Play By Mail　"Two Japan Story"

Ｓ１『大撤退』

●時間よとまれ
■服部卓四郎
▲新潟

　服部卓四郎参謀総長は、大きな机の前に端座していた。地図の上には、様々な記号を書き込んだ木片が並べられている。
「三十六計、逃げるにしかず、か」
　彼の声は低く、その部屋に誰かがいても、耳にすることも難しかっただろう。

　地図の上に置かれている木片は、東西両日本軍の部隊を表すものだ。関東から広島までをカバーするその配置図は、東日本軍…特に山陰・山陽方面に展開する部隊が、今累卵の危機にあることを教えている。西からの敵軍、上陸した中部地方の敵軍。両軍が関西で手を繋ぐ時、七個師団以上の東日本軍が、包囲環のなかで溶け崩れてゆくだろう。

　この危機を打開する方策は？　一部の参謀は、前線に集結しつつある部隊を用いての限定反攻を主張していた。もちろん、今現在、全面的に敵を撃破できるような兵力がないことは、東日本陸軍の共通認識と言っていい。ただ、「防衛のために（イニシチアブを一時的に握るために）攻勢を行う」という誘惑は、どんな時代の防衛担当者にも常に魅力的に写るのだ。

　しかし、服部が下した決断は、「逃げること」だった。中部の師団は防衛のために再配置し、山陰・山陽の部隊は全力で敦賀に向けて撤退する。もちろん、単に逃げるだけではなく、遅滞防御を繰り返しながら…という形になるだろう。しかし、その本質が「逃げる」ことには代わりはない。
「明日のために、今の屈辱に耐えるのだ。それが男というものだ」
　服部は、居並ぶ参謀たちに向かって、そう語りかけていた。誠に、矜持と知性の入り交じったこの男らしい台詞だったと言えるのかも知れない。

　かつての帝国陸軍なら罵声を浴びたかも知れないこの決定も、表面上は静かに受け入れられていた。第二次大戦、第三次大戦、そして同盟国の第三帝国の強い影響を受けた現在の陸軍は、かつての攻勢一辺倒のドクトリンを持つ軍隊とは違うのだ。
　…同盟国の強大化した分、これだけ追いつめられた現在でも増援が見込めることが、その変化を後押ししていたのかもしれない。撤退の一番手に、鉄道をフル活用して、戦車師団や機動歩兵師団を指定することを参謀たちが進言したことも、その変化を示していると言えるだろう（重装備を可能な限り失わせずに、将来の手駒として重要な師団を優先する、全く合理的な判断だったが）。

「問題は、時間と言うことになるのか」
　彼は、すでに撤退戦の後について、思いを巡らせていた。

●楔
■楳澤三郎／盛田昭夫／井深大

　首都防空の要となっている新潟空港に内閣技術院の盛田昭夫が訪れていた。前線整備員にミサイルの概念と整備上の注意点について説明するためである。

「メ式1型誘導弾甲＜蝮＞は基本的には大型魚雷が物理上運用可能な機体（爆撃５以上）であれば吊り下げで運用できる。陸軍で言えば飛龍、七式襲撃機、海軍で言えば連山、銀星、流星改などだ。現在、＜蝮＞を元にトランジスタを本格的に使用したより頑丈な空対艦弾頭を研究中である、来月には君たちの前に見せることが出来よう」

　そりゃあありがたいですがね。聴衆の一人であった整備員、楳澤三郎が茶化すように言った。「その新型弾頭が出来ることにはその弾を積める爆撃機がどれだけ飛んでいるかわかりませんぜ」
　場に半ば自棄じみた笑いが響く。米軍参戦以来制空権を失いつつある帝国軍にとって生産の最優先とされているのは戦闘機である。損害を出し続け補充もされない爆撃隊があとどれだけの命脈を保てるのか。
　特に爆撃隊の整備に関わっていた整備員は次々と失われていく機体と搭乗員の命を目の当たりにしているため、絶望感は深刻であった。

　盛田はその言葉を聞いて酷く落ち込んでいる様に見えた。
「いや、努力をくさしているわけじゃないんだ。でも空に関わる者として言わせて貰うとだな。空を失ったら戦争には勝てない」

☆

「地対空ミサイル生産増強と開発資源の配置転換？」
　井深大は盛田からの進言を怪訝そうに反復した。
「ええ、どうにも我々は技術者的夢想を追いすぎているように思えまして」
「人が作りたいものを作る、そのための理想工場だろう」
「工場が無くなってからもそんな事を言っていられますか、地対艦弾道弾部門に関わる人材を赤外線空対空誘導のシークエンス開発に回し、爆撃機減少で不要となった生産資源は地対空誘導弾の量産へと回すべきです」

