引き取ったのである。
「本部長が僕だからね」
どれほど隷下戦力が多かろうと、実働部隊は実働部隊でしかない。だが、GF長官時代の山本は、軍令にも軍政にもよく口を出したものである。
平然と洒落のめされて、前田は肩をすくめた。
「まあ、いいでしょう。空軍の創設はいずれするつもりでした。たまたま今になっただけのこと。組織を弄り回しているほど、余裕のある戦況だとは思えませんが」
言い置いて、席を立つ。
「どこへ行く?」
「富山です。戦況に余裕を作って差し上げます。その間に、お気に召すまま組織を弄り回して下さい」
肩越しにひらひらと手を振って去った前田がいなくなるのを待って、山本はため息をつく。
「気にするな。君の思うようにやってみたまえ。責任を取るために僕がいるんだ」
そして、真顔で続ける。
「僕というカードを使いこなせ。僕がいる間は、君の意見はまず通る。
……僕がいる間は、だ」
元帥というのは名誉職であり、基本的に部隊を率いることはない。ただし、率いてはいけないという規則もない。そして、元帥ともあろう者が率いるからには、相応の組織にならざるを得ない。官僚が盾に取る規則を逆手に取ることで、山本の再出馬と航空作戦本部は成立している。
それは、裏返せば、山本が退かなければならない状況になれば航空作戦本部自体が潰えかねないということである。
「もう一つ。前田に心を許すな。彼はこの世の誰よりも有能だ。彼を自由にしておきさえすれば、何もしなくても勝たせてくれる。だが、それは諸刃の剣なのだ。彼の発言力が強くなれば、二つの日本は……いや、世界全てが彼の掌の上で弄ばれることになりかねない。そして、その行き着く先は、日本のみならず人類という生物種そのものの絶滅だ」
そうなりつつあるのだがね……山本はそう続けて、もう一度ため息をついた。
空軍の創設に前田の活躍が寄与していれば、それは、前田の道具になる。
ともあれ。各地の航空戦闘指揮所を中央指揮所が束ね、航空作戦本部がバックアップと総指揮を行う体制が成立する。拙速だが、陸海軍に関係ない人員配置や、所属していない軍の仮階級をそれぞれの所属軍と同様の階級で発令するなど、一元的な指揮管制に必要な手を加藤が打っていたことで可能になった。
それは、名称はどうあれ、空軍そのものであった。大日本帝国の基準で見てすらあまりにも後方支援能力が脆弱な、歪みきった代物であったが。
●流浪
■グリゴリー・エフィモヴィチ・ラスプーチン/ボリス・エリツィン/H.A.R.“キム”キニスン
▲福岡
民主化してなお、自白を引き出す術策においては悪名高い日本警察の取り調べに対してもラスプーチンは不敵に笑んでいた。通訳を介した取調べにたいして
「井上成美の陰謀だ!」
「慎みたまえ、君達は神を敵に回しているのだよ」
「この引き出しから22世紀の狸型ロボッタが出てくる」などと意味不明のことを喚き散らして、
終には精神障害の疑いから鑑定をしようかどうかという段まで縺れ込ませた。
検察も外交問題に発展したこの異常者をどう扱っていいのか匙を投げかけたときに法務大臣から捜査停止命令が下った。
その者に責任能力はないよって不起訴とすべし。猶、身柄は以後外務省によって対応される。
☆
薄暗い「トリシラベシツ」で豚臭い卵飯を食わされる日々を終えてラスプーチンが連れて行かれたのは福岡に臨時設置されている英連邦大使館であった。
「ようこそ、コモンウェルス大使館へ。我々は貴方を祖国へとお連れ致します」
出迎えたのは連合王国在日大使館一等書記官H.A.R.“キム”キニスンであった。ひどく芝居がかった口ぶりでかれは面倒な客へ最大の敬意を持って出迎えを行った。
「私に祖国など、無いのだ」
ずかずかと案内される部屋へと着いて行きながらラスプーチンは応えた。大袈裟な対応と言葉がラスプーチンに不快感を募らせた。「我々を」見捨てた英国人に何がわかるというのだ。
「羨ましい」
キニスンは衒い無く返事をすると応接室のドアを開け、ラスプーチンに座るように薦めた。テーブルの上には4つの書類入りの封筒が入っていた。
「貴方は4つも祖国を選べるのです」
☆
キニスンの説明するところによると、国籍不明のポーランド人であるところの彼には4つの政府組織の統治権限にかかる場合があるらしい。
1、
現在ブリテン諸島の一部にあるマン島に存在する自由ポーランド政府。
2、ロンドン郊外に存在するソヴィエト亡命政権。
3、
ポーランド領土を実効支配しているドイツ第三帝国。
4、現在彼を返還せよと訴えており、国内にポーランド難民を抱えているロシア連邦。
どの政府に対するにせよ、国家承認の問題が燻る日本よりは英国の方が対応は容易であるし、実際に上にあげた4つの組織に対して、受け入れの用意があるかどうかを問い合わせをするようにキニスンは手回しをしていた。そして日本での不法滞在はどの道、国外追放は免れぬ事と送還先が欧州であることから一旦中立国であるメキシコへの移送が決定している。重大な問題なのでメキシコシティー着くまでに決めて置くようにとラスプーチンに告げてキニスンは席を立った。優秀な外交官は仕事に事欠くことはない。
ラスプーチンは一つ重大なことを聞いていないことに気づきキニスンを呼び止めた「エリツィンはどうなりました」
「かれなら既にロシアへと送還されましたが、何か?ロシア人だから当然でしょう」
なるほど、確かに選べるということは幸せだろうな、ラスプーチンは弟子の無事を祈った。
●きっと約束の地で
■マルコメ・バッテン/マーティン・ルーサー・キング/五島喜一
▲ニューヨーク
マーティン・ルーサー・キングは自らの運動に確かな手ごたえを感じていた。公民権を求める運動を始めて僅か二ヶ月。大統領に会うまでに至った自分が既に夢ではないかと思われるほどだ。確かに、人種差別を推奨するナチスに反発するという潮流からの差別撤廃はあったかもしれない。今多くの聴衆を連れてキングはワシントンへと向かっていた。抗議の為ではない。キングは客として大統領に呼ばれたのだ。
しかし、これほどまでに急激に事態が進むとはキングにも予想の外だった。南北戦争以来100年も曖昧に続けられた差別が急速に問題として浮上したのは天才的な弁舌術を持つキングによる部分が大きかった。その意味でマーティン・ルーサー・キングは百年に一度の黒人運動家であった。本人はそう評価をされたならば「黒人運動家なんて肩書きは私が最後であって欲しいね」と笑うことだろう。
五島喜一はマルコメの動きを追うマーグレー捜査官にレポートでアドバイスを告げると、キングの警護担当であるトーマス・クランシー警部へとコンタクトを取った。国家主義的精神を骨髄まで染み付かせた彼にとって、キングの活動とは美名を被った「反政府運動」のひとつに過ぎなかった。
五島は活動が一定規模に達した現段階こそ連中が自作自演で事件を引き起こし、事変へと展開を試みるであろうとクランシー警部に告げて注意を十分にするように忠告した。クランシー警部は日本人の妻(ただし、彼女の出身は東北であるが)とハーフの娘を持っており、五島はクランシー警部宅に招かれて久々の日本食を堪能することができた。
☆
キングはデューイ大統領の口からその言葉を聞いた時に思わず感涙の涙を呑んだ。
「私は議会に公民権法を提案する」
キングの手をとって力強くデューイは続けた。
「約束する。この国から差別主義を一掃する。」
キングは大統領の手を強く、固く両手で握り返した。
キングとデューイの会見は和やかながら双方が厳粛な緊張感をもっていた。彼らは自らが歩む困難な道を行くことを知っていたし、道から逃げる選択肢を選ばないことは決めていた。教育・レストラン・交通機関・陪審の不公平…個別の問題は尽きることのなかったが、話し合いとにかく最終的な解決へと向かって法案を作ることに合意を作っていった。
第三次世界大戦における実質的な敗戦に打ちひしがれていたアメリカという国に新たに高らかな理想を持った筋の通った背骨がこの会談の2時間を通して作られようとしていた。
会談の後、ホワイトハウス前に集まった聴衆に手を繋いで大統領とキングは現れた。
大統領は言った。
「私はナチスと闘って今までの生涯を生きてきました。
ナチズムとは人が人を差別し憎しみあう制度です。
私はアメリカの中にナチズムと同じ感情が渦巻いてしまうのを恐れます。
それをあらゆる力を使って叩き潰さねばなりません。
本日、私と共に立っているキング牧師も私とともに闘ってくれる戦士の一人だと思っています。
私と彼では無論意見が異なることもあるでしょう。
しかし、憎しみを重ねるだけでは未来は開けないことという理解だけは何があっても異なる事はありません。
私は合衆国に住む全ての人へと訴えます。もう憎しみを重ねている時代は終わりました。
我々は人が憎しみあわねばならない世界を解放する使命に従うときがきたのだと」
デューイ大統領がキングと固めた拳を高く掲げて聴衆へと宣言する。歓声を割ってキングが後を続ける。
その言葉はこれからの厳しさを覚悟した大統領とは違い、今日に対する喜びが素直に溢れていた。
「我々の前途は遙かなる苦難の日々が横たわっています。
でも、そんなことはどうでもいいのです。
私は山の頂上に登ってきたのだから
私も長生きがしたい
長生きするのも悪くは無いが
今の私にはどうでもいい
神の意志を実現したいだけです
神は私が山に登るのを許され
私は頂上から約束の地を見たのです
私は皆さんと一緒に行けないかもしれないが
一つの民として私達は約束の土地へとたどり着くでしょう
今宵、私は幸せです。心配も恐れも何もない
神の再臨の栄光をこの手で見たのですから
それが、キングの最後の言葉となった。 銃声がキングから声を奪った。
マルコメ・バッテンは響いた銃声に、周囲に聞こえないようにそっと舌打ちをした。
キングの演説を乗っ取り、キングの非暴力主義を糺して白人による同化主義から目覚めさせようと
信者を武装させて手回しをしていたのだが、あまりの急展開に手出しをする機会をつかみかねていた。
そうした中で薬の切れた阿呆が早まってしまったのかもしれなかった。
続く銃撃を大統領護衛が身を挺して防ぐ、その中央では大統領がキングを庇っていた。キングを引き剥がそうとする護衛にデューイは言い放った。
「馬鹿者、大統領に代わりはいても、マーティン・ルーサー・キングに代わりはいない!はやく、医者を連れて来い」
更に加えられた銃撃は更に二人の護衛の命を傷つけ、一発の銃弾は大統領の左腕部を貫通した。
不意を衝かれた警備隊であったが、直に混乱を建て直し、集団に潜伏していたマルコメらの検挙に成功した。
スムーズにいったのは事前に五島の手引きでマルコメ情報が有る程度共有されていたこと。
そして何より黒人の権利について語り、キングを庇った大統領へ銃弾を打ち込んだ者達を黒人達そのものが許さなかった。
警官達の仕事はリンチにあっている犯人を救い出したという方が現実に近かった。
この瞬間が映像で流されていたことで、多くのアメリカ国民は厳粛にデューイとキングの夢を新たなる建国神話の域へと刻み込んだ。背骨だけだった理念は多くの人々に共有されることで、肉をともなった新たな有機体として活動し始めたのであった。
☆
「そうか、君には世話になっておきながらこういう無様なことになってしまった。それに碌に見送りも出来そうにないが、すまない」
五島が日本への帰還命令が出た事を伝えると事後処理に追われているアーター・R・マーグレー警部は残念そうに言った。無理もない、対象は捕まえたとはいえ、マルコメ逮捕が遅れたせいで大統領を傷つけてしまったことは、幾ら悔いても足りないミスであった。
「君があと一ヶ月早く、来てくれていたらこうはならなかったかもしれんな。」
現在キングの暗殺と大統領の負傷という大事件で国内は非常に混乱した状況になっている。
方向性は最早ゆり戻しがないほどに確定しているが、落ち着くまでにはまだ最低でも一月ほどは時間が必要であるだろう。
情報によると南部で発生した暴動鎮圧には第101空挺師団が投入される事態にまでなったという。
「しかし、一介の有色人種としましてはありがたいですね。差別がなくなるっていうのは」
「ああ、クランシーの奴を見ると中国人の嫁というのも悪く無さそうだ。今度機会があったら紹介してくれ」
「失礼ですが、私は日本人ですが」
「…ええっと、日本ってのは中国のどこらへんにあるんだったけかな」
東海岸に生きるアメリカ人にとって、日本はまだまだ遠いようであった。
●伝説の凶鳥
■吉見健三
▲福岡
吉見健三国防省運用企画局副局長が、新たに日米共同で起こしたガンシップ・プロジェクト。
簡単に言えば、C-119フライング・ボックスカーを改造して胴体内部から側面に突き出す形で機銃を装備し、攻撃目標を中心に旋回することで切れ目のない対地射撃を行うことが可能な機体を開発しようということである。不審火をもたらす伝説の凶鳥の名をとって、『畢方』(ひっぽう)と名付けられる予定である。
が。
九州飛行機側の担当として召還された鶴野正敬は、40ミリ〜20ミリ連装機銃×1、M1919×3〜5、無理ならM1919×10以上。対ミサイル等に装甲強化、チャフ装備……という要求スペックを聞かされるなり、こう答えた。
「技術的には可能です。ただし、すぐには無理だとお答えするしかない」
「資材や設備、人員は必要なだけ何とかしよう、だから……」
吉野は、そこまでしか言わせてもらえなかった。
「そういう問題ではありませんよ」
これだから素人は……と言わんばかりに、大げさに嘆息してみせる。
「機銃の増設、装甲の強化、そりゃできます。しかし、考えても見て下さい。紙飛行機の片翼に重りをつけたら、どうなりますか。バランスが崩れて、たちまち落ちてしまうでしょう。本物の飛行機でも同じことです。バランスを取り直さなきゃならない。
素人が思っているほど簡単ではないんですよ、機体の改造というのは。設計からやり直す必要があるんです」
「専門的な話は良い。結論だけを聞こう。どのくらいかかるのかね?」
「そうですな。M1919が4挺程度の対地射撃能力とチャフだけでいいのなら、来月には生産が可能になるところまで持っていけるでしょう。それ以上の武装や、装甲の強化までしろと言うなら、半年は見てもらわないと」
鶴野は知らなかったが、その見解は、川崎や川西が出したものと全く同じだった(名古屋で奴隷狩りに遭った、かつて三菱や愛知と呼ばれていた者達には声がかからなかった)。
「解った、ありがとう。九州飛行機に発注するか否かを含めて、検討しよう」
一礼して退室する鶴野を見送ると、吉野は一人ごちた。
「半年先だと? 半年先には戦争は終わっている。終わっていなければ困る」
●戻れない日々
■高木惣吉/我妻由乃
▲上海
高木惣吉は交渉相手との再見を果たしていた。
「如何ですかな、あの少女は」
まずは外堀から探りを入れる。この交渉相手の性格、そしてどれほどの力があるのかを高木は測りかねていた。極めて暗愚と言われている割に冴えた所を見せる。
「ええ、『日本』へ帰りたいと私に泣きすがっております。何でも千葉の生まれだとか、残念なことに親は死に、親類には追い出されたようですな」
「ほう、では帝国の方の千葉ですかな」
「さあて、どうでしょうか。あなた方と不幸な事態になる前は関東の住民はそうしたことさえ意識せずにすんだものですが」
高木は交渉の前段階として少女の身柄について話を持ちかけた。
「我が国で保護したい。無論、これまで保護してくれた謝礼金は出す」
「つまり、貴国は千葉県への領土的野心を捨てていないと受け取ってよろしいのですかな」
なるほど、金に汚いが、私欲で国益を忘れる性質ではない。しっかりと千葉の領有については主張するつもりか。
元々千葉は「捨てる」つもりの交渉である。今はメッセージを伝えることに専心すべきだと考えた高木はニッコリを敵意の無さを表して言った。
「いえいえ、かわいそうな少女を助けるのは男の使命と感じているだけですよ」
「ならば、あなたにその特権を譲るわけにはいきませんな、お姫様は私をご指名です。白馬の騎士たらんとする者が睦言を他人任せにして成功する物語は聞いたことがない」
「それは、まことに残念だ。イギリスで最高の教育を受けさせる準備までして来たのだが」
西では教育機構にも混乱が起きており、子供保護の観点からもキニスンの手引きで日本の子女を英国へ留学させる制度がまとまっていた。