　井深はああ、と鷹揚に頷いて部屋の奥の金庫へと向かった。
技術者らしく「こんなこともあろうかと…」と言って修正された計画書でも用意していたのだろうかと盛田は思っていたが、井深が出してきたものは想定外だった。

「ドイツ空軍の最新兵器、赤外線誘導空対空誘導弾＜ウロボロス＞だ」
「ほう…」
「これがライセンスで生産できるようになる。それで空戦は変わる。改良は必要になってくるだろうが、
それはドイツから来る連中の仕事だ、あまりシフトする必要はない。
むしろやるべきは敵艦隊がうかつに近づけない体制だ。地対艦ミサイルの開発は正しい」
　井深は自分の判断の正しさを強弁した。

「地対空ミサイルは現状では艦隊空ミサイルに使用している技術をそのまま転用した
電波誘導指揮ならば量産可能ですが、終末に赤外線誘導、しかもトランジスタによって衝撃に強いものができれば
画期的に防空は変わるのではないですか」
なお執拗に食い下がる盛田、井深の見識を尊重している彼がここまで食い下がるのは珍しい。
流石に井深もなんらかの答えを出さねばならないようであった。

「う〜ん、既に空対艦ミサイルの量産体制は軌道にのった。
次は地対艦ミサイルだが、既に試作段階までは終わったから、来月までには量産可能な状況まで仕上げる。
それが終わるころにはウロボロスの運用実績も前線から入ってくるだろうから、それからになるけど」

「…まだこの空対空ミサイルは使っていないのですか」
「ああ、ナチスドイツの秘密兵器だぞ？今回日本に技術を出したのも俺たちのトランジスタ技術とバーターだそうだ」
　井深の言葉を聴いた盛田は勝手に上がそうしたことを決めていたことに憤りを感じた。
「なんてことを！今後の日本が電子立国として生きるための糧を売り払うなんて！このままでは日本はNeinと言えない国になってしまいます」
「俺を怒っても仕方が無い、上が決めたことだ。そうでもせんと確実に空戦で死ぬ人間は増える。
それに、国が無くなってからNeinと言っても虚しいだけじゃないか」

●ダンディズム
■後藤孝志／島田介子
▲新潟

島田介子は緊張していた。
なにせ、今いるのは大日本帝国首相官邸である。
島田は後藤首相への独占インタビューをするために官邸賓客室で待たされている。
ただ本能に実直に逝毛田についていてきただけの小娘に過ぎない自分が、首相官邸へ招きいれられたのだ。

想価会の女性向け雑誌「ウッシオ」のインタビュアーとして後藤首相に会ってこいと逝毛田に指示されたときは驚いた。

それからというもの必死で勉強をしたが、何故想価会が突然こうした機会を得られ、
自分に白羽の矢が立ったのかはわからなかった。

（ひょっとしたら枕営業？イケナいわ、私は逝毛田先生だけのものなのに）
　そんな口に出せないような妄想を膨らませていると秘書官が呼びに来た。
島田は慌てて桃色の妄想を振り払い、案内について行くと首相の待つ応接室へ通された。
（ええと、ノックをして、挨拶の言葉は…）
頭の中で整理をしようとしていたら、突如としてドアが内側から開けられた。

「よくいらしてくれました」
　にこやかに島田を迎え入れたのは新聞の写真で見た後藤孝志首相その人であった。予想外のことに慌てて固まってしまった島田をいささか芝居めいた身振りで室内へと招きいれながら優しく島田のことを尋ねて来た。
「『ウッシオ』の島田さんですね？お噂は聞いておりますよ、新潟大行進では艶やかに先頭を進まれたそうですね。欧州に居た為に残念なことに見逃してしまいました」

「首相閣下のお耳にまで入っているとはお恥ずかしい限りです」

　おそらくは、これは単にお世辞ではなく自分の行動を把握しているという公安上の牽制でもあるのだろう。それにしても単なる雑誌取材を受ける体制ではない。これまでの無関心からは大きく変わっている。これは上の方で何かの関係が樹立されたと考えた方がいいかもしれない。