「そうですか、教育については私もいろいろと考えるところがありましてね、何かと騒がしい日本よりもロシアで最高の教育を受けさせることも考えていたのですが、何しろ本人が帰りたいと仰せである以上はしかたない」
実際の所、ベリアは教育に力を入れている。以前より後藤に日本からの女子留学を積極的に薦めるように言っている。
無論、二心なきには程遠く、身も心もベリア色に染められるという噂ばかりである。学校の特殊性も鑑みて仲介をした人間には莫大な仲介料が入るという噂もある。こうした言葉を敢えて言うことで生殺与奪の権利を改めて相手に認識させようという魂胆が高木には憎憎しく思えた。
「で、あなたは少女一人の様子を聞くために私を呼び出したわけでもありますまい。そろそろお話を聞かせてもらいたいのだが」
「いい加減にこのくだらない日々を終えたいものだ。 終えるためならば、我々は認めたくない現実を承認する用意がある」
「ところでこれから話される言葉は西の国家的意思と理解してよいのですか」
「いや、個人的な意志だ。いつでも撤回できる。無論、あなたの発言も」
「承知した」
「私は、停戦の為に以下の三つを提案します」
1、西は関東における統治権を放棄する。
2、他の東西国境は戦前通りにし、国境である敦賀から関が原を経由して桑名にいたる地域に数十キロ幅の非武装地帯を設ける。
3、名古屋を中立都市として国際管理下に置く。
「軍事的には貴国は防衛線を最小に出来るから此方から仕掛けにくい、しかも中仙道と東海道の結節点である名古屋をこちらが使えず、停戦協定をやぶってそちらが攻勢をかければ容易にこちらの軍を分断しえる布陣ですな。些か一方的に過ぎますな」
「関東を譲るとまで言ったのに、こちらの譲歩が足りないとでも」
「さあ、私は決定者ではないですからね、単なる感想ですよ。例えば言葉どおりあなた方が滋賀全域と三重、京都北部から軍を撤退するというのならこちらも考えなくも無いでしょうが、まさか、我々だけに名古屋を捨て、軍を引けと聞こえるような話ならば論ずるにも足りません。まあ、しっかりとお伝えだけは致しますよ」
「ところで貴国には大量の外国軍が駐留し始めているようだが」
「さて、なんのことやら、有象無象を神州に引き入れた連中に言われる筋合いだけはないですな」
「私からは三つほど訴える事があります。
まず、我が国の捕虜ですが、オーストラリアにて強制使役されていると訊きます。停戦の暁には全員帰国させていただきたい。
次に、九州に不当に抑留されている我が国民を補償付きで返していただきたい。
最後に、日本国内にいる外国軍の即時全面撤退。以上です」
「噂に聞く強欲ですな、あなたの『個人的な願望』は承わりました。まあ、あとは外交屋の領分になるでしょうかね」
「でしょうな。どのような形になるのかは解りませんが、賢明な判断ができるといいですな」
●ぎゆうぐん
■ジューコフ、白石海斗
▲東・敦賀
敦賀はその時、喧噪を極めていた。山岳地帯から、その間を縫うように走っている道路沿いに、防衛陣地が構築されているのだ。工兵隊の機材だけではなく、民間の土木工作機械も動員し、兵士たちも上半身裸でモッコを担ぎ、鉢巻きをしてゲートル姿のそれは、労働者ともはや変わらない。
土煙と機械の音が満ちるその場所で、大日本帝国陸軍の白石海斗中将(7月付けで昇進)は、外国人の相手をしていた。
いかつい顔つきをし、7月の暑熱の中でもきちんと制帽を被り、軍服の襟まできっちりととめた外国人、即ちゲオルギー・コンスタンチノヴィチ・ジューコフ大将…ロシア連邦・抗米救日義勇軍副司令官は、副官から受け取った書類を手に、前線を見回っている。
日露の軍首脳部の決定により、大日本帝国の最前線、敦賀の防衛主力は、日本に到着したばかりのロシア義勇軍が主力となることが決まっていた。もっとも危険な…と当初は思われていた…地帯に派遣されることは誰もが望んだことではなかったが、「この戦争は短期決戦」「祖国の、枢軸陣営における立場向上のために、可能ならば独義勇軍が到着するまでに戦功をあげる」「そのためには、ロシア義勇軍がすりつぶされても構わない」という明確な上層部の意向を受けて、ジューコフが志願した結果だった。
ジューコフは国外でこそ名前を知られていなかったが、「必要な時に必要なものを準備でき、必要な結果をあげられる。いかなる犠牲を払っても」という評価を得ている軍人として、日本戦線にたつには相応しい男であったかも知れない。
「コハマ方面は比較的重深があるが、ここシガは主要道そのままで下がる余地がない。このヒキタが最終防衛線として…」
と、ジューコフは手にした地図を白石に指し示した。
「ヒキタにいたるラインは三本。道が整備されている順に、疋田―追分―駄口―山中、疋田―新道―沓掛、疋田―杉箸―柳ヶ瀬だ。縦深がない分、歩兵たちの頼りになるのは、塹壕と鉄条網と地雷、それに砲兵隊しかない。いずれにしても…」
そう言いながら、彼は手にした地図を丸め始めた。
「敵の攻撃を凌ぐのは、歩兵の根気だ。地味でもな。そうは思わないかね?」
「歩兵の本領、と言う歌が我が軍にはあります。機甲兵力が陸軍の主力と言われると、未だに違和感があるほどです」
白石は、やや意表をつかれた様子だったが、流ちょうなロシア語で答えた。一時期、帝国陸軍の仮想敵国がソ連だったこともあって、今でも上級将校にはロシア語を話される人材がそれなりに豊富だった。白石が露軍の相手を務めているのも、その地をよく知っている前線指揮官だから…という理由の他に、そういう訳もあったのかもしれない。
「ふむ、我が軍では『砲兵こそ、戦場の神だ』と言うのだがね。何にせよ、判っているのなら結構なことだ」
白石が驚いたのは、ジューコフが初めての戦場なのにもかかわらず、事前情報(地図などは帝国陸軍から提供されているとは言え)だけで、的確かつ詳細な防衛プランを練り上げていたことだった。ロシア軍は、かつて独第三帝国に破れたソ連軍の末裔。その軍事力には疑問符が…とは良く聞かれる論だが、実際は世界でも最高峰の実力を備えているのではないか。白石は、そう思った。
「これをどうぞ」
額から汗を吹いている白石に、ジューコフの副官がハンカチを差し出した。思わず受け取ってしまった彼は、その副官に視線を集中しないよう、意識して努力しなければならなかった。女性の副官は、白石にしても初めての存在だったのだ。
やがて、我が軍でもこういう形の「男女平等」が実現するのだろうか。だとしても、私が引退した後にして欲しいものだ、と彼は汗を吹きながら思った。
●しずかなるごごのひととき
■八原博道
▲西・長浜
大きな公会堂。夏の午後、蒸し暑さが充満しているそこはまた、人間の熱気にも満ちていた。「戦意高揚」を名目に、映画が兵士たちのために上映されているのだ。
苛烈な撤退戦、激しい上陸戦から機動戦を終えて、この月、大日本国…連合国の将兵は、敵軍の反撃に備えながらも、一時の休息を取る余裕を取り戻していた。名古屋を放棄する代わりに、木曽三川〜関ヶ原〜敦賀〜小浜の防衛適地に、堅固な防衛陣を引く。最初は「イノウエ・ライン」と呼ばれるそれは、現在は「クレージー・ライン」という通称の方が有名だった。
その名の由来は、この防衛ラインの話を聞いた英軍将校が、「おお、ナゴヤを何もナシで放棄するとは、何とクレージー!」と叫び、それを聞いた滋賀=敦賀ラインを担当してる大日本国・第2方面軍司令官、八原博道が「確かにクレージーだ」と冷静に眉筋一つ動かさず返したから、その名が広まった…と言われている。そんな謹厳な八原には珍しく、この上映会に参加していた。
もっともそれは、部下が強制した一時休息だった。防衛陣地の構築、部隊のローテーション、同盟軍や航空部隊との連絡強化、そして敵軍の動向の偵察・情報分析。
そんな中でも八原の能力は発揮された。特に琵琶湖の水上交通路を活用したのは、特筆に値するだろう。そのおかげもあって、滋賀の防衛体制の確立は急速に進んだ。
また、同時に情報分析も進み、皮肉なことに敵軍も連合軍の進撃を恐れ、今月は防衛体制の確立に意を用いていることが判明している。もっとも、連合軍が現在もっとも恐れている敵の同盟軍は、着々と日本に到着していた。ロシア義勇軍はすでに三個師団、敦賀に布陣しつつあり、本命たるドイツ義勇軍も空挺師団の到着を皮切りに、武装親衛隊の大部隊が新潟に到着しつつあった。さらに、国防軍の装甲部隊が複数師団、ウラジオストックで渡海を待っているとらしい。
スクリーンの中で、巨大な原子力怪獣が咆吼する。大阪城を挟んで、巨大なもう一匹の怪獣との決戦が始まろうとしていた。おいおい、大阪が舞台だなんて、政府への皮肉か? ああそうか、この映画の作成時には、まだ敵軍の大阪籠城は起こっていなかったんだ。
映画上映も、兵士の疲労・指揮回復のための一手段だったが、忙しい八原までがそれに絡め取られたのは皮肉なことだったのかも知れない。しかし、それは今後へのプラスとなるだろう。大日本国一の知将は、暗闇の中でとりとめもなく、思考を巡らせていた…。
●第二次バトル・オブ・ツルガ
■大宮宗一郎、太田幸之助、葵角名
▲富山
東日本がドイツから導入した新型AAM、『ウロボロス』。
数で勝る西側に対抗するための切札として大いに期待が持たれていたが、だからと言ってライセンス生産が始まったばかりの「新兵器」をテストもせずいきなり実戦投入するほど、航空作戦本部は……少なくとも第105戦闘飛行隊第3中隊長大宮宗一郎少佐は……無謀ではない。無論、ドイツでは充分なテストを経て実戦配備されているわけだが、ドイツと日本では何もかもが違う。
テストの結果、(基礎となる技術力の差により劣化コピーとなった点を差し引いても)ドイツ人は都合の悪いことは説明していないと判明する。
赤外線誘導が必然的に持つ限界についてはドイツ人も隠しはしなかったが、彼らが触れなかった機動性の問題が無視できるものではなかったのである。
ミサイルは、小回りが利かない。爆撃機を葬るには充分だが、俊敏な戦闘機が相手だと必中とは行かないのである。そもそも、発射の機会を得られないことさえままある。
尤も、それらの短所を割り引いても、充分以上に価値があると認められたが。
第105戦闘飛行隊の仕事は、テストだけではない。義勇航空隊と連携して防空を行うことこそが本務である。
その点において、留学経験のある太田幸之助大尉や、
「国を守るのに海も陸も、日本人も外人もない」
と合理的に割り切った性格を持つ大宮を擁する第105戦闘飛行隊はうってつけであった。
これらのことが出来たのは、今月の上旬は戦闘がなかったことによる。
だが、ジューコフ率いるロシア義勇軍が敦賀に展開すると、西側は急に活動を始めた。
その迎撃に上がる前、大宮は、補充されたばかりの新しい部下達に、こう訓示している。
「前の戦争において、俺は特攻で大勢の戦友を失った」
呟くように語る大宮の瞳には、拭い得ない悔恨の色があった。
「知っての通り、特攻は強制ではなかった。少なくとも、俺のいた部隊ではそうだった。
だが、あの時に可能だった選択は、『特攻で死ぬか、否か』じゃない。いずれにせよ死が確定した未来としてあり、『敵を道連れに今死ぬか、死ぬより辛い目を味わい尽くして死ぬか』だったんだ。
そして、『辛く苦しく惨めに死ぬくらいなら、せめて苦しまずにさっさと死ぬ』道を選択した連中を、俺は止められなかった。口では『のたうち回ってでも頑張ってさえいれば、戦争が終わって生き残れるかも知れないじゃないか』と言いつつ、生きてる間に戦争が終わることを俺自身が信じていなかったんだからな。説得力がなくて当たり前だ」
握り締めた拳が、僅かに震える。
そこに篭もっている感情は、純粋な怒り。糾弾の対象とされているのは、大宮自身。
「……だが、今なら心の底から言える。死ぬな。俺は言い続ける。死ぬな。何度でも言うぞ。死ぬな。
おまえらが死んだら誰が愛する人を守るんだ? みっともなくても生きて全員帰ってくるんだぞ」
人間が消耗品扱いされる『戦争』という状況にあって、ここだけは、そうではなかった。
☆
葵角名と第501偵察飛行隊の部下達は、若狭湾上空を扇を描くように飛んでいる。
制空隊の投入、それに続く爆撃。西側の次の一手は何か? 先に阻止した敦賀降下同様に、しかし今度は優勢な海軍力を活用した上陸作戦により、包囲殲滅を試みるのか。あるいは、堅実に前進してくるのか。
セクショナリズムへの対応を急ぐあまり自らがセクショナリズムを発揮している感が無きにしも非ずとは言え、航空作戦本部は無能ではない。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」の原則は十二分に理解している。偵察には充分な人員と機材が割かれる。
だが。存在しない敵は見付かるわけはない。
「どうなっているんだ? 西の奴らは何を考えている?」
敦賀一帯の戦いに、西側が空母機まで投入していることは確認されている。しかし、そこまでしていながら、上陸作戦の気配はないし、陸路で進撃して来るでもない。そうこうするうちに、空戦もしりすぼみになる。
西側の意図は全く不明であったが、恐らくは消耗を強いる牽制攻撃の類であろうと推定された。ズルズルと小競り合いが続くのは、補充に劣る枢軸側に好ましいことではないからである。
今月の戦いへの東日本の評価は、大宮らが(と言っても、苦労したのは例によって太田だが。そろそろ過労死しかねない)まとめた前月からの実戦データや戦訓が、各地の光電パイロットの訓練に役立ったことも含めて、「辛うじて引き分け」。
味方支配地域での交戦につき撃破されても脱出できれば助かるという要素が大きかった。喪失機数はこちらの方が多かったが、機体は失ってもまた作れば良い。それを駆る人員の犠牲は少なかったのだから、敗北ではない(国力の差を考えると、その程度のスコアでは駄目なのであるが)。
尤も、それは受けの利があってのこと。攻勢に出た場合はどうなるか、甚だ心許なかった。
●海峡封鎖
■加藤源五
▲佐世保
「これである程度の抑止力にはなるだろう」
西日本海軍第一地方隊司令・加藤源五大佐は満足げに呟いた。2ヶ月間を費やして敷設が続けられてきた対馬海峡機雷堰が一応の完成を見て、たった今朝鮮海峡から戻ったところである。
今後は東日本海軍潜水艦のみならず、独Uボート部隊の大規模な攻撃も予想される。連合国海軍は強大な外洋艦隊を有してはいるが、その能力は無限ではない。縁の下でそれを支える加藤の沿岸部隊が果たすべき役割は大きかった。
「無論、これで万全ではないが」
機雷堰は敵潜の突破をある程度抑止することは出来るが、その防御力は完全なものではない。彼の提言によって生産された対潜哨戒機<新星改>の部隊編成も進めなければならない。ここからが正念場であった。
●うまれかわり?
■パットン三世、ハンニバル・スミス
▲西・賤ヶ岳
「うーん、これだけはやめられないなあ」
グラスに注がれたワインを、男は口に運んだ。彼の名前は、ジョージ・スミス・パットン三世。アメリカ陸軍の有名人だったパットン二世は、彼の父親にあたる。
もともと、裕福な南部の出身だったパットン家だが、父は戦野にある時は兵士たちと同じものを食べ、決して贅沢をしようとはしなかった…と言われている。息子たるパットン三世も当然それにならっていたのだが、戦場においてもワインを嗜むことだけはやめられなかった。
「しかし、無断で師団の移動を行って大丈夫だったでしょうか?」
パットンにワインを注ぎながら話題をふったのは、白髪の知的な軍人だった。彼、ジョン・ハンニバル・スミスは、あれこれあって一度は軍から追われる身だったのを、パットン父に救われてから、ほとんど執事のようにしてパットン父、そして息子に使えてきた男だった。作戦面にも堪能で、いわばパットン家の私設軍師格…というところだろうか。
ハンニバル・スミスが指摘したのは、パットン三世が、自身の指揮するアメリカ第7戦車師団の配置を、当初命令されていた余呉〜木之本間から、賤ヶ岳の手前の木之本町を中心とした配置に、無断で変更した件だった。
「ああ、大丈夫大丈夫。今の配置の方が、東からでも西からでも、敵が攻撃してきた時に対応しやすい…というのは、あらかじめ作戦会議の時に強調して、いざとなったら配置を変えます…って、その時に口頭で言ってあるから」
妙に軽い口調なパットン三世だが、彼はこれでも父も成し遂げられなかった「戦車による機甲突破」をやってのけ、連合軍上陸戦以来活躍してきた戦車将校である。三世ともなると、諸事軽くなるのは何かの伝統なのだろうか?
「そう言えば、親父が『自分はハンニバルの生まれ変わりだ』って言っていたなあ」
パットン三世は、ハンニバル・スミスにそう語りかけた。彼のミドルネーム(実際はあだ名なのだが)から思いついたらしい。
「そうすると、さしずめオレは、敵のいないところにするりと忍び込んで勝利を盗む。怪盗ルパンの生まれ変わりかしら」
「将軍、ルパンは架空の人物ですよ」
呆れたような口調のハンニバル・スミスにそう指摘されると、何がおかしかったのか、げはは…と機嫌良さそうにパットン三世は笑い声をあげたのだった。
●きゅうそく
■猪狩長一
▲東・富山
食堂は喧噪を極めていた。一日の仕事が終わったあと、兵士たちのささやかな楽しみとしての、無礼講が行われていたのだ。皿を叩くもの、歌をうたうもの、そして殴り合うもの(笑)。
そんな中に姿を表したのは、猪狩長一。もと大日本帝国・第三師団の師団長代理。現・戦闘団“泉”の指揮官である。
「おお、ちょーさんがお見えになったぞ!」
おおぅ〜、と広い食堂(工場の倉庫を利用しているもの)に兵士たちの声が響いた。第三師団の将兵を中心に編成された(編成途中の)戦闘団“泉”では、長く苦しい撤退戦を師団長に代わって指揮し、生還させた猪狩に対して、信仰に近い感情を持っていた。
西日本軍の反撃によって、激しく戦力を消耗した帝国陸軍は、優先的に撤退させた戦車師団、機動歩兵師団3個を中心とし、全力で戦力の再建を図っていた。その一環として…と言うよりは、あおりを受けてと言うべきか…歩兵師団たる第一師団、第三師団の統合も実施されている。
師団数が多いと維持に国力がかかるから…という理由の統合だったが、猪狩らはこれに反対だった。もともと、師団と言っても、戦闘力となる人員は三分の一ほどだ。それ以外の人員は、一通りの訓練を受けているといっても「事務員」だったり、「労働者」であったりするだけである。
戦闘員のすり減った師団を併せても、「事務員さん達に銃を持たせる」「経験を積んだ後方勤務員が、一個師団分消滅する」になるに過ぎない。それくらいなら、根幹となる後方勤務部に戦闘員を補充する方が早く戦力再建になる。
もちろん、これには事実上第一師団に統合される第三師団を救いたい、という個人的感情があったこともいなめない。しかし、それを除いても、彼らにとって納得しがたい決定ではあった。
幸い、第三師団の歩兵部隊を中心に、戦車・砲兵・偵察関係の部隊を集成した旅団規模の「戦闘団」を残すことが出来た。最近、ドイツ陸軍などでも「師団の中で増強した旅団を戦闘団として運用する」という形が多いので、それにならった…と言えなくはない。もっとも、師団内で、その補給と火力の支援を受けながら運用する戦闘団と違うので、一度激戦地に投入したら「それで終わり」になってしまいそうではあるが。
兵士たちは、猪狩の音頭で歌をうたいだした。海軍の軍歌の替え歌らしいのが、この部隊らしいのだが。
「夜だぁ八時だぁ〜我らの時間ぁん〜…第三、第三師団の大戦果ぁ〜」
兵士たちと合唱しながら、猪狩の歪んだ唇は笑顔と言えそうな表情を浮かべていた。
●くんれん
■小野田寛郎・島田庄一
▲敦賀
「いいか、ゲリラ戦の要諦はな、ここだ」
そういって小野田寛郎は、胸を叩いた。
「心だ。魂と言ってもいい。大和魂だ」
もっとも、メリケン人にもメリケン魂、ロスケにはロスケ魂があるから、油断はできんがな。そう付け加えて。小野田寛郎は部下の笑いを誘った。大日本帝国の歩兵中隊長だった小野田は、所属していた第三師団の再編成に伴い戦闘団“泉”に配属されていたが、自らの経験…中野学校卒業で、ゲリラ戦の達人…を生かすべく、ゲリラ戦を主体とする精鋭部隊の創立を上層部に直談判していた。
戦前から行っていた運動はようやく実って、師団の再編成を機会に、彼はあちこちの部隊から選抜した兵士たち(将来の事を考えて、下士官が多かった)の訓練を開始していたのである。
「まず、山野を突破するためには、装備が大事だ。ゲートルは意外と役に立たない」
小野田の講義は続く。彼の講義は、精神論から始まって、装備や行軍の仕方、偵察の仕方、サバイバル術まで多岐に渡った。座学が終わったら今度は山野で訓練が始まる。
「いやはや、教える方も大変で…」
「なに、敵と戦うよりはずっと楽だ。何十年も前線にいるわけでもないしな」
山に向かって出発してゆく部下たちを見送りながら、小野田は答えた。彼に話しかけたのは、小野田の講義を細かく記録している島田庄一である。
「こうなると、部隊名がいりますな」
「部隊名?」
「士気を高めるために、私らの“組”の名前が必要かと」
小野田は、しばらく天を仰いでいたが、やがてぼつりと呟いた。
「月光、はどうだ」
「月光?」
「そう、朧な月の光。決して、陽光のように目立たず、しかし照らすものは照らす」
ちょっとキザかな? そう言って小野田は頭をかいた。島田は、我が意を得たり、という感じで頷いた。
「いいじゃないですか、“月光”。早速皆に伝えましょう」
戦中戦後、小野田のゲリラ戦部隊は進化しつつ、『特殊部隊“月光”』として、活躍の場を広げてゆくこととなる。小野田は、「大日本帝国における特殊部隊の創設者」として、その名を残す。
●フリート・イン・ビーイング
■貝塚武男 阿部俊雄
▲若狭沖
「1艦隊、2艦隊、離れます」
空母<播磨>艦上の第3艦隊司令長官貝塚武男中将は頷いた。
「壮観だな」
若狭湾岸で戦う陸軍を支援すべく、東日本海軍は聯合艦隊の主力である第1、第2、第3艦隊の全てを投入している。先に勝利を収めた山陰沖海戦以上の戦力集中だ。最先任艦隊司令長官の肩書きを与えられている貝塚はその全てを指揮下に置いており、こと実戦面では事実上の聯合艦隊司令長官といっても良い。
陸海軍の不仲が未だに強い東日本軍にあり、海軍の主力を全て陸軍の支援に「差し出す」と言う決定には不満もあった。
「こんな時に陸軍だ海軍だ言ってる場合か! 男の意地を見せろ!」
しかし貝塚のこの一喝により、少なくとも表立って不平をもらすものは艦隊首脳部にはいない。海軍士官、艦隊司令官としては穏やか過ぎる言われる貝塚の珍しく強い言葉に、多くのものたちは何がしかの決意を感じ取っていた。
「阿部君に周囲の警戒をよろしくと伝えてくれ」
「連中の分もしっかり働けよ」
第8戦隊司令官阿部俊雄少将は言った。
第3艦隊の空母群は、今の東日本海軍にとって宝玉よりも貴重な存在だった。その至宝の最後の盾になるのが彼の部隊だ。
「周辺警戒厳にせよ」
なかなか戦隊の力を振るう部隊に恵まれず、太平洋岸での艦砲射撃という冒険的な作戦を提案したりもした阿部だが、与えられた仕事に手抜きは無い。
戦意に不足は無いが、日本海に置ける状況も日に日に厳しくなってくる。この地上支援作戦もどれだけ予定通りに進められるか……。
「3F旗艦より入電」
電文綴りを受け取った通信参謀がざっと目を通し、顔をしかめる。
「司令官、どうもうまくないことになりそうです」
「どうした」
「連合軍の艦隊です、予想以上の規模のようで」
●オーバー・ザ・ホライズン
■アーレイ・アルバート・バーク 有賀幸作 土方龍 伊藤祥 藤堂明
▲山陰沖
「今回は間違いはない」
一堂に会したC統合任務部隊第3群、すなわち西日本海軍主力艦隊を率いる有賀幸作中将は決意も新たに言った。
山陰沖海戦の時は哨戒網の隙、そして主力と前衛の距離を突かれ、東日本海軍に主導権を握られ、貴重な艦艇を失ってしまった。しかし今回は手抜かりは無い。
この海域の連合国海軍の戦力は東日本海軍のそれを大きく上回り、それが万全の哨戒網を敷いている。戦艦部隊は突出せずに直衛に当たり、槍の役割はあくまで空母艦載機が担う。彼らにそれを掻い潜る力は無いはずだ。
東日本海軍の妨害を退け、近畿地方への航空攻撃、地上支援を成功させて見せる。今度こそ失敗は許されない。
有賀は数キロ先を航行する2隻の戦艦を眺めやった。
戦艦<大和>艦長土方龍少将もまた、有賀と思いを同じくしていた。
先の海戦における悪夢のような夜戦。彼の<大和>は軽傷で済んだが、今損傷をおして後続する<甲斐>、朝鮮へ向かった<アイオワ>は大損害を受け、<イリノイ>は失われた。あれをもう一度繰り返すつもりはさらさら無い。
東日本海軍が今回も出撃してくるかもしれないが、しかしこの布陣の前に前回と同じ手は通じない。彼らが後退すればそれでよし。もう一度甘い夢を見ようというのなら、教育してやればよいのだ。
今回は対地航空攻撃がメインであるから戦艦部隊の出番は無いかもしれない。と言うより作戦上そのほうが望ましいのが、鉄砲屋としては残念なところではあるが……。
「艦長、お手紙が着ております」
「うん」
副官の水野少佐が封筒を差し出ながら、自分宛の手紙を小脇に挟む。差出人は水野蓉子、確か娘の名前だったはずだ。女学園の生徒で、今は熊本の分校にいるらしい。
「この戦争がうまくいって、君の娘も東京の本校に戻れるといいのだがね? 水野少佐」
駆逐艦<山百合>艦長伊藤祥中佐は当直士官に叩き起こされた。
作戦開始からずっと艦橋に詰めており、2時間だけ仮眠を取ろうと思ったのだが、まだ30分も経っていなかった。
駆逐艦部隊による対潜哨戒も、空母艦載機による対地支援も、仮眠に入った段階では全く順調だったはずだ。
「潜水艦か?」
問いながら、自身の中でそれを否定する。潜水艦だったらこんな呑気な空気ではない。
「いえ、艦隊司令部から通報です。敵艦隊が若狭湾に侵入を企てていると」
「触接を維持しろ」
C統合任務部隊第2群司令官アーレイ・アルバート・バーク中将は命じた。
彼の指揮下に有る連合軍艦隊の航空戦力は、近畿地方への攻撃を行いつつ、若狭湾の制空権を掌握していた。その哨戒網は東日本海軍艦隊の侵入を余裕を持って察知している。
「地上支援から一時、敵艦隊への警戒にシフトせよ」
バークは幕僚に指示を出しながら、シチュエーションボードを俯瞰した。続報を受け取り、整理する。
連中の作戦目的もこちらと同じ対地支援のはずだ。しかしこの先行している部隊は、距離から見て支援に当たる空母部隊のスクリーンではない……艦砲射撃部隊だろうか。現状での突入は無謀だ。東日本海軍が艦隊をここで使い潰すとは思えない、何かのブラフか?
「このまま遮二無二突っ込んでくるとも思えんが、一応攻撃計画を準備しておけ」
本来の任務である地上支援をいきなり止めるわけにはいかないが、敵水上部隊がこちらを牽制しようと言うのなら追い返さなければならないし、刺し違えようというのならこちらも本腰を入れなければならない。
「今度は不発か」
戦艦<尾張>艦長藤堂明大佐は呉の岸壁で呟いた。手には電文綴りが握られている。
彼の艦は、所属するA統合任務部隊の大半と共に、整備補修のため呉に入港していた。
「土方少将は残念がってるかもしれんな」
結局、東日本海軍水上部隊は、連合軍の反応とそこから推定される戦力の前に、突入を断念して後退して行った。作戦中に中継された内容では、すわ戦艦砲戦か、と一時は思われたのだが、敵も山陰沖海戦を攻守入れ替えて再現するのは願い下げだったのだろう。
「次に水上砲戦の機会があったら、最初から参加したいものだな」
●しゃっきんのかた
■横井庄一
▲東・敦賀
「はあ、これでありますか」
地元の蔵元に呼ばれて駆けつけたのは、大日本帝国陸軍、戦闘団“泉”所属、輜重兵の横井庄一総長だった。そこには、巨大な戦車…T34と言うらしい…が乗り捨てられている。
困った顔の従業員に話を聞くと、どうやら酒を求めてやってきた同盟軍、ロシアの兵隊たちが、その場で飲んで、また酒を持って帰ろうとしたのは良いが、手持ちの金が足りず、「お題の足しに」と戦車を置いていったらしいのだ。
話を聞いた横井は、頭を抱えた。ひょっとすると、事の起こりは彼のせいだったのかも知れないのである。
もともと、手八丁口八丁、輜重兵としては有能すぎるきらいのある彼は、部隊の再編成に伴い、その手腕を見込まれて同盟軍に「友好を深めるため」派遣される羽目になったのだ。要は、「お前の手管で、言葉もわからぬ外国に送り込まれた兵士たちを懐柔しろ」と命令されたのである。
最初は青くなったり赤くなったりした横井だが、あちこちでロシア人と付き合いのある連中に話を聞いて、活路を見いだした。ロシア人は無類の酒好き。しかも、蒸留酒を好むという。幸い、北陸は日本有数の酒どころ。これを利用しない手はないのでは!?
かくて走りまわった彼が大量に仕入れたのが、焼酎だった。
彼の「心遣い」は大好評で、日本人との距離も縮まり、彼は面目を施した、のだったが、味を占めたロシア軍兵士たちが、思わぬ行動を起こしてくれた、というわけだった。
「すいません、まずはこれで。後で必ず、現金を届けます」
受け取りを押しつけた彼は、無線で連絡し、どこからともなく現れた回収車(戦車の車体にクレーンを取り付けたもの)で、ロシア軍の戦車を運び出した。しかし、飲んべえが多いと聞いていたが、戦車で乗り付けて、戦車で飲み代を払うとは! 自分は、想像を超える相手とつきあわないと行けないのかも知れない。
悩ましい表情となった彼を、やがて赤い顔に人の言い笑顔を浮かべたスラブ人だちが出迎えてくれる。手に手に、酒の入ったコップをかかげながら。
●枢軸の絆
■モンティナ・マックス、イヴァーン・ヌィクィートヴィチ・コジェドゥーブ
▲小松
独露義勇航空隊司令部は小松に移動している。陣頭指揮と言えば聞こえは良いが、必要以上に日本政府の干渉を受ける新潟を避けた、と言った方が本音に近い。彼らは結局のところ、誰が権限を握り何を目指しているのか曖昧な日本政府を信頼していないのである。特にロシア空軍など、本隊を後方の富山に残して司令部だけ差し出しているのだから、陣頭指揮などという次元の話ではない。
これで爆撃を受けて司令部全滅とでもなったら爆笑もののジョークだが、そうはならなかった。西側は敦賀方面で航空攻勢をかけたが、それは徹底されないまま終わったからである。
義勇航空隊として見れば、「地上部隊主力が到着するまで、反攻の拠点となる敦賀を維持する」という戦略目的を達成できたのだから、勝利だとも言える。しかしそれは、西側が不可解に手を緩めたからそうなっただけの結果論に過ぎない。客観的には、負けに近い引き分けであろう(東日本より余裕があるのは、戦略的な状況の差である)。
義勇航空隊を仕切るのは、ドイツのモンティナ・マックス、ロシアのイヴァーン・ヌィクィートヴィチ・コジェドゥーブという二人の空軍少将である。
敦賀航空戦が下火になったのを受けて、マックスは嘯く。
「残念だな。折角連れて来たのに、今月も爆撃はお預けか」
人を焼くことを趣味とする、マックスならではの言葉。ジョークでも何でもなく、本気で残念がっている
コジェドゥーブは表情を変えない。ミステリアスなこの人物が、絵に描いたように流麗なアルカイック・スマイルを崩すことは滅多にない。ただ静かに、今のうちに補給を急ぐよう本国へ要請するだけである。
いずれにしても、「戦略目的は敦賀の維持。西側が退いたのなら、深追いはしない」という前提での態度である。何を考えているのか解らない二人だが、判断は的確であった。
「……で、これからどうするのかね?」
コジェドゥーブの問いに、マックスは平然と応じる。
「そろそろ爆撃機を一働きさせてみたいな。人間のウェルダンはいくら見ても飽きることはない」
「すると、対艦飽和攻撃か?」
「米国の船は良い色で燃えるから、それも好きだがね。しかし、今陸上で前進しておかないと、戦争を有利な形で終わらせる方法がなくなるのじゃないかな。一つのことを除いては」
第三次大戦末期、北米大西洋岸の各地でその「一つのこと」を実行した経歴を持つマックスは、むしろそうなって欲しいと言わんばかりに薄笑った。
尤も、ウオーモンガーどころかバトルジャンキーですらない、単に殺人狂なマックスだが、それ故にこそ「効率的に人を殺すにはどうすれば良いか」弁えている。軍略の基礎を無視して趣味に走ったりはしない。
「まあ確かに、敵空母を叩いておかないと、無理に前進しても後方連絡線を断たれるだけだがね。その辺りは考えどころだな」
「対艦攻撃と地上支援を両立させる戦力はないな。何とか増援を引っ張れないか?」
「ケッセルリンクは、第三帝国の採るべき道を理解している。ガラントも、切札の降下猟兵を送って来る以上は、むざむざ負けるつもりはない筈だ」
ガーランドの名をあえてドイツ式に発音するところに、底意がある。マックスにとって、「私の忠誠はドイツ国家にある」……裏返せば、「ナチスに魂を売った覚えはない」……と公言するガーランドは、SSの黒服を着ていた頃も、今も、相容れる存在ではない。
「だが、兵站の問題を考えると急には無理、ということかね」
コジェドゥーブが頷いてみせる。
例えば、燃料一つとっても、インドネシアからタンカーで運んで来て精製すれば良い西と、シベリア鉄道を用いねばならない東では、輸送効率は互角ではない。
「だから、ドイツはロシアにも『ウロボロス』を供与してくれたのだね。ドイツ軍機を充分に出せないなら、ロシア軍を底上げすれば良い」
経歴不詳に近いコジェドゥーブだが、ロシア空軍における航空戦の第一人者という評価にはひとかけらの偽りもない。判断は的確である。
「そうだ。欲しかったのだろう? その分、働いてもらうよ」
マックスは、眼鏡の位置を直しながら宣言した。この太った小男にとって、イワンなど……全ての生けとし生ける者は、と言うべきか……弾除けでしかない。
(出してくるということは、もっと進歩したものを開発したので、「これはもうロシア人に見られても構わない」ということだな)
無論、そんな知れきったことをわざわざ口に出すコジェドゥーブではない。代わりにこう言う。
「まあ、負けるわけにはいかないからな」
そして、コジェドゥーブの本音に気付かないマックスでもない。
「うむ。日本人がバーターで提供したトランジスタ技術程度には頑張ってくれたまえ」
……なお、実際にドイツが自信を持っていたのは、次期AAMそのものよりも、むしろそれを運用するプラットホームの方だったことをコジェドゥーブが知るのは、もう少し先の話になる。
☆
その頃、ベルリンでは、一枚の書類を前にしたドイツ空軍総司令官アルベルト・ケッセルリンクが驚くと言うよりむしろ呆れていた。
「……全く、あの男は。『実験航空隊長アドルフ・ガーランド』として上申し、『航空大臣アドルフ・ガーランド』として裁可する……無茶苦茶じゃないか」
尤も、問題なのはそのことではない。書類の内容である。
その名の通り開発途上の新型機を試験する実験航空隊は、任務の性質上ベテランばかりが集められている。そして勿論、名目上とは言え未だ現役で隊長を兼務していることで分かる通り、ガーランドに傾倒する者の集団でもある。
それを全部引き抜いて、日本に投入するというのが、ガーランドの計画だった。無論、兵站の問題があるから、来月(第四ターン)の戦闘には間に合わないけれども。
しかも持って行くのは、最新鋭超音速戦闘機、Me1110『ウルクハイ』。配備が始まったばかりの……従って、実験航空隊以外には満足に乗りこなした経験を持つ者がいない……掛け値なしの最新鋭、問題なく世界最強の代物である。
所謂「皇帝派」としてSSらと足並みを揃えるケッセルリンクにとって、ガーランド(及び彼と結ぶクルト・シュトゥデント)は空軍を二分する政的である。陸軍の強引な極東派兵に続き、彼がなりふり構わず武功を上げにきたのは、「皇帝派」としてはあまり喜ばしいことではない。が。
「……まあ良い。今大事なのは、アメリカに『負けない』ことだ」
第三帝国の進むべき道は一つしかないのだ。ここでガーランドと実験航空隊が多少活躍したところで、大きな流れに逆らえる筈もない……ケッセルリンクはそう楽観していた。
●はかまいり
■瀬島龍三
▲東・富山
男は、立派な墓石の前にたたずんでいた。建立は戦争直後だったらしく、それなりにツヤを失っているから、混乱期に立てられたことを考えれば、裕福な家が立てたものだろう。