「私は、とんと宗教には無頓着でして、苦しいときの仏神頼みのようでいけまんが、想価会の帝国に対する貢献は大変ありがたいです」

　島田は素直にこの言葉を喜んだ、首相から感謝の言葉を引き出せば今後の会の活動は非常にやりやすくなる。言ってしまえばこの言葉だけで取材の大半は果たされたようなものだ。
「我々としても、首相がお認めになったことは重要な意味があります。何か他にお求めになることはあるでしょうか」
「宗教界には困民救済や人脈網を生かした情報を提供してもらうなどの協力をお願いしたい、特に最近は共産党シンパによるサボタージュが目立っているといいますからな」
「信仰も拠るべき国家も見失った不届き者に仏罰が下るように最大限の協力を行うように先生にお伝えします。それから…」
　取材はそれから現在の情勢の見解や後藤の人生観といったことに移っていった。

　インタビューにも慣れてきて落ち着いた島田は後藤のそぶりをどことなく逝毛田と比較してしまう。逝毛田の若く、時に荒々しささえ感じるものとは違った魅力を放っている。 やや短身気味の背丈に歳の割りにはすっきりとした体、丸顔に沢山の笑い皺を浮かべ、豊かな白髪を乗せた穏やかそうな老人に漂っている上品な気風と知性、そしてどこかに悪戯小僧めいた稚気の前にどこか安心してふるまえるような気配がある。

　或いは、逝毛田が円熟を重ねればこうしたものかとも思うが、やはりイメージが重ならない。逝毛田には死ぬまで熱烈に闘い、何かを求め続ける姿が似合う。 その性質を言葉にするならば後藤はダンディ、逝毛田はエネルギッシュなカリスマということになろうか。そう考えたときに島田の頭の中にはウッシオの見出しが決まった。『今、後藤孝志がダンディズム』だ。こういう企画は持ち上げる対象とともに下げる対象があった方がわかりやすい。下げるとすれば西日本の井上成美か、あの生真面目で堅苦しそうな顔は後藤と並べたときに対照がはっきり浮かび上がるだろう。
『抱かれたくない男、第一位』
これならば主婦層の下世話な趣味をかきたてられるだろうし、
ませこんだ女学生にもウケるかもしれない。

頭の中でわれながらよい企画が出来そうだと喜びながら、島田はインタビューに政府と想価会の友好樹立の確かな手ごたえを感じていた。

●セクショナリズム
■加藤健夫
▲新潟
加藤健夫中将が主唱する､航空作戦本部の設立計画は暗礁に乗り上げていた。
「当然ですね」
合同航空指揮調整所の参謀の一人である､前田俊夫海軍大佐が嘲う。
「戦術レベルの組織に過ぎない合同航空指揮調整所を設けることすら､前軍令部総長の尽力があってなお､一年かかったんです。前軍令部総長亡き今､その発展的解消とは言え､作戦レベルの組織が簡単にできるわけはない。まあ､率先して死にに行って指揮系統を麻痺させる程度の人ですから､いたとしてもどれほど役に立つかは疑問ですが。
大体､犠牲を出しながらも戦果を上げた海軍航空隊が､一介の陸軍中将……それも､敗軍の将に従う理由が見付かりませんね。海軍機として生産された筈の『光電』を大量に持って行った上に､そんなことを強制したら､また五・一五事件が起きるんじゃないですかな｣
いつもそうであるように､前田の嫌味は辛辣極まりない。そして､的を射ている。
航空作戦本部。陸海軍の基地航空隊を統合運用する組織。最前線で戦うパイロットの間では､現状では不可欠だという認識が一般的になっているが､だからと言ってそんなものが簡単に作れるほど､大日本帝国陸海軍のセクショナリズムは甘くない。前大戦末期､本土決戦という段階においてすら叶わなかったことである。陸軍（正確には航空総軍）主導という取り決めがあったにも関わらず､実態はてんでばらばらであった。情報の共有すらされなかった。
また､一連の戦いの結果を見れば､加藤は敗軍の将と言われても仕方がない。とりわけ陸軍内部で批判が強い。下関敗退の責任をなすりつけたい者や､加藤が失脚すれば順送りに出世できる下っ端連中がそれだけ多い､ということである。
だから､加藤は腹を立てずに問う。
「しかし､これは必要な組織だ。どうすれば作れる？」
「簡単です。元帥になって頂けませんか。そうすれば誰も逆らえません」
「真面目に答えたまえ」
「俺はいつでも大真面目ですよ」
凶相の男は､犬歯を見せて笑った。
「二階級特進がお嫌でしたら､手近で間に合わせるとしましょう。
……それまでは､合同航空指揮調整所の権限で凌ぎます。そう難しくもない｣
事もなげに言ってのける前田に､加藤はふと恐怖を覚えた。
自分以外の全てを無能かつ怠け者と罵倒できるだけの天賦の才と勤勉さ､かつ実際に罵倒する人格とを併せ持ち､手塩にかけて育てた部下を犬死させた連中への復讐を決して放棄しない彼に暗躍する機会を与えたことは､敗北よりも酷い未来を招き寄せるのではないか､と。