その墓石の後ろには、“瀬島龍三”なる名前が刻んであった。まさに今、その前に立っている男の名前である。瀬島は、第二次大戦後の混乱期に、ひょんなことから秘密にドイツに渡り、最近ようやく「武装親衛隊」の指揮官として帰国を果たしていた。墓はその時期に、彼が死んだものと思った家族が立てたものだった。
現在、外国の義勇軍との交渉・交流のため、民間人も含めたロシア語・ドイツ語を使える人間の確保に走っている瀬島が、ほんの少しの暇に帰郷した時に見つけたものは、自分の墓だった…というわけである。
「…もうこれで、墓の心配は一生しなくて済むわけか」
瀬島は、妙に明るい表情でそう呟いた。風が、彼の上着をひらめかせた。
●くじらとりとはなび
■加藤友安・範馬蛮
▲東・北陸の海岸で
「あれは何をやっているんだ?」
双眼鏡を覗いた兵士が呟いた。そこは砲兵部隊の観測所。大日本帝国の第三師団から、戦闘団“泉”に再編成された彼らは、加藤友安少佐の指揮の下、訓練に励んでいた。そんな中、海を見ていた兵士が、何かを見つけたらしい。
「…猟のようだな。かなり大規模な」
つられて双眼鏡を覗いた加藤が答える。しかし、目のいい彼も、そこで狩りをしている男たちが自軍の兵士たちであることに気づくことはなかったのである。
☆
船たちは、海の中の巨大な黒い影を取り囲んでいた。騒がしく舷側やオールが鳴らされる。どうやら、ザトウクジラらしい黒い影は、少しずつ海岸際に追いやられていた。
周囲の船から銛が飛び、海が赤く染まり、次第にクジラは活力を失ってゆく。
そんなクジラに、一艘の船が近づいていった。その舳先に立っているのは、褌一丁の男。大日本帝国陸軍伍長、範馬蛮である。
「!」
声なき声をあげ、範馬は海に飛び込んだ。声が上げられないのは、巨大な刃物を口にくわえていたからだ。抜き手を切って泳いだ彼は、恐れげもなくクジラに取り付いてゆく。
周囲の船から上がっていた喊声が止み、波の音ととクジラの息づかいが、あたりを支配する。まさにその息づかい、背中に開いた鼻孔に向かって、クジラにまたがった範馬が、刃を振り下ろした。
☆
「なるほど、伍長殿は鯨取りの出身だったわけでありますか。道理で、体も鍛えられていたわけでありますな」
日も暮れた浜では、引き上げられたクジラが近所の衆の力を借りて解体され、たき火を囲んだ無礼講となっていた。火に炙られた肉の臭いが食欲をそそる。酒が振る舞われ、誰が兵士か猟師なのか、火に照らされた男たちの笑顔は、日に焼けて黒かった。
かけられた声には何も答えず、範馬は肉を喰らい、あおった。しかし、体にまとわりついた雰囲気は、先ほどの発言を否定してはいなかった。
第三師団の統合に伴い、訓練の名目で浜に繰り出した範馬らの部隊。海千山千、しかも地獄の戦場帰り。叱りつけられそうな(あるいはたしなめられそうな)猪狩や横井らは、東奔西走している。かくて、範馬らの訓練がここに絶好調を極める…と言うことになったわけである。
あるいは、戦場で受けた心の傷を癒すための、範馬の心遣いだったのかも知れないが、真相を知る者はどこにもいなかった…。
その時、何か轟音が響いた。はっと緊張する兵士たち…だが、宙に開いた大輪の花を見て、肩の力を抜く。それは花火だった。
☆
「たまや〜」
兵士が叫ぶ。迫撃砲が、音と共に何かをはき出した。ヒュルヒュルという音と共に宙に上がったそれは、炸裂して巨大な花火となる。夜間訓練の名目で、加藤が打ち上げさせたそれは、彼の実家から取り寄せた花火だった。浮かれ騒ぐ部下や、家から出てきた民間人たち。
そんな中で、加藤は一人頭を垂れていた。花火が開き、ビン底のような眼鏡、ちょび髭という彼の容ぼうが浮かび上がり、そして頭を光り輝かせる。時は旧盆。彼にとっては、それは鎮魂も兼ねた行為だったのかも知れない。
●飴と鞭
■貝塚修/高橋兼良/白洲次郎/永山時雄
▲名古屋、福岡
飴と鞭。古くより為政の基本と言われる術である。これを意図的に使い分けることで日本国は「大日本帝国領、濃尾地域」を飼いならそうとしていた。しかし、思い出すべきであろう。古来、不徹底な鞭と不十分な飴を持って大衆という獣を飼いならすことに失敗した権力者の数を。
日本国は失敗の事例に新たな項目を積み上げつつあった。
「貝塚局長、もう少し穏便にできないものかね」
中部からの撤収任務に抜擢された。高橋兼良中将は中部軍政局長に苦情を述べていた。
「穏便?これ以上なく穏便だが?」
「濃尾平野からの撤退は、上の方針だ。それに異議はない。しかし、やりすぎだよ。市街を焼夷弾で焼き払うからさっさと逃げろ?逆らう者は遠慮なく撃て?これでは只の弾圧だ」
「千葉からの撤退でインフラ網に罠を仕掛け、国民保護の名で人攫いをした君に言われる筋合いかね」
倣岸に言い放った貝塚の前に高橋は本戦争2度目の撤退戦を指揮させられる自分の不幸を心中で嘆いた。東の報道を聞けば大日本帝国にとっての脅威となる将軍として八原・武本の名は上がっても、自分の名は上がらない。回ってくるのはこうした汚名をかぶるものばかり。その上西日本が文民統制下にあり、敗将の報いであるとは言え、この前まで課長に過ぎなかった一回り年下の地方人に顎で使われていい気はしない。
「失礼ですが、命令は文書でいただけますかな、戦争犯罪で吊るされるのは御免ですので」
「よろしい、命が惜しいような者が将軍である限りこの国の軍隊は文民に指導されるだろうからな」
貝塚は一行で命令をしたためて署名をした。
『可能な限り人命に配慮しつつ、名古屋を地図から消せ
中部軍政局長 貝塚修』
貝塚の命令は徹底されなかった。どう言い繕おうと後退していく落ち目の軍隊に進んで従おうとする国民はいない。それは本土決戦の絶望で学んだ日本人の知恵であったし、増してここ十年は別の国であった軍隊だ。不服従以上の状況に陥る場合もしばしばであった。罵詈雑言・投石に始まって狙撃が加わるのに時間はそうかからなかった。
貝塚はこれにたいして生活基盤の徹底的な破壊による燻り出しを実行した。どうせ「捨てる」地域である以上壊せば壊すほどに相手にツケを押し付けられる。軍の維持に不用と考えられた部分から電気、水道が破壊され、農道・水田にまで地雷を仕掛け、陣地に可能な建物を破壊する名目で名古屋市内の学校・病院に至るまで全て爆破した。
攻撃への過剰反応の側面があったのは否めないが、これによって生活基盤を失った人々は難民として西の「指導」に従って退避するか、命からがら東軍支配地域へと逃れるより他無かった。貝塚はこれを人的資源の確保ができたとほくそえんだ。
☆
長い雨だった。激しくはないし、夏に気温が上がらないのはありがたかったが、非常な湿度は人を消耗させる。まして、故郷を追われ、後方に向かう民間人にとっては、さらに辛いことだったろう。
大日本国・第三方面軍司令官、高橋良兼は、部下の運転するジープに乗って移動していた。広くもない道路は名古屋からの避難民で溢れている。傘などさしている者はほとんどおらず、急場しのぎの雨合羽などを身に纏い、雨に耐え、徒で京都・大阪方面に移動しているのだ。
「…やりきれないな」
高橋が呟いた。さすがに、軍の移動・運送を夜に限定する処置が執られ、憲兵たちが交通整理を行い、いざとなれば軍が食料や医療の提供も行っていた。後方輸送の主力そのものは鈴鹿の関を越える関西本線による鉄道輸送が担っているが、関ヶ原越えで滋賀に入ろうとする民間人も、かなりの数に上っている。
恐るべき事に、軍内部には「この時期に、備蓄を民間人に放出することに対する懸念・反対」もあったが、現地指揮を総覧する高橋は、「軍の本義は、国民を護ることだ」との一言でそれをはねつけていた。
名古屋を放棄し、木曽三川〜関ヶ原〜敦賀〜小浜の防衛適地に、堅固な防衛陣を引く「クレージー・ライン」は、軍事的にはその通称に相応しくなく、後世の軍事史家の激賞を受ける決断だった。高橋は、その一環として関ヶ原から桑名までの防衛を担当していた。
彼は先月に引き続き、関ヶ原の陣地を進めると共に、麾下の第7師団(戦車)と英国の近衛戦車旅団で機動打撃部隊を編成。この部隊を、敵が北(関ヶ原)ないしは南(桑名)で大規模突破を図った場合は、『バックハンドブロウ』でこれを撃退するプランを立案している。もっとも、陣地構築までの時間を稼ぐために、もう一つのプランも準備せざるを得なかったのだが。
結果として、名古屋方面への敵の攻勢は行われなかったが、高橋には移動する民間人を保護しつつ、撤退してくる味方部隊(主として英連邦軍)を収容する、という困難な仕事が、まだ待ちかまえていたのだった。
「貝塚局長、貴方は大変なものを奪っている…」
高橋の、名古屋からの撤退・破壊工作を実行に移している男への独白は、空しく雨空に吸い込まれていった…。
☆
白州次郎は九州に疎開してきた企業家・労働団体の長たちを集めて演説をぶっていた。
「強制疎開というふざけた決定を、僕は絶対に支持しない。 戦略的な決定の前で素朴な正義感を振り回すなと者も居るが、
僕はそれが大切なものだと思っている。 もし西日本政府 が憎いなら、政府が無視できない程の会社を興せばいい。
幸か不幸か、この西日本に政府を左右できる程の大企業はない。 一から始めても、西日本の顔とも言える会社になるのは
そう難しい事じゃない。 そして、それだけの意欲を持っている会社をむざむざ西の果てで
錆付かせるなんて事を、経団連は、少なくとも僕は決してさせない」
この演説は大いに受けた。白州が政府からの距離を置いた立場をとったこと。経済人として現状で最大の合理性を生かすことを説いたことは大日本帝国・そして貝塚軍政下の中部地方では考えられないほどの自由だった。そしてそれに見合う対応を西日本政府は支払っていた。アメリカからの支援を全て彼らに割り当てて見舞金を出し、経団連からは無利子・無担保での特別融資を実行したのである。それ自体は非常に成功したといって良い。
しかし、失った工場が直に立ち直るわけではない。生産力の低下・米軍物資の削減・市場通貨の増大は相まって高度のインフレーションの兆しを見せ始めていた。
如何に日本が統制的な経済をとっているとはいえ、このままでは国家経済の運営が難しくなるのではないかという懸念が広がっていた。
仮に戦争に勝ったとしても、以後の数年は恐らく厳しい状況を強いられることになるだろうし、現在のような大規模な軍隊を維持することも難しくなる。経済という静かなる戦場でも日本国の限界は見えつつあるのだった。
●まちきれない
■渡良瀬祐介、青山京太郎
▲西・大垣
「どうして敵は攻めてこないのだ!」
いや、そんなことを言われましても。大日本帝国・第7師団の戦車大隊長を務める青山京太郎は、心の中で呟かざるを得なかった。彼の前で吼えているのは、第7師団の師団長、渡良瀬祐介だった。
渡良瀬は、戦場においては戦車将校あがりらしく機敏で勇敢な指揮官で、全体の戦局を見渡して必要と思えば、自分の経歴に傷が付いても戦うことを拒まない。また、部下に対しても無用に厳しくも優しくもなく、個人としてはどちらかと言えば控えめな生活を好む好男子だった。ただ一つ、重度のウォーモンガーであることを除いては。
今月、彼らは構築中の「クレージー・ライン」を敵の手から守るべく、大垣に駐屯していた。木曽三川の側にある大垣は、古くから西濃地方の防御重心の一つである。本来、高橋第2方面軍司令官は、英近衛戦車旅団と彼らを合わせて機動防御に用いるつもりだったが、第7師団は独自の判断で、むしろ戦闘が行われるなら、積極的に戦端を開くつもりでいた。
もちろん、渡良瀬も機動防御の重大性は十二分に理解している。ただ、防御の要となる陣地構築が終わっていない段階で、敵の大規模攻勢が行われた場合、むしろ戦車部隊が先制して敵を叩き、遅滞防御で時間を稼ぎながら防衛陣地に敵を誘導する。
そして防衛戦が始まったらその後方で戦車部隊を再編成して機動防御に備える…というプランを抱いていたのだ。
しかし、敵は全く攻めてこず、陣地構築はほぼ完成の域に到達していようとしている。こうなれば、機動打撃部隊は後方で本格的な機動防御に備えた方が有利となる。渡良瀬の咆哮も、そんな情勢の変化に一因があったのは間違いない。
「もうすぐ、キャスターは桑名に下がるし、セイバーも合流してくる。そうなったら、我らアーチャーも下がらせられるかもしれん」
セイバーは英近衛戦車旅団、キャスターは第12師団、アーチャーは第7師団の部隊符号で、渡良瀬が名付けたものだった。彼の子供が読んでいた何かの英雄譚に出てきたものらしい。
「まあまあ師団長。北と南の重心としては、大垣は良い場所ですから、完全に後ろに下げられることもないのでは。急いで戦って亡くなって、英雄になるのも何ですし。見て下さい。晴れた空、白い雲。そのうち何とかなりますよ」
「…そんなものかな」
まあ、青山も、この渡良瀬の癇癪が半ば、部下とのコミュニケーションのためであることも、うすうす察している。それでも、ちょっと勘弁して欲しいかも、と彼は心の中でため息をついたのだった。
●つよさのひみつ
■吉田隆一、モーントシュタイン、スターム
▲東・松本
大日本帝国・近衛師団の夜間浸透戦術訓練も、回数を重ねるうちに堂に入ってきた。その日は、同盟国から供与された赤外線利用の暗視鏡を使用しての訓練だ。
その装置を供与した同盟軍〜ドイツ国防軍〜の将官が、今回の訓練を見学に来ていた。軽くはない赤外線暗視鏡を扱いながら、仮設された陣地を浸透してゆく日本兵の動きを、熱心に観察している。
「いや、なかなか見事なものです」
近衛師団の歩兵指揮官、吉田隆一大佐は、闇の中で嬉しそうな笑顔をこぼした。彼は多くの帝国陸軍将校の範に漏れず、それなりにドイツ語を使うことが出来る。
「いえ、お国の機材あればこそです」
吉田は、短く答えた。本来、大日本帝国へのドイツの支援は、陸軍は武装親衛隊が中心となるはずだった。それが突然、国防軍が参加することになったらしい。いきなりの方針変更でウラジオ以西は大混乱のようだが、その先遣としてやってきたのが彼、フリッツ・フォン・モーントシュタイン中将だった…というわけだ。
組織内の巧妙争いにしても何にしても、“お土産”を持ってくれるなら大歓迎だ。親衛隊が中心になっている敦賀へのいきなりの視察は憚られたので、まずは松本の近衛師団に視察の役がふられた、という経緯である。
「戦術を支えるのは、下士官の質です。下士官が自分の頭で見て、聞いて、判断する。それが出来なければ小隊単位の機動・戦闘が前提となる浸透戦術なぞ出来はしません。そのためには、下士官の『教育程度』が問題になる」
「我々は、鎖国とその後の富国強兵作のお陰で、初等教育はしっかりしていますから」
咳を一つして、吉田は返事をする。
「日本人は、マイスター…職人とでも言えばいいでしょうか…としての高い質を、下士官・士官に維持していますね。例えばロシア軍などでは、こうはいかないでしょう。しかし、浸透戦術は現代戦の基本とは言え、それだけというわけには行きません」
真面目な口調で、モーントシュタインは続けた。
「浸透戦術では、歩兵の歩く速度、そしてその携行火器しか使えません。これを土台に、さらに諸兵科合同の訓練をすべきでしょう」
吉田は頷いた。その見解は、彼がこれから行おうとしていることと、まさに合致していたからだ。モーントシュタインは、国防軍でも正統派の将校で、前線においても後方においても活躍してきている将官…ということだったが、奢ることなく淡々と、かつその態度は自然な自信を感じさせた。これが戦勝国の将官というものか。吉田は、一瞬羨望の表情を浮かべた。
彼らの近くに、一台の装甲車が現れた。モーントシュタインを迎えに来たそれは、何と装甲師団長のゲルハルト・スターム自身が運転している。吉田も、それなりに収入のある日本人として、車の運転をすることが出来るが、ここまで「日常に」車を使うことは出来ない。自国と同盟国の差を、こういうところで思い知らされることになるとは。助手席で揺られながら、考えることの多い吉田だった。
●太平洋の嵐の前
■ヒュー・トマス・ジェフリーズ ブータニア・ニューブリック・ゴッドール メイフライ・メイフィールド パトリシア・エドウィナ・ヴィクトリア アルバート・バーク
▲小笠原沖/東海沖
空母<インディファティガブル>の飛行甲板から、対潜魚雷を抱えたワイバーンとガネットが発進していく。3機からなるハンターキラーユニットだ。
甲板作業員たちは休む間もなく、交代で戻ってくる機体の収容準備に取り掛かる。その光景を艦長ブータニア・ニューブリック・ゴッドール大佐が頼もしげに眺めていた。
彼の立案した対潜哨戒計画はうまく行っている。試験運用中の対艦ミサイル、ガネットAEWのテストもまず順調だ。
航空指揮官メイフライ・メイフィールド中佐が入室してくる。
「ただいま戻りました」
「ご苦労だった」
「機体のほうは全く順調です。あとは実際に灰色狼とやりあうだけですな」
「そうか。だが、残念ながらと言うのもおかしいが、本番は暫くお預けかも知れん」
Z統合任務部隊司令官、すなわち英国東洋艦隊司令長官たるヒュー・トマス・ジェフリーズ少将は、かつて機動部隊を率いた先人たちの一部と同じく、空母ではなく防空巡洋艦<ハーマイオニー>に将旗を掲げていた。
「敵潜は直接東海沖を狙ったか」
名古屋、硫黄島を結ぶラインの保持が太平洋に展開した連合国艦隊の今回の任務だった。命令の行き違いから一時混乱を来たしたが、C統合任務部隊第3群から駆逐艦部隊が東海沖に派遣され、英艦隊が小笠原沖を哨戒している。一向に敵潜が現れないところからうすうす感じてはいたが、敵潜の矛先は友軍に向けられたようだ。輸送船が食われたらしい。
「ESM感なし」
「対潜警戒を厳となせ」
きびきびした号令が、張り詰めたCICに木霊する。女王陛下のフネに集う兵士達が、今日も電子と音波に聞き耳を立て、太平洋の浪を切り裂いて征く。
(中略)
時代が移り変わり、海軍に女性艦長が誕生するという変革を迎えた今日でさえ、7つの海にしゃしゃり出て、ドイツに対する嫌がらせに血道を上げる、という仕組みが未だに残っている貴重な軍隊である。
「とは言え、敵がいないんじゃどうしようもないわね」
駆逐艦<ノーストリリア >艦長パトリシア・エドウィナ・ヴィクトリア少佐は兵に聞こえないように呟いた。敵潜が東海沖に集中しているらしく、こちらに襲撃がある可能性は低い。だが、警戒を怠ることは出来ないし、士気を落とすわけにも行かないのだ。
「後の楽しみは、長崎に送った<グラディウス>の改装結果くらいかな」
「まあ、最悪の事態だけは避けられたと観るべきか」
C統合任務部隊第2群第1駆逐隊司令アルバート・ハミルトン大佐は呻いた。
第2群主力から急派され、東海沖で船団護衛に当たったが、必ずしも満足に出来ない結果に終わった。僚艦を失い、輸送船にも被害が出ている。敵潜水艦もある程度叩けたはずだが、それを誇れる気分でもなかった。
「漂流者の救助を急げ」
だがそれでも彼の任務はまだ終わってはいない。不十分な支援しか受けられない状況で、名古屋港と小笠原のZ統合任務部隊の間の連絡線を保持しなければならないのだ。
●隊長の条件
■樋口慶二、阿賀野守、柚木浩太
▲岡山
日本国空軍において士官が務まるような人間には二種類いる。優れた戦術指揮官と、戦術レベルで使うには惜しい軍略家である。
さしずめ樋口慶二が前者の代表、後者の代表は阿賀野守ということになる。
国力限界から長期戦に耐えられない枢軸側が攻勢に出て来るだろうとの認識は、西側に共有されていた。しかし、ではどうするかの方法論は玉虫色であった。先手を取って攻勢意図を挫くのか、地上軍と連携して防戦するのか、どちらとも採れるような曖昧な命令しか出ていない。
第5戦闘機大隊、樋口慶二少尉はこう考えた。
(増援を得た敵は攻勢に出る可能性が高い。震電改という機体の性質上、迎撃任務の頻度が高まると同時に、基地も攻撃を受ける可能性が高いと思われる。空戦で撃とされるのはともかく、地上で機体を失うのはたまらんし、つまらんことだ)