●ドイツ軍は複雑怪奇
■ハンス・オスター
▲ドイツ空軍省

「どういうことだ！事と次第によっては外務省は抗議せざるを得ない！」
航空大臣アドルフ・ガラントを前に唾を飛ばしてまくしたてているのはハンス・オスター外務次官である。

「さあてねぇ、私は退役した将校に命令を出す立場にないのでね」
　航空大臣アドルフ・ガーランド（この苗字は､ドイツ語では『ガラント』と読む。ただし､彼の家はフランス移民の子孫であり､先祖代々フランス式にこう発音した）上級大将が､しれっと言い放った。国家と空軍のためにヒトラーの誤った方針に逆らい､そのために（ヒトラーのご機嫌取りに懸命な）空軍内部でも疎まれて最前線に飛ばされ､そして生き延びた過去を持つ元撃墜王である。外務次官如きに物怖じするものではない。

「現地司令部からも現在降下猟兵投入の意味は無いとの声が上がっています、なのになぜ今なのですか！」
　ハンス・オスターの怒りの背景には外務省が予定していた派遣計画が脆くも崩れ去り、それによって増援の出し入れを統制することでドイツ国内での権力抗争の調整と対日外交における主導権を奪取する意図が無為になったことがある。

　在室していた降下猟兵軍司令官クルト・シュトゥデント上級大将が､誇らしげに言い切る。
「それは私の元部下達への侮辱ですな、いかなるときでも先陣を切り、どのような状況でも殿が務められるのが私の部下でした。」
　それは全くの事実だった。こと戦闘に関しては一万六千名が八百七名になったイングランド降下での戦訓を戦い抜き、降下猟兵軍を一手に握る男を前に反論を出来る男は存在しない。

　ハンス・オスターは自らの失敗を自覚せざるを得なかった。ドイツ空軍はケッセルリンク総司令官の他に戦争が出来る男が二人存在し、かれらとケッセルリンクの仲は良好とは言えない。複雑怪奇なドイツ軍を統制しようなどという所業はあまりに大それた行為だった。それでもオスターはなんとか悔し紛れに述べた。
「このことは大臣に報告しておきます」
　いかにも言質を採ったという厭らしい笑顔を見せつけながら空軍大臣ガラントは切り返した。
「ああ、構わんよ。それでは私も軍の総合計画に対しての外務省の対応について総統に報告しておくとしよう」

●外務省の受難
■エルンスト・ジーメンス
▲ドイツ外務省

「いやあ、集中砲火だった」
　カナリス外務大臣は客人に愚痴をついた。客人の名はエルンスト・ジーメンス。政商一族に生まれ若くしてジーメンス商会の屋台骨となっている男である。
「といいますと、やはり、軍部ですか」

「ああ、どこも金と武功の稼ぎ時で目が血走っている。派遣延期論でも述べたものならば、たちまち外務省の予算を削って自分に寄越せとまでいわれたよ。総統閣下直々に『日本救援は国家意思である。勝手なことをして足並みを乱すな』とさ」
　新大陸人のように肩をすくめてカナリスはぼやいた。ジーメンスは相槌を打つ。
「おまけに、自分の中の手綱も握りきれて居ないほどの輩もおるようで、困ったものです」
「しかたあるまい、なにより煽っているのが総統なのだからな、総統にしてみれば汚れた部屋のゴミを端に積み上げるような気分なんだろうな」


　客観的に言ってカナリスの分析は的が外れていた。ドイツは海を失うことがどれほど戦時において危険であるか、平時において経済効率で不利になるかを先の大戦以来思い知らされている。太平洋を完全に失えば、その戦力は大西洋やインド洋へ向けられ、一層ドイツは苦しい立場へと追い込まれよう。日本を諦めないのはドイツのエリートに染み付いた国家意思の反映である。
　この流れにあまりに抗えば、目障りとみなされ外務省そのものを危機に晒すであろう。欧州帝国を志向する集団などからすればドイツのわがままを許してはおけない、総統からの叱責は警告と考えるべきだろう。

「ええ、餓鬼のオムツを洗うのも大変ですからな、少々片付けが荒々しくてもしかたありますまい」
　ヒトラーを汚れ物に例えてひとしきり笑い客人の本題に入る。
「メッサーシュミット社への工作の件ですが、どうにも芳しくないですな」
「なぜだ？ライセンス生産をキャンセルした日本への恨みは強いはずだが」