そこで樋口は、新たな敵機についての情報を収集して対処法を模索すると共に、爆撃を躱すべく各種の偽装工作に奔走した。実際に爆撃を受けないことには、その価値は証明できないが。
無論、部下の疲労度に注意を払うなど、戦術指揮官として行うべきこともきちんと行っている。
いずれにせよ、戦力維持を目指した防御的な施策である。
対して、阿賀野守大佐が率いる第1戦闘爆撃大隊などは、敦賀に集結したロシア軍が南下して来るものと読み誤り(事実は全く逆で、西側の攻撃から敦賀を維持するのが目的であった)、出血を強要すべく積極的な攻勢に出ている。
それは、またしても、「敵パイロットは脱出さえすれば助かるが、こちらはそれを期待できない」戦いをするということを意味する。だが、柚木浩太中尉らは文句も言わず出撃する。それは燃料補給やら何やらの激務を的確に処理し続ける阿賀野への信頼によるものであった。
あれこれとエネルギッシュに活動する人間として、お互いに「逢ったことはないが知っている」間柄となっていた樋口と阿賀野。二人が邂逅したのは、戦力再配備の為に岡山を去る前日であった。
どうということもない会話の後、樋口は、やはりどうということもなさげに言う。
「阿賀野大佐殿は上に行かれるのですよね?」
「……そうなるだろう。人材がいないからな」
傲慢で言っているのではない。純粋な、事実。
少なくとも、今回の空母艦載機補充問題(艦載機は海軍、基地機は空軍の管轄だから、その辺で何かあったのだろう。「米海軍最大の敵は米空軍である」という笑えないジョークが示す通り、セクショナリズムは東日本の専売特許ではない)が象徴する上層部の右往左往は、滑稽な域に達している。
現状程度の定数オーバーでさえこれから台風シーズンを迎える日本近海では問題があるのに、更に積み増そうなど、危険極まりない。ジェット機運用能力がない『千代田』に閃電改を載せようとするに至っては、正気の沙汰ではない。それがまかり通ってしまうのが、今の日本国なのである。
結局、それらの機体は、今では空軍が陸上基地から運用している。
……馬鹿げているとしか言いようがない。日本国のためには、阿賀野の力量は中枢にこそ必要とされていた。
「今までは無理を言って前線部隊に残ってきたが、この戦争が終わったら流石に参謀暮らしか、将官か。性には合いそうもないが、仕方がない」
心底気乗りのしない口ぶりで、阿賀野が言う。
「……君が羨ましいよ。部下と運命を共にするなど、俺にはもう許されない贅沢になってしまった……」
自ら操縦桿を握る立場ではなく、しかも伊丹への展開を命じられた阿賀野は、まず死ぬことはない。望んで出撃すれば別だが。
現実から逃げる気はない阿賀野の意志を確認して、樋口は表情を真剣なものに改めた。遺言でもするかのように。
「中枢に昇られた暁には、機種転換を考えて頂けませんか。震電改は、現時点で存在する機体の中で見れば戦闘力は一級ですが、いかんせん航続力が無く、少々使い勝手が悪い機体です。将来が見えません。できれば今すぐにでも米国製の新型機に機種転換すべきではないかと」
「……まあ、わざわざ夜戦型を作るからには、当面現役のままだろうな」
「震電改は唯一の純日本製戦闘機ですからね。こいつまでもが姿を消せば、我々は米国の人形だと喧伝に利用されかねない。とすると、少数でも稼動させ続けるべきなのかも……
……おっと。一介の士官が考えることじゃないと、わかってはいるのですが。つい、ね……」
「……君も、上に来る素養はありそうだな。待っているよ」
「生きていれば」
阿賀野と違って現役のパイロットであり、航続距離の問題があるとは言え最前線基地の舞鶴に進出する樋口は、自らの将来を楽観はできなかった。
結局、予想に反して枢軸側が動かなかった為、今月の戦いは小競り合いに終始した。
西日本の戦果判定は、敵陸軍や航空戦力の増強に若干の遅れを与えたものの、分の良い戦いとは言いかねる……となっている。
「これからが本番なんだろうな」
阿賀野がふと口にした言葉は、実に重い。
●予備戦力
■七尾文七、萩野社、楳澤三郎、井深大、盛田昭夫
▲関東
航空作戦本部は、全面的に光電への機種更新を進めている。萩野社中佐が束ねる第156戦闘戦隊や、七尾文七中尉が籍を置く第104戦闘飛行隊などもその例外ではない。
ただ、部隊によってその模様は異なる。
レシプロ戦闘機の飛燕改を装備し、トップエースばかりで構成されていた第156戦闘戦隊の荻野は、
「飛燕改に搭乗していた頃は凄腕でも、光電に乗り換えた君達は新米パイロットも同然だ」と、慢心を戒めると共に格闘戦に慣れ親しんだ搭乗員たちの意識変革を進めている。それは、荻野自身に向けられた警句でもあるのだが。
一方、曲がりなりにもジェット戦闘機の炎電を運用していた第104戦闘飛行隊の場合、組織的な一撃離脱戦闘の基礎はできている。全般に練度が低いだけである。
だから、七尾は単純に練度を高める方向で訓練をしている。
彼が叩き込んだのは、徹底的な制空戦闘技術。その目的とするところは、大きく二つ。
一つは、関東圏の制空権維持。そしてもう一つは、今後想定される対艦攻撃の支援である。
幸い、航空作戦本部が頂点にあることで、先行して機種転換した部隊、光電での実戦を経験した部隊から情報が効率的に入って来る。そのため、転換訓練自体は効率的に進んでいる。西側の攻撃が敦賀に集中したために、関東では訓練に専念できたおかげでもある。
大概の国もそうだが、大日本帝国では、現場での兵器の改造はご法度である(逆に言えば、もし零戦が爆弾を抱えて体当たりできるように改造を施されていたら、それは現地ではなく上層部がやらせたことになる)。改造というのは難しいものであり、それを最前線でやり遂げられるだけの機械力は、この国にない。
ただし、工業基盤の整った国内で、しかも急な思い付きではなく、以前から問題点として指摘があり対応策が検討されていたとなればその限りではない。
胴体から懸架された光電の機銃は、空気抵抗を増大させている。かねてより問題視されていたこの点に、第101戦闘飛行隊の整備班長である楳澤三郎は、二つのプランを示した。
一、機銃を胴体あるいは主翼と一体化する。
二、機銃を廃し、ミサイルだけを積む。
前者は光電二型で採用された方式だが、元より短期間には不可能である。とすれば、後者よりない。
「『ウロボロス』が額面通りの性能を発揮できるようになれば機銃はなくても問題ない。そうでない場合は、爆弾や落下増槽のように機銃と弾倉を吊下して、無線で発射できるようにすれば良い」
この吊下式機銃(英語名ガンパック)の発想により、楳澤は歴史に名を残すことになる。尤も、今の段階ではまだ「発想した」だけだが(開発にMSP6または生産力3×2ケ月必要)。
ともあれ、機銃を撤去してその分AAMを搭載するというアイデアは、試験的に実行されることになる。
☆
「誘導弾の開発は今月で一段落がつきました。空対空、空対艦ともに量産状態に入っています。今後は空対空ミサイルがより広範な機体に詰めるように開発を続けてまいります」
井深大は盛田の報告を聞き流す。そんなことは俺が一番知っているよという顔で手元の作業を止めない。
「軍からは我々の開発への感謝の言葉とともに、より新兵器開発の努力をして欲しいとの事です」
「ミサイルの実用化だけでは満足できないのか」
「かれらはモノを見ないと満足しませんし、しかし、これ以上のミサイル技術の向上は現状の技術では急速には進まないでしょう。少しこれからの事を考えないといけませんな」
「形ばかりで、中身のわからない外野には言いたいだけ言わせておけ、こっちはこっちでやるべきことがある」
「そうだったらいいのですが、形を出し続けないと拙い自体になりつつあるのです」
盛田はスッと手元の書類を井深へと差し出す。井深の眉間に瞬く間に皺がよっていく。
「困ったものだ」
井深は盛田が持ってきた文書を目にして嘲るように言った。温厚な井深が他人に明確に怒りを感じさせる態度をとるというのは極めて珍しい。文書にはクリスチャンで敵と内通しているだの、井深の家系は劣等遺伝子の持ち主だの、盛田と男色関係にあるだのといった下世話を通り越した井深への中傷がそれぞれ綴られていた。
「おそらくは、職場での布教禁止で想価会を締め付けた腹いせかと」
盛田はそっと言った。宗教は個人のものであり、国家や会社によって介入するべきではないと信じている井深ならではの配慮を逆恨みしたのだろう。想価会は国の支援を受けてその勢力を急速に拡大している。
他派への勧誘や排除の理論が攻撃性を帯びつつあるのも、その勢いが助けているところが大である。
「下衆どもが、人の娘の出来を云々する前にやることがあるだろう」
「連中、勤務状況は正良そのものですからな。疑いを晴らすためにも我々には更なる実績が必要です」
「不愉快な現実だ、全く不愉快だ。いっそ本当に白州先輩が仕切っている西の経済界にでも行ってしまおうか。君も大学は大阪だったろう」
西の経済界をしきる白州次郎は井深にとって神戸一中の先輩筋にあたる。直接の面識があるわけではないが、経済界を縦横無尽に闊歩する姿には羨望と親近感を覚えていた。
とはいえ、井深の吐き捨てた言葉はたとえそうした個人的な感覚を、冗談めかして言ったとしても危うかった。悪い噂の立てられた人間が、冗談にもこうした言葉を吐いた事が露見すれば大変なことになる。内乱という状況で精神的余裕を失っているこの国では、こうした噂は社会的生命に留まらず、肉体的な生命まで左右しかねない。
「少し、言葉がすぎますよ」
「そうかい。まぁ、言ってみただけだよ。
僕の先祖は会津でね、こういうときに本当には裏切れないで
最後まで馬鹿正直に滅びる国に従うようになっているんだ」
その頃、会津の兵は殿として大阪へ残存し、絶望的な抗戦を行っていた。
●ねらいうち
■浪川武蔵
▲西・大阪
男は、闇の中に潜んでいた。倉庫の屋上は、夜だというのに蒸し暑い。風が全くないせいだろうか。
男…大日本国・第634特殊部隊所属、浪川武蔵二等兵は、その暑さを感じていないかのように狙撃銃を手にしたまま、大阪のある一ポイントで、身じろぎもせず待ち続けていた。
あれこれあって懲罰部隊に放り込まれていた浪川だが、先々月以来の敵追跡戦で活躍し、一般の部隊…と言っても特殊部隊だが…への復帰が認められた。常に彼の側にいた“相棒”の堀川狼の姿は、なぜか見あたらなかった。
彼方では、ときおり銃撃の音、人々の叫ぶ音などが、微かに響いてくる。大阪では、いよいよ民間軍(と言う名前の、共産党系武装部隊)が活動を開始していた。それまでは、精強な空挺部隊に相応しく、ヒットアンドアウェイ戦法でバリケードを築くこともなく、神出鬼没で包囲部隊を悩ましていた敵・第十二師団だったが、一般市民が武装蜂起したとなると話は別で、大阪の一区画に逼迫を余儀されていた。
そんな中で、浪川は彼の経歴に相応しく、第十二師団の師団長暗殺という命令を受けたのだった。
待った甲斐があって、ついに浪川の見張っていたビルの中から、数人の兵士に護衛された高級将校たちが姿を現す。狙撃銃を構え直した浪川は、スコープを覗いたか覗かないかの半瞬ののち、引き金をひいた。
乾いた音と共に、輪の中心にいた将校の姿が、ぐらりと揺らぐ。
「ち…」
舌打ちの音が響く。浪川が狙撃した瞬間に、師団長が身をかしげたため、銃弾は彼の方を貫いたのだった。師団長の護衛たちが、彼のいる方を指さした。さすがに、狙撃した方向を掴んだようだ。浪川は慌てず、ポケットから無線機らしきものを取り出してアンテナを伸ばし、スイッチを押した。
すぐ側の倉庫が膨らみ、光を放って炸裂する。さすがの浪川も、身を隠さなければ爆風に巻き込まれていただろう。師団の火薬貯蔵庫になっていた工場の一角が、浪川らの仕掛けた爆弾で破壊されたのだ。
蓄積されていた火器の誘爆はすさまじく、その混乱に乗じて浪川はまんまと脱出に成功したのだった。師団長の暗殺には失敗したが、師団の火器の爆破は成功し、大幅に彼らの戦力は目減りした。彼の任務としては成否半ばす…というところだっただろうか。
●くのう
■武本利勝、佐世保海
▲西・大阪
「状況開始」
短く、武本利勝は命令を下した。大日本国・第一方面軍司令官の彼は今、大阪に籠もる敵第十二師団への総攻撃の指揮を執っている。
主として、大日本国の防衛ライン東端を担当している第1方面軍は、今月まず、担当正面である小浜での陣地構築を行っていた。武本の指揮で構築されたそれは、地形(小河川や丘陵など)を巧みに利用し、地雷原と弾幕射撃を組み合わせ、さらに敵戦車用の特火点も多数準備されているというもので、今回は防衛準備に終わった敵軍の構築したもの、また自軍の他の方面軍の構築したものと比べても、巧緻で重厚だった。
もう一つ彼の担当していたのは、大阪に取り残された敵師団を「除去」することだった。防衛陣の構築、戦力のローテーションの手配を終えた彼は敵軍が動かないことに注意を払いつつ、大阪に移動した。そして今まさに、彼は総攻撃を始めたのだった。完全に包囲下にある敵部隊。こちらの戦力は、敵が精鋭空挺部隊であること、市街戦になってしまうことを勘案しても、圧倒的だ。しかし、彼の表情は暗かった。
大日本国は、敵国に対抗するために、本来は弾圧されてきた共産党を公式・非公式に認め、その力を利用する政策をここしばらくとっていた。合法的政党であるはずの共産党はしかし、非合法組織を密かに所有し、支援し、「共産革命」を目指している一派も抱えている。今回の大阪攻防戦において、一部勢力はもともと労務者の多い大阪での“蜂起”を計画し、そして成功させてしまったのだ。
その矛先が、今は自国の政府に向けられていないとはいえ、ノウハウと成功を手に入れてしまった非合法組織が、今後…戦争が終わり、共通の敵がいなくなった後に…どう動くことになるのか。そして、上層部の命令とは言え、「勝つためなら、何でもやる」ことへのシンパシーはあるが、自分が「秩序破壊集団」への手助けを行う自責、そしてこれからへの不安。真っ当な軍指揮官(有能であればあるほど)である武本が、これらを感じるのは、当然のことだったろう。しかし、彼の苦悩は、誰も肩代わりしてくれないのだった。
「敵兵士の降伏を、なるべく喧伝するように」
彼に出来ることは、それが精一杯だった。
「こらぁ! 何をしている!!」
暗闇に声が響く。倒れた敵兵士らしい影に、殴る蹴るの暴行を(汚い言葉でののしりながら)行っていた民間人は、佐世保海ら正規軍の兵士の姿を見ると、そそくさと姿を消した。
倒れている複数の敵兵氏たちは、既に虫の息だった。あとで生き残った兵士に確認したところ、やはり降伏した後に暴行を受けたらしい。軍隊では(特に士気の高い部隊では)良くあることと言えなくはなかったが、今回の大阪攻防戦では、指揮官の武本が厳格な命令を発していること、そして彼が前線の兵士たちの心を掴んでいたこと(第一方面軍は、長く苦しい撤退戦、下関橋頭堡の攻防戦、その後の反撃を武本の指揮下で戦い抜いてきた部隊である)もあって、その種の命令違反はほとんど起こらなかった。
しかし、同時に蜂起した民間軍(という名称の共産党系非合法部隊)は、容赦なく敵兵士を殺戮した。佐世保はその場所に居合わせたのである。
皮肉なことに、凶暴な民間軍と規律ある正規軍…という対象は、最終的には敵第十二師団の組織的な降伏を呼んだ。敵師団長への暗殺が失敗したこともあって、彼が兵士の命を守るために「公明正大な敵の方」への降伏を決断したのだった。それでも、戦後の調査では降伏した兵員の50%近くが何らかの暴行を受け、多大な死傷者を出す結果に終わった。
こうして、短くも激しい〜そして様々な政治的問題を起こした〜大阪攻防戦は、七月中に終わりを告げる。あとには、大阪市街の広大な『解放区』が残された。
●たちぐい
■銀狐
▲西・大阪
大阪は、天下の台所。そう呼ばれた大都市も、うち続く戦乱と占領、そして今敵軍が立てこもると言う事態で見る影もない…と言いたいところだが、全くそんなことにはなっていなかった。もともと、東日本を大日本帝国が取っているためもあって、東京〜関東からの人口流出が続いて事もあり、多くの工場や商社が活発に活動している。
そんな中で庶民の友、屋台も大いに繁盛していた。その女性が姿を現したのは、大阪名物(になりつつある)串カツのそれだった。
「姉ちゃん、ソースの二度漬けは禁止やで」
一心不乱に串カツを揚げているように見えたおっちゃんが、ぼそりと呟く。何事もなかったかのように、ポンチョのようなマントを纏った美貌の女性は、串カツを口に運んだ。
口紅を塗っているわけでもなさそうなのに、真っ赤な唇が蠢く様は、まるでそれだけが一つの生き物のだった。
大阪では、そんな繁栄とは裏腹に、あちこちで武器が配られ、「民間軍」と名乗る武装集団が街を闊歩していた。「民間軍」と言っても、うち続く戦争の間に銃器の取り扱いを覚えた人間も多い。その上、その中心は共産党の行動部隊が牛耳っていたから、事実上の革命予備軍である。
大阪の街を攪乱していた敵・第十二師団の跳梁は、民間軍が組織されたことによって急速に収まっていたが、別の意味での…あるいは、大日本国の政治状況に激変を起こしかねない劇薬・毒薬としての争乱が、大阪の街に起ころうとしていた。
世界革命を標榜する組織に武器と政治的慣用を与えたら、どういう結果が起こるのか。この時期の日本政府は、目前の敵のみを見ていたかも知れなかった。
その争乱を準備し、導いたのは誰だったのか? 未だに謎に包まれたその人物の名は、「銀狐」とのみ伝わっている。
女性は、屋台を離れた。彼女が食事の代価を払っていないことに親父が気が付いたのは、ずっと後になってからのことである。
●なんきん
■ガースラント、エルネスト・デ・ラ・セルナ
▲西・比叡山
ここ比叡山では、宿坊を利用した講堂で、やはり映画の上映が行われていた。見ているのはSOS旅団…国際旅団…なので、日本映画を上映しても判るのかな…と「シモン・ボリバル」大隊長、エルネスト・デ・ラ・セルナは思った。まあ、ギャグのところでは笑い声が起こるし、巨大怪獣出現のところでは講堂のあちこちで息をのむ気配もしたから、エンターテイメントなものは世界中どこに行っても共通らしい。
SOS旅団でも、最近は宣伝に映画を利用していると聞いている。予算の関係で日本産のアニメーションらしいが、どんな作品なのだろうか? どうせだったら今回、一緒に上映して貰えば良かったかも。そんなことを考えながらデ・ラ・セルナは煙草に火をつけた。
微かな明かりの中に、異様に緊張した男たちの姿が浮かび上がる。警備…という名目で彼らを見張っている、大日本国の兵士たちだ。
SOS旅団は、その成り立ちからいっても、共産党の強い影響下にある部隊だ。「敵の敵は味方」という論理で編成が認められ、連合国からの支援を受けているが、微妙な立場であることは代わりはない。
今月、旅団は本州は比叡山周辺での山岳踏破訓練を実施した。そのこと自体は以前からの予定通りなのだが、大阪で敵第12師団に対抗するための蜂起が行われ、事実上の『解放区』となったことから、彼らに対する扱いが変化した。
訓練などは予定通り行われているのだが、護衛を口実とした警備の人間が以上に増え、かつ緊張している。漏れ聞くところでは、大阪の解放区では、日本の共産党の指示を無視して中に入り、煽動や組織化を行っている活動家たちもいるという。そんな政治的に微妙なところに、もし戦力化された、しかも外国人中心の部隊が合流したら? かくして、彼らは事実上の軟禁状態に置かれたのだった。
くだらない…とデ・ラ・セルナは思うのだが、一抹の不安がないではない。旅団長のガースランドの心中が、今ひとつはかれないのだ。セルナの知る限りではガースランドは日本共産党との直接の接触は全くない。しかし、一匹狼に近い活動家との繋がりは? もともと、ガースランドもそちら系からの出身なのだ。
ガースランドは今、打ち合わせに出席するために部隊を離れているが、帰ってきたら、その辺りのことについて聞いてみよう。デ・ラ・セルナは煙草の煙を吐き出しながらそう思った。
●Clush! Mili−Cla−Axis!
■スタンリー・T・サイラス、ジョゼフ・ラインハート
▲沖縄
蒸し暑い長浜で怪獣映画を観ている者がいれば、灼熱の読谷で面白くも何ともないスライドを見ているものもいる。尤も、写っているのが人間ではないという点では似たようなものだが。
「モンティナ・マックス。諸君、こいつが我々の敵だ」
太平洋方軍戦略爆撃航空団に属する各航空隊のクルー達によるブリーフィング。その司会を任された第1戦略爆撃大隊所属ジョゼフ・ラインハート中尉は、そう宣告した。
「ニューヨーク、フィラデルフィア……幾つもの都市と人々をこの世から消した張本人。そして今は、義勇空軍の司令官として日本に来ている」
その言葉と共に背の低い小男の画像が消され、暗かった部屋に電灯が点る。
「奴が、手の届くところにいる。なら、俺達のやることは一つだ」
その先を、ラインハートが口にする必要はなかった。
全員が声を揃えて叫ぶ。
『ぶち殺す!』
目的は明確なほど良い。一個人の首に兵士達の戦意を集約できることは、アメリカにとって幸運であった。
マックス個人ではなくナチ全てを復讐の対象とし、そのために「アメリカを利用している」ラインハートにとっても、差し当たりのターゲットとしてマックスを提示できるのはありがたかった。人を操るには、分かりやすい目標を掲げるに限る。
……だが、ラインハートの闘志を殺ぐ命令が下る。
彼らを指揮する太平洋方軍戦略爆撃航空団司令、スタンリー・T・サイラス中将は独善で横暴と批判されるが、暗愚ではない。冷酷だが、裏返せば冷静沈着ということでもある。報復感情に流されて判断を曇らせたりはしない。それはあるいは、指揮官として振る舞う者と、現場の人間の相違と言えるかも知れなかった。
サイラスは、多くの兵士達と異なり、マックス個人の命は欲しなかった。マックスを討っても、また別の司令官がやってくるだけだからである。
代わりに必要としたのは、爆撃機の脅威となる対空ミサイルへの対抗手段である。増援要請や夜間爆撃へのシフトは当然(戦略爆撃機の基本的な運用法は、あくまでも夜間対都市無差別爆撃である)として、それだけでは足りない。それはあくまで対症療法に過ぎない。
情報収集。それが、ラインハート(と、彼の乗機『ヘンリエッタ』のクルー)に下された特命、「Help me Merlin」作戦の目的であった。
当然だが、ラインハートは乗り気ではなかった。勿論、ミサイル対策の情報が今後のナチとの戦いで必要になることは理解している。だが、自分が危険を冒して、このタイミングでそれをすることは、彼のシナリオにはない。
「爆撃ではなく偵察任務……ですか。ご命令とあれば従います。しかし、敵ミサイルの性能評価というのは、撃たれて見ろ、ということですか」
「必要があればそうしたまえ。ただし、その場合でも情報は持ち帰るように」
身も蓋もないことを、眉一つ動かさずに言い切るサイラス。非情以外の何者でもない。
ラインハートは吐き捨てる。
「撃墜されても生還します。俺は、奴の頭上に爆弾も落とさず死ぬわけにはいかない」
そこで、ふと気付く。
「まさか、俺の『ヘンリエッタ』を偵察機に改造しようってんじゃないでしょうね」
「『君の』ではない。『合衆国の』だ。
……そのつもりだったが、ルメイ大将が手を回してくれてな。RB-36が来る。それを使いたまえ」
RB-36。その名の通り、B-36の偵察機型。
「他に質問がなければ、話は終わりだ。
……許してはいけない奴が目の前にいるからといって、慌てることはない。しばらく戦争は続いてくれるさ。今回始末できなくとも、チャンスは必ず来る。私が作る」
その顔に貼り付いているのは、うっそりとした笑み。紛れもなく、サイラスも被爆国の人間であった。
結果を言えば、「Help me Merlin」を含む敦賀での航空戦は、米国には勝利とされる。
無論損害はあったが、それを補って余りある増援が届くからである。
戦闘機がF-100スーパーセイバー72機。これは赤外線自己誘導AAM『サイドワインダー』を装備している。また、戦闘爆撃機としてF-84Fサンダーストリークが48機。
もう一隊、珍しいことに、最強最後の夜間戦闘機F94スターファイアが48機。米軍最初のジェット戦闘機P-80を複座化した練習機T-33シューティングスター(日本名『若鷹』)に、射撃用レーダーと2.75インチロケット弾を実に48発も搭載した代物である。誘導弾ではないから、「下手な鉄砲も数撃てば当たる」方式であるが。
勿論、セイバードッグなどの全天候戦闘機が出現している今となっては一流機とは呼び難い。と言うか、既にあらかたは州軍へと移管されており、現役機はそう多くない。
とは言え、最新型の全天候戦闘機を要求するよりは通りやすいし、実際に得られた。サイラスの判断を間違いと言い切れるかは微妙であろう。
●牙を研ぐ日々
■東日本海
▲ギュンター・ヘスラー アルベルト・エントラース ギュンター・フランク 糸川星人 矢追順一
義勇艦隊司令官ギュンター・ヘスラー中将の機嫌は芳しくなかった。先月中途半端に終わった運用制限の緩和、その拡大をベルナウに断られたのだった。
「これ以上の投入は状況を見て、だと? 増援は負け始めてから受け取っても間に合わんのだ」
今回、義勇艦隊及び東日本海軍は若狭沖に潜水艦を集中投入したが、来襲の予想された連合軍艦隊は山陰沖に留まり、残念ながら空振りとなってしまったのだ。
「司令部は山を外したらしいな」
U−17艦長アルベルト・エントラース少佐は言った。
「クジラ一頭いません」
水測員長のギュンター・フランク少尉が応じる。二人はラインの引かれた海図を見やった。
敵艦隊来襲を予想し、現在この海域には日独多数の潜水艦が配置されている。スコアを伸ばすチャンスと思ったのだが、当てが外れたようだ。
「まあ、我らが同盟国にとっては、ベターな結果と言えるのだろう」
「上の連中、油断してなきゃいいがな」
東日本海軍伊208潜艦長糸川星人少佐は笑った。
現在この海域では聯合艦隊主力による対地支援が実施されている。それに対応した敵艦隊の来襲を予想し、あわよくばこれを叩くべく潜水艦部隊が集結したのだが、貴重な主力艦隊が無事で済むならそれに越したことは無い。お互いに警戒しているから、2ヶ月前の山陰沖のような勝利は期待できないのだ。
大湊海軍工廠潜水艦担当の矢追順一大佐は肩透かしを食ったような気分だった。潜水艦部隊の集中投入が行われると聞き、彼の改良型の実戦データが取れるかと思ったのだが、不発に終わったらしい。
「まあいいさ、改造艦と新造艦の数を揃えてからと言うのも悪くない」
前線部隊の不首尾をよそに、潜水艦ドッグは今日も戦争であった。
●英国の精神
■ネヴィル・シュート・ノーウェイ
▲豪州カカツー海軍工廠
「素晴らしい! まるで英国の精神が形になったようだ」
実験場に並ぶそれを眺めながら、エアスピード航空機製造会社会長ネヴィル・シュート・ノーウェイは叫んだ。力強い本体、巨大な車輪、そして満艦飾のロケット、英国が世界に誇る汎用樽型決戦兵器パンジャンドラムである。
ちなみに彼の背後には、何かに踏み潰されたような小屋の残骸がある。
彼が眺めていたのはただのパンジャンドラムでは無い。対ASMデコイ型パンジャンドラム、本体部から高熱源体を曳火し、遠心力によってチャフを海面にランダム散布する優れものである。先月英海軍の協力を得て実験を行い成功している。
その後さらに、収集した電波情報を元に改良が加えられた逸品だ。このパンジャンドラムの欺瞞能力は、ミサイルなど他の兵器へも転用可能かもしれない。
「いずれは反応弾頭を搭載し、核戦略の一翼を担うであろう」
美しい国、英国。
●おもいなやむものたち
■服部卓四郎
▲東・新潟
「こりゃまた、厳しいことですな」
男は、大日本帝国陸軍の参謀総長を前に、いささかも怖じた様子はない。第三次世界大戦の時から服部卓四郎と組んで、あれこれと「悪巧み」をしてきた間柄だから、当然と言えば当然なのだが。
その男、帝国陸軍大佐、作戦課課長、市川浩之は、服部が私室にしつらえさせた巨大なテーブルの上に置かれた、兵棋盤を眺めている。そこには、西日本軍が名古屋をあっさり放棄し、桑名〜関ヶ原〜賤ヶ岳〜小浜に渡って堅陣をしいた姿が、様々な駒や地形図を使って指し示されていた。
この7月、彼らが恐れていた西日本軍の反撃は行われなかった。開戦当初の快進撃の結果として多くの師団が再編成に入り、特に主力たる戦車師団、機動歩兵師団は全力で補充しても使えるようになるまでに1ヶ月はかかる…防衛の要、敦賀は事実上、ロシア義勇軍に委ねるより他はなかった…という惨状を考えれば、それは彼らにとっては望外の喜びであったはず、なのだが。
(通常、わずか1ヶ月で師団の充足率が3割を越えて戦力化されることはあり得ない。しかし、今回は敦賀撤退の際、戦車師団などは重装備ごと、列車で撤退できたこと。5月に大日本帝国が全力で生産していた重装備が、補充や再編成に用いられたことなどの好条件が重なって、8月からは主力師団は戦線復帰の目処がたっている)
「ドイツ本国からの義勇師団も到着しつつあり、ドイツ本国からも政治的にも『これからの反撃と、その成果』を期待されている今この時に。西日本の奴腹は、名古屋を見捨てても、突出部を整理し、守りやすい地形に立てこもった…と言うわけです。さすがは我らが同胞…というところですか」
唇の端に笑みのようなものを浮かべながら、市川は語り続けた。
「力押しはやむなし。戦力集中の利は我らにあります。問題はどこを押すか、ですが」
服部は、沈黙を守っている。
「もちろん、戦力の分散の愚は犯さないとして、ですが。義勇軍も併せれば、装甲兵力は開戦時よりも勝ります。問題はむしろ、航空兵力にあるのかもしれません」
服部が、ようやく身じろぎし、口を開く。
「反撃せよ、ということであるならば…」
彼の発言が形となるのには、今しばらくの時間が必要となる。
●ごせいだん
▲新潟
「…という状況でございます」
新潟、大日本帝国大本営。名称こそ第二次大戦時のものと同じ最高統帥機関は、その後様々な改良がなされていた。その最大のものは、首相を初めとする閣僚も参加し、御前会議においても首相がその責任を持って議長を務めることになったことだろう。
たった今、後藤首相は今上帝に、この7月における戦況を報告し終わっていた。同盟国から、支援の見返りとして、政治的・軍事的な成果を求められていると言うことも。それも、早急に。
「どちらにしても、短期決戦で事を決するしかない、ということか?」
静かな声が部屋に響く。今上帝は、専門的な軍事教育こそ受けてはおられなかったが、その聡明さで物事の本質を見抜く力はお持ちだった。
「その通りでございます。同盟国が望まない限り、西も我が帝国も、これ以上の戦争継続は難しいかと。戦後を睨んだ場合、求められている反撃を実施し、その成果を持って講和に挑む、という形が望ましゅう」
後藤が答える。軍関係者は、苦い顔をしていた。反撃、攻勢と言うが、すでに大日本帝国の国力は限界に達している。京都、大阪などの近畿の大都市を占拠できれば、事実上この戦争に勝った形で収束できるのかも知れないが、そもそもその主力を同盟国の義勇軍に頼らなければならない状況だ。かと言って、防衛だけを考えるというわけにも行かない。
勝っても負けても、戦後に彼らの発言力が内外で高まることは、どうしようもないのである。
「新潟の大本営を、敦賀に移す」
重い沈黙を破って、今上帝が口を開いた。
「朕が打って出よう」
半瞬の永遠の後、愕然として、後藤が姿勢をただす。室内は騒然とした。
「陛下、それは! 未だかつて、そのような例はありません!!」
「お待ちを」
その時、立ち上がって今上帝の言葉に答えたのは、服部参謀総長だった。
「陛下にお出ましを願うこともございますまい」
彼の目配せで、海軍軍令部総長、陸海の大臣も席を立った。
「ここは、何とぞ我らにお任せ下さい」
彼らは、一斉に頭を下げた。
●午後の会議
■後藤孝志/馬渕駒之進
▲新潟
「まさかとは思いますが、莫迦正直に突撃を考えていたりはしますまいな」
馬渕は陸軍大臣に詰め寄った。御前会議をうけての非公式な会議が官邸で開かれていた。首相・陸相・海相・軍需相・外相の5大臣の非公式な戦争内閣であった。
「当たり前だ、作戦運用の柔軟性は最後まで確保される必要がある。あの場でああ言わねば済まなかった」
その眉間には困ったものだという皺が寄っていた。馬渕とは
物資補充削減のための師団再編で激しい議論を交わした仲ではあったが、その時のしこりを残すほどの稚気を持ち合わせていない。
「相手側からの停戦の話が持ち出されています。この時期に攻勢をとるのは如何なものかと思います」
外相が畳み掛けるように攻勢を否定した。この国の権力は未だに分有されるもので、誰かの独裁というには程遠い。
「それは井上の罠だ。敵海軍は活発に活動している。油断したところに逆侵攻をかけてくるに違いない」
外相の言葉を頑なに否定したのは海相であった。海軍にとって優勢な敵艦隊は常に脅威であり、その存在を許しがたいと思う気質が未だに日本海軍には残っている。
「諸氏は戦争経済をご理解されていない。今後は地力を蓄えつつなるべく早く講和をすべきです。我が国には既に無駄にできる力はない」馬渕は軍需大臣としての意見を述べた。
「経済力が無いなら奪えばいい。言っておくが、陸軍は攻勢をしろという言われる筋合いもなければ、攻勢をするなと言われる筋合いもない」陸軍大臣が話を交ぜ返す。要するに誰かに言われてやるのは気に食わないが自分が主導する分には問題は無いと言わんばかりの言葉に思わず馬渕は皮肉を言った。
「つまりは、やりたいがやり方は任せて欲しいということか、随分と勝手なことだ」
馬渕の皮肉を聞き流して陸相は後藤首相に言った。
「作戦を決定する権限はあくまで服部参謀総長にあります。無論、首相閣下には相談はするでしょうが」
馬渕を無視して作戦の方針を問いただされた後藤は応えた。
「ふぅむ、まあ私はやる意味はあるかとは思うがね」
憤懣やるかたないいった風情で馬渕は問うた。
「失礼ですが、理由をお聞きしたい」
少し長くなるが、と断った上で後藤は説き始めた。
「この戦争で長期戦をやる覚悟と能力を持ち合わせているのはアメリカだけだ。ドイツとロシアには覚悟はあっても能力に欠ける面がある。本気をだせばやれないことも無いが、そうなれば我々は借りを作りすぎるし、国土も荒れ果てる。まぁアメリカが帰るまで徹底的に粘って民族再統一の悲願を達成するというのも悪くは無いが、理性的ではないと思う」
外相が疑問を呈した。
「この戦争を早く終わらせたいのは解りました。しかし、それならば無理して攻勢をとらずとも外交によっても可能ではないですか。関東を取り、名古屋を取り戻すくらいのことは可能と思われますが」
「仮に今、この戦争が終わったらどうなると思う?我々は枢軸軍が領土内にいることを望まないし、彼らも日本にいつまでも日本に軍を貼り付けておくことはしたくないだろう。独露の軍にとって重要なことは国内の政治的立場であって、国際信義などではない。しかし、西は米軍が日本に駐留することを望むだろうし、米軍はそれに応えるだけの海洋支配力を持ち合わせている。我々は一国で大阪とワシントンに備えなければならなくなる。つまりは、いつかは無理が来るだろう」
戦後の情勢まで視野に入れつつ判断する後藤に誰もが関心し、反論を行うことはなかった。
「よって、我々の軍事力が最も充実しているこの時期に、アメリカが自発的に帰りたくなるほどの損害を与えるか、西がアメリカを帰らせることを選択するくらいの外交上の切り札が必要だろう、例えば大阪を占領してその領土の返還を認める代償とするのもいい」
「首相の御判断は了解しました。省に戻って計画をたてておきます」
陸相の言葉によって本日の会議は終了した。首相の構想を元に各大臣が自分の城に戻って実現を図るべく動き始める。大日本帝国の統治機構は本日も正常に稼動していた。
●シベリア機甲
■ニキータ・セルゲーイェヴィチ・フルシチョフ
▲ウラジオストク
フルシチョフは突然の予定変更に関係各所の調整にキリキリ舞いであった。ソヴィエトから続く伝統として、政治将校は軍に関する庶務雑用を取り仕切ることとなっている。
予定していたラスプーチン返還要求がイギリスの手回しによって目算が狂い、独、露、自由ポーランド、亡命ソヴイエト政府での押し付け合いになっていることも頭痛の種だったが、それ以上に彼の多忙の原因となっているのはドイツ陸軍の突然の要求だった。
元々武装SSは日本、ドイツ陸軍は朝鮮へと支援を振り分ける予定であったのに、ドイツ陸軍が今更日本戦線での活動を求めたのだ。ドイツ国内でなんらかの政治的な作用が働いているのは明白であったが、今のところ、フルシチョフには知る由はない。
急な変更があってもドイツが国外で動かせる軍にも限界はある。お陰で日本へ割り振るはずで結集していたロシア軍を朝鮮に転進させてドイツ軍の穴埋めをすることになり、只でさえ限界に近かった輸送船の工面やドイツ軍の新たな駐留地などとにかくありとあらゆる厄介ごとが彼に降りかかっていた。
どうにか全体の目途が立ち、概容を把握できたのは枢軸としては増援第二陣となる武装SS2個師団が日本へ向けて出航してからのことになった。ようやくまとまった見通し報告に目を通す。
ドイツの援軍は第一陣が今月到着のシュトロハイム大将直卒の第1SS装甲師団と第6SS山岳師団。
第二陣が来月末までに到着予定のドイツ国防軍の第4装甲師団と第9装甲擲弾兵師団。
日本戦線へと行く予定だったドイツの第11SS装甲擲弾兵は朝鮮へと転出。
我らが偉大なるロシア軍はドイツ陸軍の代わりに3個師団を朝鮮戦線に派遣、中央からの増援をうけとればあと1個歩兵師団くらいは派遣できるかもしれないが望み薄。
「要するに、陸上兵力については我々もこれで打ち止めか」
これほどの軍事行動ができるまでにロシアが回復したことを誇るべきか、枢軸全体でこれだけの軍しか出せないことを恥じるべきか判断に迷う数字ではあったが、打てる手は打った。あとは現場に期待しつつ、いざというときの責任回避の算段を始めねばならなかった。
●遠目
■遠田賢
▲ドイツ
岡目八目という言葉がある。
囲碁を指す場合に横で見ている人は当事者よりも8目多く取れるということを指し、
当事者から離れた視点で物事を見ることで大局をよく見通すことができることを意味している。
そうした意味で言えば、戦時中の国家の在外公館員という立場は
視野のある人間が勤めていれば本国政府よりも全体の情勢が理解できるといえよう。
遠田の見るところ、この戦争は既に終わったと言ってよかった。
両軍が防衛線を張る状況に陥っており、これ以上の戦争継続は緩慢な消耗戦にしかならない。
そして陣営同士の全面戦争でない以上、ダラダラと続く戦争になろう。
無論、その場合最も流される血は当事者たる日本人の血だ。
そして絶望の中で人が選ぶものと言えば、革命と宗教と相場は決まっている。
今日の未来に明日があることを忘れない常識的な統治者としての遠田はなるべく早い終戦を望むより他ない。
一方、それをドイツが容認するかどうかは微妙な情勢だ。
何を考えたのか、ドイツ陸軍が突然日本へ本格介入するというのだ。
島嶼部で守りにくい所へわざわざ兵を出したドイツ陸軍の意図はよくわからないが、
朝鮮よりも日本の方が影響力を及ぼした際に生まれる利権が多いこと。
あるいは日本の方が武勲が挙げやすいと踏んだのか。
お陰で当初は日本朝鮮で分担される予定だった指揮権が、日本・朝鮮ともに司令部を武装SSが占めることになった。
政治的決断においてはSSをひきいるハイトリヒの力が強くなった。
ドイツの国内情勢は様々な要因(国内の路線対立やらロシアやイタリアとの関係やら)で
先を見通すのは非常に困難ではあったが、どうにも謀略の天才と言われるハイトリヒを中心に一つの軸が動きつつあるようだ。
岡目を気取れるのもそう長くないかもしれない。
ドイツに関する資料に目を通しながら遠田は予感めいたものを感じていた。
●荒城
■永山時雄
▲福岡
結局穴を塞ぐ間も無く、主を送り出した臨時首相官邸をしみじみと永山は歩いていた。
周囲ではバタバタと官僚達が資料を荷造りしている。奪還なった首都大阪への再引越しにあけくれている。
永山は官僚達の表情に、明るい雰囲気を見て取った。
そりゃあ滅びかけた祖国が九死に一生を得て首都に帰れるなら喜ばしいだろうさ。
心中で密かに浮ついた連中に軽く嫉妬めいた感情を覚えた。
激動のアメリカ情勢、はねっ帰りの軍官僚、内側に抱え込んだ共産主義者といった中で
産業の復興を果たさねばならないという重責を思えば、これからの戦争をどうするかということを必然的に考えねばならない。
まだまだ、勝ったといいきる状況ではない。
これをどう解きほぐして戦争を終わらせるべきなのか。
周囲から見れば些か分不相応なまでに大きなことを考えていると揶揄されることもある。
しかし、常に大局を読む努力をしていたからこそ、先の戦争で荒れ果てた西日本の再建が出来たのだ。
永山の意識は既に荒城の福岡にも、大阪の官邸にも飛び越えて世界と未来へと向かいつつあるのだった。
結局、それは戦争という現実を超えて戦後というものを意識し始めたということで、どこかで彼も浮かれていたのだろう。
●閣議
■石橋湛山/井上成美/野坂参三
▲大阪
「国防大臣、勝手に停戦条件を提示するとは軽率ではありませんか」
停戦交渉を行っていたことを閣議報告した井上成美にたいして、野坂参三が噛み付いた。
「あくまで、予備的な交渉で首相も承知している。問題にされる覚えはないが」
抗議をあしらった井上に野坂が更に激して反論する。大阪解放で意気の上がった労働者勢力の意向が背景となり、野坂は東に対して強気の姿勢をとらざるを得ない面があった。何より野坂自身にも勝利に気分が高揚している。
「これでは統一を待ち望む国民はガッカリしてしまう。士気の続かない国では勝利はできない」
「我々は、大日本帝国臣民として生まれたにも関わらず、日本国国民として生きようと決めた不貞の輩ですよ。今更気どって民族統一の大義に目覚めるなど笑い種ですな」
居並ぶ諸大臣らは激論交じわす井上と野坂の気勢に呑まれて二人の口調に苛立ちが交じっていくのを黙ってみているよりなかった。二人とも稀代の反骨と理念を持った政治家としてこの内閣の中核を握っている。
「国民の誰もがあなたと同じ覚悟と意識を持って選択をした訳ではない。国民の意思を省みずに為政を行うことは出来ない」
「では何かね?国民が望んでいれば、世界の全てを解放するまで永久戦争でもするのが正義とでも訴えるつもりか、出来ることと出来ないことの分別をつけるのが我々の役目ではないか」
「誰も永久に戦争をしろなどとは言っていない。多くの日本国民のいた関東を見捨て、東海を盗賊のように荒らしまわるだけの国に誰がついていくのかと言っているのだ」
「それは暴言ですな、東海で行っているのは国民と兵士の命を守るための措置だ」
「兵理だけで為政を行うならばそれは第二の日本帝国だ。そんな国に正義があるのか、正義無き国に誰が従うのか。為すべきことを為さず、為すべきでないことを行って何が国か」
双方の肩に力がこもり始めたところで、そっと二人の間をさえぎるように手を伸ばして石橋首相が穏やかに口を挟んだ。
「野坂大臣の言い分はもっともやね。しかし、だからこそ今は小異を捨てて終戦に全力を傾けるべきであると思うのやけれどね。戦争はなにもかもを野蛮にしてしまう。それに、なんとかせんことには金回りが危なくなってくる。戦争に勝ってビンボになったのでは何のこっちゃない」
野坂の意見を是としつつも、実際には井上のやり方でこの戦争を遂行するよりないという現実的な判断に従うよりないのだった。内心はいざ知らず石橋は井上を激励した。
「井上大臣、ご苦労さんでした。方向性はええから首尾よぅやってもらいたいもんやけど、まぁ、相手もありよることやしね。軍には軽挙せずに国土防衛に努めるようによぅ言うといてください」
不満そうな顔を残す野坂に対しても石橋は労いの言葉をかけつつ説得を行った。事実上、これは関東の喪失を諦めた西側の政治的敗北を認めた言葉であった。
「国民からの声を直接聞く立場にある君には色々と苦労をかけるが、君の言うことならば聞く者も多いだろう。国家が為すべきことを為す状況を作るために彼らを説得してくれないだろうか」
自分の方針がどうにか政治的決定として通ることに安堵を覚えていた井上に石橋は一つの冷水を浴びせた。
「それと君の部下の貝塚君やけどね、伝えておいて欲しいことがあるのや『私は我が国の領土にシベリアが入っていないことがこれほど残念だと思ったことはない』と」
現実的理想主義者である石橋にとって、井上の現実主義はその重要性は理解できてもやり方は容認し難いものなのであった。
●アメリカの光景
■マクセル・ビアリストック/エルンスト・ジーメンス
▲ニューヨーク
久々に歩くニューヨークの風景はかつてのジーメンスが知っている風景とはかなり異なっている。
ニューヨークは先の戦争の最終段階で沖合でドイツ潜水艦による核の水中爆発攻撃を受けた。既に爆発とそれに伴う津波の被害からの復興は一段落している。再び商業の中心地としての活動を始めているものの、中心街にはかつてのようなある種の熱気はない。一方で区画整理によって郊外へと追いやられた人々が集まる区域は荒廃著しくそのままにされている。
ジーメンスはアメリカの情勢を把握するために最近話題のミュージカルを見に行くことにしていた。何でもマクセル・ビアリストックという気鋭のプロデューサーが手がけた戦意高揚のプログラムが大繁盛しているようだ。
予め手に入れた最上の席のチケットを持って列へと並ぶ。このときばかりはいかに偉い人間であっても平等だ。対ドイツのプロパガンダを当のドイツ人が見るのも滑稽だなと思いつつ待っていると、後ろのイタリア系と見える男が声を掛けてきた。
「ドイツ系か?」
「ああ、お互い碌でもない支配者を持つと苦労するね」
「全くだね」
ふっとお互い笑顔を交わす。移民の多いアメリカ、とりわけニューヨークに於いては別にドイツ系であるだけで如何こうということは滅多に無い。多くの問題をはらんではいるものの、こうした気風があることはアメリカの魅力であった。
とはいえ、人としての大らかさは政治的な警戒心と一致しないのがこの国の空恐ろしい側面ではあるのだが。
☆
我らは勝利する
我らは勝利する
我らが夢は必ず叶う
劇場は満員だった。軽快な音楽にのせてダンサーが踊った後に本劇の主人公たるデューイに扮した役者が出てきて、苦闘の末にアメリカナチスの陰謀を切り抜けてこれを壊滅させてしまうという内容であった。
暗殺未遂事件による入院によって国民の前にあまり姿を見せなくなったデューイに代わって役者が元気に戦時公債の購入を勧めて終幕になった時、観客は総立ちで拍手を送った。
大統領暗殺未遂事件が発生した事で一気に共和党への同情票が増え、デューイの後継候補のニクソンが優勢となりつつあった。一方で民主党のケネディは現在の戦争のやり方が手ぬるいと批判し、自分が大統領になれば兵を増派して早急に日本と朝鮮を解放すると主張していた。
しかし、一方でジーメンスは劇場の光景を外と対比して考えていた。確かに、この囲まれた劇場の中では熱狂しているが、
それはかつてのような広がりを持っていない。核への恐怖と報復心がせめぎ会っているし、国内に矛盾を抱えたままであるアメリカが一体どうなるのか、この時点ではジーメンスは判断を下しかねていた。
●フォークド・タン・シチュー
■イーデン/マウントバッテン
▲ロンドン
英国首相アンソニー・イーデンはマウントバッテン伯爵の私邸を訪れていた。
「マウントバッテン卿、ご無沙汰をしております」
「いや、英連邦首相にはわざわざご足労をいただけるとは光栄の極み。我が家にも箔がつくというものです」
倣岸な大貴族であり、日本戦線へ駆逐艦長として赴任している娘から届く手紙を大切に保管している父親であるマウントバッテン伯爵はアジア地域においては未だに広範な人脈を持つ人物である。イーデン首相はアジア政策について彼に助言を求めにきたのであった。
「まずは、御令嬢の活躍をお祝い申しあげる」
「御令嬢と言われるほどのものではありませんが」
「それで、今回の上海の事どう思うかね」
上海で行われていた非公式な日本の停戦交渉について、高木が上海入りした段階からイギリスは把握していた。流石に内容についてはおぼろげなところであったが、東側からの意図的なリークでその全容を知らされることになった。
「悪くないでしょうな、軍を東方へと動かせることを示し、英国の威信は既に示すことが出来た。出来ればあと一押し活躍してもらいたいが、あまり期待をかけても仕方が無いでしょう」
「講和に向けて今から動いておくべきだな、早いところ戦争を打ち切らねば欧州が手薄になりすぎる、まぁアメリカは裏切りの単独講和の陰謀だなどと騒ぎたてる向きがあるようだが」
あの国にも困ったものだ、という顔でイーデンはアメリカの外交を仕切るダレス国務長官の顔を思い出した。硬直的な判断をしたがるダレスと不誠実なまでに現実的と評されるイーデンの仲はよいものではない。
「ええ、あらゆるチャンネルは常に開いておくべきでしょう。
まったく、アメリカの莫迦どもときたら下らぬ情宣にのって我が国のコミンテルンを追放せよなどとわめいているようですな。道具は全て有効に運用すべきということさえわかっていない」
ドイツ宣伝省が中心となって枢軸全体で行われているプロパガンダによって、西日本の悪イメージがじわじわと浸透しつつあった。
「物を大切にすることは大切だな、持っておけばそれだけで武器になることもある」
イーデンがぼそりと言った。 豪州では日本捕虜の受け入れを行っていた。
日本国内での抵抗や脱出の防止、こちら側へと引き込むための好待遇を与えるというのが表向きの理由であるが、
外交において日本が勝手に捕虜を取引しない(逆に言えば、英国が捕虜の処遇を好きに決定できる)監視の意味もある。
今回、日本の秘密講和調停を聞いても英国が慌てなかった理由はそれがひとつにある。
「ええ、いざとなったときに英国ならなんとかしてくれるという期待感を保つことが重要です。それが求心力になります」
「期待感か、それは確かに重要だな。現に私はこの家の食事を楽しみにきたのだから」
●火の粉
■ハンス・オスター
▲ベルリン
外務省はアメリカの国内情勢の激変や、急遽割り込んだ形の陸軍主力の日本義勇軍の調整に終われていた。
ハンス・オスターはそうした情景を眺めつつ、今月最重要視したアメリカへの楔を打ち込む作戦、共産主義の非人道性を訴える情宣活動報告書を眺める。元々の反共主義者が騒ぎたて、一定度の日米の離間を誘えたようだ。
海運の問題もあろうが、今月で無償物資援助は打ち切りとなった。
国務省内部では、日本が抜け駆けで東側と交渉を始めたことが「非道徳的」という批判も手伝って
対日姿勢が硬化しつつあるようだ。これには大統領のおさえが一時的に弱まった国務長官ダレスの反共姿勢も影響しているらしい。ダレスは現在も執拗に共産主義者を政権から追放するように日本へ迫っている。
一方で本戦争で予算が大幅拡大された国防総省、および特需に沸く国民にとっては
この戦争は「悪くない」という感覚が広がっている。
ドイツの赤外線ミサイル使用に衝撃を受けたアメリカ国内では対抗手段として
最新鋭のF100戦闘機のライセンスを日本に無償提供しようという動きがあるようだ。
日本人は器用だ。そう遠くない時期に超音速戦闘機を手に入れるだろう。
こちらも対抗上超音速機を提供する必要があるかもしれない。
メッサーに次期主力の競合試作で負けたフォッケの改造型はどうだろうか。
生産性の観点から全く創られない機体というわけでも無いだろうし、いいかもしれない。
無論、我々はアメリカほどお人よしではないから、それなりの代価は要求するが。
とはいえ、アメリカ国内の人権問題を先に処理せよという意見もあり
アメリカの状況は今のところ不鮮明としかいいようがない。
とにかく自分に不幸が降りかからない限りは続けたいし、なるべく自分の正義感も満たしたい。
いつもアメリカはわがままだ。もっとも、それはドイツも同じことだが。
…そろそろ外交的なアクションを起こすのも悪くない、その時に独逸のイメージが「悪の枢軸」ではまずいな、
…今回関係を築いた宣伝省を軸になにかできることはあるだろうか。
…航空戦力で圧倒された場合にこちらの兵器の売り上げはどうなるだろうか
武装SSと陸軍の対立や空軍省内の抗争によって、更に混迷を増すドイツ政局の中で、
不安定な浮島のような外務省を切り盛りするハンス・オスター次官の脳中には、早くも次の手を探り始めていた。
第三ターン政治判定
東軍
生産力 | 313 | |
陸軍消費量 | 217 | |
陸軍動員 | 0 | |
陸軍装備 | 11 | (第一師団5、戦闘団「泉」6) |
海軍生産 | 9 | (長門3、石狩2、駆逐艦1、潜水艦3) |
航空機生産 | 50 | (光電2型に37(111機)、陣風改に2(18機)、流星改に3(21機)、七式襲撃機8(64機) |
航空基地建設 | 0 | |
施設補修 | 1 | (千葉復旧) |
民需・工場建設 | 15 | |
開発費 | 10 | |
残り | 0 |
・生産力311(-2)
支配地
大阪南部-20
和歌山-10
アクション結果
馬渕大臣+9
想価会 +4
ソニー +5
工場新設 +5
民間復興 +5
・陣営貢献値51(+5)
島田・宮嶋 +5
桂言葉 +6
援軍独2個師 -6
西軍
生産力 | 343 | |
陸軍消費量 | 206 | |
陸軍動員 | 4 | 2Tで確保した余剰人員と併せ1,2,3,4,8,10,ASOに各8%ずつ振り分け、補充。 |
陸軍装備 | 0 | 3D、米21D分の装備生産は第2ターンに実施済み |
海軍生産 | 11 | カボット、甲斐、綾瀬、駆逐艦×3、沿岸艇×1の修理 |
海軍装備 | 2 | 対馬対潜機雷堰構築費(2) |
航空機生産 | 33 | 新星5P(30)、旭光16P(48)、震電改夜戦8P(32)、新星対潜哨戒型(史実AD-3E相当)4P(20) |
航空基地建設 | 7 | 守山(滋賀県)に新設 |
ミサイル陣地建設 | 25 | 守山(滋賀)、舞鶴、伊丹、小浜、桑名(いずれも地対空ミサイル陣地) |
施設補修 | 6 | 舞鶴、伊丹の航空基地修繕 |
新兵器開発 | 26 | 空対空ミサイル7P、空対艦ミサイル7P、対戦車ミサイル7P、輸送機改造型対地掃射機(ガンシップ)5P(改造機はC-119かC-47を想定) |
民需・工場建設 | 33 | 琵琶湖水上運送網整備2P〔琵琶湖各地、淀川大阪湾への航路整備〕、トラック輸送効率化1P、疎開企業への特別融資10P |
・生産力369(+26)
支配地
大阪南部 +12
和歌山 +6
外国支援減少 -10(前ターンより減少分。今ターンを最後に打ち切り)
アクション
白州 +7
野坂 +5
貝塚 -10
工場新設 +11
民間復興 +5
・陣営貢献値 51(+3)
キニスン +6
キング +8
マルコメ +10
マクセル +6
高木 -2
貝塚 -7
オスター -5
フルシチョフ -1
援軍
1個連隊 -2
4個航空隊 -8
機種変更 -1
物資10 -1
生産関連特筆事項
西側
空対空ミサイルの実験的運用開始(一部の新鋭機のみ)
日本、空対艦ミサイルの開発に着手(現体制を維持すれば第5ターンに使用可能に)
対戦車ミサイルは開発難航中
442連隊が米歩兵21師団の増援として参入
※空対空ミサイルは開発が進むごとに搭載できる機体が多くなります.
二個戦闘機大隊 72機
一個戦闘爆撃機大隊 48機
一個夜間戦闘機大隊 48機
F86Fへの換装備機 33機
東側
第一武装SS装甲師団
第六武装SS山岳師団
次ターン到着予定
独陸軍第4装甲師団
独陸軍第9装甲擲弾兵師団
戦闘概況
■8月1日
・東西両軍共に、大規模な戦力の再配置が始まる。
・東日本の第一師団、第三師団の統合作業を開始。第三師団は戦闘団“泉”として再編されることに。
■8月2日
・新潟に、独義勇軍の第一陣が到着。
■8月3日
・西日本の第1方面軍、2個師団を小浜に派遣。陣地構築を開始。他の師団は、大阪に移動中。
・西日本の第2方面軍、滋賀北部に陣地構築を開始。2個師団を機動予備として滋賀南部に拘置。
・西日本の第3方面軍、3個師団で関ヶ原に布陣。陣地構築を開始。
・東日本の敦賀派遣軍、陣地構築を続ける。
■8月4日
・敦賀戦線に、露義勇軍先鋒が到着。東日本軍と交代で前線の守りにつく。将兵同士の交流、活発化。
・多治見に、独空挺師団到着。展開を開始。
■8月5日
・西日本の第1方面軍、3個師団をもって大阪の東・第十二師団の包囲を開始。共産党系組織の蜂起を待つ体勢に。
・東の第十二師団は、陣地戦ではなく、積極的な市街戦を展開するが、次第に蜂起軍に巻き込まれ、戦闘行動は次第に収束。
■8月6日
・静岡、浜松に関東からの東日本軍到着。陣地構築を開始。
■8月7日
・西日本による“名古屋疎開”が始まる。第3方面軍は、現地の破壊工作や移動の管制などで、これに協力。
■8月9日
・大阪で、労務者等による、東師団に対する「蜂起(正確には妨害活動)」が開始される。
■8月10日
・西日本の暗殺部隊による、東・第十二師団の襲撃。師団長暗殺は失敗、弾薬集積所の破壊は成功。
■8月15日
・西日本、第1方面軍による大阪総攻撃が始まる。同日、労農勢力による大規模不正規戦も勃発。
■8月17日
・新潟への独SS義勇軍の輸送完了。
■8月18日
・SOS旅団が山岳踏破訓練を終え、滋賀に到着。大阪の蜂起部隊と連動しないように、月末まで厳重な監視の元に置かれることに。
■8月20日
・大阪の東師団、降伏。降伏した将兵の半数近くが興奮した蜂起部隊の虐待を受け、死傷者多数。
■8月27日
・西日本の第3方面軍、名古屋に布陣していた2個師団を、木曽三川の西側に撤退開始させる。
■8月31日
・西日本、第3方面軍の2個師団、桑名に到着。
第三ターン終了後、配置概観(白地図提供 http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/map/map.html)
赤字=東軍
青字=西軍
US=米国
Br=英連邦
Ge=独逸第三帝国
Ru=露西亜連邦
無地=東西日本
M=海兵(軍の所属反映であって海兵師団全てにMを付けているわけではない)
T=戦車師団(名称反映であって戦車師団全てにTを付けているわけではない)
C=騎兵師団
数字=師団番号
B=旅団
R=師団
東軍凡例
GeB 武装SS義勇旅団「葉鍵」
GeA 独空軍義勇降下猟兵師団「ローゼン」
MR1 海軍第一陸戦隊
MR2 海軍第二陸戦隊
R3 旧第三師団戦闘団「泉」
SS1 第一SS装甲師団「ライプシュタンダルテ・SS・アドルフ・ヒトラー」
SS6 第六SS山岳師団「ノルト」
RuT 露義勇親衛戦車師団「リューシカ」
Ru1 露義勇機械化狙撃兵師団「トーニア」
Ru2 露義勇機械化狙撃兵師団「モーリァ」
西軍凡例
Aso 阿蘇教導団
Br 英連邦連合師団
BrBA 英近衛戦車旅団
BrBT 英空挺旅団
US82A 米第82空挺師団
US1C 米第一騎兵師団
USM 米第5海兵師団
■陸戦担当マスターより
・今回は難産でした。東西のアクションの「噛み合っていないところが噛み合ってしまった」結果、陸では戦闘が起こらなかったので楽だった…なんて事は全然なくて。
戦闘が行われる時は、アクションをつきあわせ、「大きな戦闘の流れ」を決めるわけですが、その中でキャラクターの「立ち位置・やろうとしたこと・やったこと・出来なかったこと」がはっきりしてゆきます。
今回は、「大きな流れ」のない分、気持ち的にはアクションを一つ一つ立ち上げてゆく感覚があって(もちろん、実際にはしからず、なのですが)、苦労してしまいした。
・西側の戦略(名古屋放棄・防衛ラインの確定)は、全く正しい判断だったと思います。
うーむ、良く思い切れたなあ。正直言って、感心しました。「戦略的には」ですが。これからが大変ですが、「頑張れ!」ですね。
・東側は、いよいよクライマックスです。今回のリアを受けた、次回のアクションが楽しみです(笑)。
ゲーム後半は、東側が主役なので、気合いが入ったところを見せて欲しいところです。
・あと今回は、結構マスター間で意見の分かれたところがあって、ちょっと大変でした。いや、主として私が悪いのですが(汗)。
ただ、それぞれの「L&S2というゲームに対するイメージ」が割とハッキリして、それはそれで面白かったかな…と思います。ちょっと不謹慎かもしれませんけれども。
■海戦担当マスターより
坂本提督です。
大幅な遅延をお詫びいたします。申し訳ありません。
連絡事項をいくつか申し上げます。
1:小型艦部隊のナンバーについて
小型艦部隊について、今まで固有の名前が存在しなかったものにナンバーを振りました。
各ユニットにナンバーを振っただけですので、編成そのものは変わっていません。
2:小型艦部隊の喪失の表記について
今ターンに喪失したものについては、名前のところに表記してあります。
ターン開始時に7隻編成のユニットがターン中に2隻を失った場合、「7→5隻」となります。
次ターンのアクションのエクセルでは残った隻数(上の例ならば5隻)に書き換えて提出してください。
3:小型艦部隊の損傷の表記について
前ターン終了時の損傷状態から、今ターンの修復分を取り除き、そこに今ターンの損傷分を加えて表記してあります。
つまり所属艦艇の状態全てを表記しており、今ターンに発生した損傷のみを表記しているわけではありません。
4:損傷小型艦の出撃
特に指定が無い限り、損傷した小型艦は部隊が出撃しても港に残り、健在な艦艇だけで処理しています。
弾除けで良いから出したい、と言う時などはその旨エクセルに明記してください。
5:エクセルとアクション
エクセルにおける派遣先とアクションにおける派遣先が異なることがたまに有ります。
その場合はマスター判断で派遣先を決定してしまいますので、出来るだけすり合わせをするようにして下さい。
6:PCの階級、役職、部隊名
上の5とも関わってきますが、PCの指揮、所属しているユニットなどを職業欄に明記して置いていただけると助かります。
こちらのミスも減りますし、エクセルとアクションを書かれる時に食い違いに気付きやすいと思われますので。
7:潜水空母の艦載機について
余り使い勝手が宜しくないようなので、マスター判断で航空巡洋艦に配置転換しました。
もちろんこれは、航空巡でも使えるよ、と言う意味なので、潜水空母で使いたければ戻してしていただいても構いません。
増産して、潜水空母と航空巡の両方で使うというのもありです。
8:修理の手順について
艦艇を修理するためには所定の「生産力」を消費すると同時に、
そのターンの任務で「整備」を選択しなければなりません。
つまり作戦行動を実施しつつ、修理を行うことは出来ません。
ただし小型艦ユニットについては、出撃する本隊の任務とは別に、
港に残留した損傷艦艇を「整備」任務扱いとして修理を行うことが出来ます。
■空戦担当マスターより
「より多くではなく、より深く。分かる人間にはどんなものより深く分かってもらえるTRPG。
ある人は笑うだろう。また別の人は罵るだろう。ある人は耳を塞ぎ、ある人には目のはしにも写らないだろう。ただ、分かる人にはどんなTRPGより伝わるはずだ。僕らが本気でいる限り。
僕はそれを信じる。君にはこれが伝わると」(井上純弌『、『エンゼルギア天使大戦TRPG』』)
……クリエイターとゲーマーの関係は、かくあるべきだと私は思っています。
さて。最初にお詫び。第二ターンリアにおけるハインケル443の説明文中、比較対象になっている「サンダージェット」は「ストラトジェット」の誤りです。
他は、今のところ大きな誤りはありません。「第〇次攻撃」と「第〇波攻撃」、「艦載機」と「艦上機」など、厳密にやっても喜ぶのは一部のマニアだけなところでは、あえて解りやすい言葉を使ったりはしていますが。
今回の空戦は、東が守備固めに徹していたのに対し、西は敵が動かなかった場合はどうするのか指定がなかったにも関わらず(八原さんのアクションでロシア陸軍の集結が爆撃要請のトリガーになっていた結果)なし崩しに戦闘を開始せざるを得なかったこと等を考慮して、このような結果になりました。
増援については、熊猫さんがそれぞれの国の内情や保有戦力などを勘案して公平に決定しておられますので……兵站能力においてアメリカと他の国を公平に判定するのは不公平な気もしますが……、ご不満はおありでしょうがご理解下さい。サンフランシスコからの海路による太平洋横断とベルリンからのシベリア鉄道その他によるユーラシア大陸横断では、差があるのはどうにもなりません。
両軍ともPLのアクションに関係ない部隊の合流等がありますが、これは補充担当の熊猫さんの判断です。
例えば、西日本の空母機ですが。艦載定数を多少オーバーするくらいなら露天繋止したことにして採用できますが(勿論、露天繋止に伴うペナルティは課します)、運用能力がない艦にジェット機を載せると言われても不可能です(空母の定数やジェット機運用能力のあるなしは、ルールに書かれています)。
史実の呉空襲において、艦長曰く「本艦の可燃物は完全に除去していた自信がある」『龍鳳』が盛大に炎上しています。木製の飛行甲板は、それ自体が燃えるのですよ。そして、ジェット機は、排気炎を噴出します。……つまり、そういうことです。内田弘樹先生の『幻翼の栄光』にも、ジェット機を「艦載機にでもすることになったら、厄介ですなあ」という台詞が出て来ますね。
「無理矢理積みました。事故により失われました」で済ませようとも思ったのですが、熊猫さんの判定で基地航空隊に上積みされました。なお、私の判定で、ゴタゴタを理由に練度を下げています。ルール無視にペナルティは当然ですし、実際問題として、反復練習をできない時期が続くと技術は簡単に錆びつきます。
それにしても、この段階でこんなにも練度100をオーバーする部隊が出るとは予想外でした。もっとたくさん落ちて、補充により練度が低下すると思っていたんですが。ゲーム途中でルールを変更するのもフェアではありませんし……どうしたものか。
(ちなみに、100をオーバーしても、計算上は100として扱っています。ただし、マスクデータとして管理し、補充による練度平均化の時や、機体喪失時のパイロット生還判定……勿論、ベテランが生き残ればその分補充パイロットの練度が上昇します……において使用しているので、不公平にはなっていないと考えます)
前回もそうでしたが、かなり「小説型リアクション」を離れて「小説」になってしまっています。やはり、制限された文字数でのアクションからリアクションを作るのは大変です。喜んで頂けたら幸いなのですが……
ともあれ。まだまだ、勝負はどちらに転ぶか分かりません。暑くなりますが、体調を崩されませぬよう、頑張って下さい。
名古屋的道化師でした。
>ガンシップについて
個人的には、「これは、不可能と言われた短期改造に挑んだ男達のドラマである」(ナレーション:田口トモロヲ、BGM『地上の星』)という方向性で書きたかったですが、アクションを忠実かつ公平に判定すべきマスターとしてそれは許されません。
史実のガンシップ・プロジェクトではどうでしたか? また、S‐2FトラッカーをベースにC−1トレーダーを開発し、更に魔改造してE−1トレイサーにするまで何年かかりましたか? 他にも、例を挙げればきりがありません。リアで鶴野正敬(史実では、『震電』の基本設計をまとめたものの、プロペラの件とかの細かな問題が面倒になって九飛とつるんだ技術少佐。この世界では、対米戦の時期がずれ込んだことの影響で早期退職・天下りしたことになっています。B‐29迎撃が必要にならない限り、エンテ翼機を開発しようなどと考える人間は官僚機構に居場所はありませんから。史実でさえ、当初は鼻で笑われています)に言わせた通り、機体の改造というものは一朝一夕にはできないのです
当然ながら、英軍のガネットAEWも、史実のガネットAEW3(「ガネットAEWの第三期型」ではなく、「ガネットシリーズの三番目、機種はAEW」という意味です。ガネットの場合だと、最初が対潜哨戒・攻撃機型のAS1、次が練習機型のT2……と続いていって、電子戦型のECM6で終わります)とは別物です。リアの記述を見れば明らかですが、念の為。
それでなくても、登場を史実より早めようとしているわけですからね。生産力も勿論ですが、MSPが必要なのです。
結局、生産力の投入と、技術水準的には不可能ではない等を考慮して、あの判定となりました。生産するのであれば、能力値は、生産性2、戦闘1、爆撃1、航続距離4,723、最大速度357というところです。対ゲリラ戦にしか使えない代物ですから、これでも過大評価かも知れません。
「こんな空飛ぶ棺桶はいらん!」とゲーム期間内の実戦投入を断念するか、「前線の歩兵の生存率を考えたら、パイロットに多少犠牲が出ても帳尻は合う」と現状のまま冷酷に生産するか、充分なMSPを投入してきちんと開発するかはお任せします。
>サイラス&ラインハートさん
MSPを投入しているので、改造は可能でした。が、わざわざ改造しなくても同様の機体が存在するわけですしね。プレゼントです。一機だけの員数外なので、戦力表には載せていません。第一戦略偵察中隊のプラス修正として処理します。
……にしても……アメリカの場合、一々改造しなくても、史実でその役目を果たしていた機種名を指定して、「これこれの理由で欲しい」と明確に説明できれば、割と来ますよ。
>樋口慶二さん
いやいや、評価が厳しい私の目で見ても、割といい感じのアクションですよ。兵器のスペックとか専門用語などの知識は、戦上手であることと何も関係ありません。戦争に必要なのは、『軍事にしか関係ない知識』ではなく、「数の多い方が勝つ」といった『世間一般の常識』です。夜郎自大に陥った専門馬鹿の末路は、いつも同じです。
……今回の場合、せっかくMSPを使ったのがこれっきりでは残念なので、一回だけ、あなたの行く先が爆撃を受けた場合に有利な修正を加えます。
>東日本航空作戦本部について
新しい司令部組織を作るだけの人的資源があるのでしょうか? 各部隊から人員を抽出して集成するくらいしか思い付きませんが、当然ながら、引き抜かれる側は弾力性を失います。その辺りまで考えて欲しかったと期待するのは、荷が重過ぎますか?
……というわけで、またしても前田俊夫が大暴れすることになりました。このままだと、冗談抜きに「198X年、東の実権を握った前田俊夫空軍元帥は、第二次日本戦争を始めることになる……」エピローグになる可能性があります。
PLさんが上手く立ち回らないと、西側では共産党、東側だと前田が戦後のガン細胞となっていきます。ご注意ください。
駄目な点ばかり指摘していても気が滅入るので、建設的なアドバイスをば。
空挺部隊は後方重要拠点の奇襲制圧を行える、あるいはそのことをちらつかせて敵に守備隊を残さざるを得なくさせるところに真価があります。あまり前線に出さない方がよろしいでしょう。地上戦においてはあくまでも軽歩兵ですから、割と簡単にすり潰されますよ。
■政民担当マスターより
すいません、遅れたりいろいろとミスをやらかしました。
それ以外にもイロイロとPBM上も実生活上もマスターとして失格なことを
いくつかやらかしておりますが、どうにか御寛恕を頂ければと思います。
今回はいわば前半戦の決算が出てきた局面というべきでしょうか。
信じられない事が起きたという場面もあるかと思いますが
「風の息づかいを感じていれば、事前に気配を感じていたはず」(2005年12月27日 毎日新聞社説)です。
諦めて現状を認識して対策をしてください。
米軍上陸移行の各国の戦争戦略の再検討がひととおり片付き、終局を見据えての外交戦が始まりつつあります。
このまま流れに身を任せるもよし、場をゆさぶるもよしです。
集団で何かを為すときは最後まで「闘志」を持ち続けることが何より大事です。
マスターとしても以後も気を引き締めてやって参りたいと思っておりますので何卒お付き合い致します。
>五島喜一様
見事な火消しでした。今後の身の振り方については自由です。
>我妻由乃様
一応現状では東日本への帰還が有力ですが、まだ選択肢は留保されています。
>ラスプーチン様
どこでも好きなところへ行ってください。ただし、西日本とアメリカからは入国禁止の措置が出ています。
>桂言葉様
時代背景とキャラクターの環境からこうなりました。マスター側に設定を投げた自己責任とご了解下さい
>井上成美様
余剰物資は工場再建へと振り分けました。
>マーチン・ルーサー・キング・ジュニア様
死亡しました。再登録をお願い申し上げます。
>マルコメ・バッテン様
麻薬取締り、および内乱罪で投獄中です。