　ジーメンスは殊更に商売人風に言う。
「いやー、いつ地図から消えるかわからん国から旧式機の安いライセンス料をもらうよりも、ドイツ空軍に新鋭機を発注してもらったほうが儲かりますからね」
カナリスは苦りきった顔でジーメンスの説明を聞く。
「成る程、ということはおそらく引き換えとして義勇空軍はメッサー社が優先的に配備されるということか、確かにそれならば日本へは寧ろ感謝さえ覚えるかも知れんな。ここまで考えてやっているとしたらあの後藤首相やはり侮れんな」

「まあ、航続力から言ってもそうなるでしょう」
「そして君はメッサー社にインド売却の仲介の話は成功させるか…なんだか、私だけが損をした気がするな。しばらくは自重せざるをえないか。まあどうせ、戦時中の外務省などというのは無力なものだ」
「つまりは、講和までは雌伏の時ですか、それがよろしいかと存じます」
「ああ、是非ともそのときまで肩の上に首を残さねばならんからな」

●譴責
■ルドル・フォン・シュトロハイム
▲ハバロフスク

ルドル・フォン・シュトロハイムＳＳ大将は日本救援義勇軍本隊の指揮をとるべくハバロフスクで部隊の集成を開始していた。彼には3個師団が与えられる予定となっている。
朝鮮には陸軍を中心に増援が組まれており、その補給も考えるといいところこの3個師団が武装ＳＳが極東に派遣しうる最大の数であろう。
先行して第1SS戦車師団、第6SS山岳師団をハバロフスクへ集結させているが、あと１個擲弾兵師団が後置している。

　シュトロハイムには懸念があった。どうにも日本の態度が気に食わないといった程度のものであった。一度は「頑迷な日本首脳の目を覚まさせるために意図的に到達を遅らせるべき」という上申書まで送りつけていた。それに対するハイトリヒ長官の回答は「『日本を支援すると仰られた』総統陛下の言葉を嘘にするつもりか」と強く叱責をするものだった。

　更に「日本首脳の意識の問題点」を言い立てると「それは貴官の考えることではない、可及的速やかに持ちうる戦力を活用し日本を救援せよ、血を流せぬ臆病者は不要である」と免職を仄めかす苛烈な命令が下った以上、どれほど懸念があろうとも否応はない。シュトロハイムは自らの懸念は忘れるより無かった。

　ハイトリヒや東日本の政治的な玩具にされるのは不愉快ではあったが、戦いは一度勢いがついたら止めにくいのも確かである以上、東日本が苦境に陥っている今、なるべく早く救援に行くことは軍事的な要求でもあった。なにせ彼の手勢だけでアメリカ軍を打ち負かすことは不可能なのだから。

●失わぬ為に
■ゲオルギー・コンスタンチノヴィチ・ジューコフ
▲ウラジオストック

　ウラジオストック軍港には兵員を輸送するための貨客船が溢れていた。

　なんだって、自業自得で戦争を始めた莫迦どもを助けに行くためにロシア人の血が流れるのだ。内心での反感を顔に出さぬように気を使いつつ積み込みの作業を見守っているのはゲオルギー・ジューコフ大将であった。
　ロシアが誇る軍才の持ち主である彼であったが、戦歴は敗北に塗れていた。その殆どが政治的に手足を縛られたが故の物だ。今回もまた、手足を縛られての戦争へと趣く。気は進まないがいつものことだと気を静めていると足に五寸釘を打ち込まれたような鈍痛が走った。

「閣下、どうも顔に覇気がありませんわ、そんなことでは兵の士気に触ります」

　ピンヒールの踵で踏みつけられた爪先の痛みを堪えつつジューコフは隣の副官の横顔を窺う。戦果高らかな将軍の例にもれずベリア女学院卒の整った顔立ちの副官が薄笑っていた。ジューコフの元につけられた彼女はどういう意図かサディズムの才能を引き出されいた。もちろん性的な意味においても。付き合わされる身とあっては堪らない。

「その通りだな、気をつける」
　表面上は取り繕って締まりのある顔立ちを作ってみせる。不服従は夜の鞭の回数を増やすだけだ。女に指導されるような身になるならば、いっその事どこかで敗戦責任を負わされて銃殺されていた方が良かったのかもしれない。しかし、軍と国民の安全への責任感がジューコフに現実からの退却を許さなかったのだ。


「それと、本計画の事ですが」
「作戦上の用兵に関して、貴官に意見される覚えは無い」
「いいえ、私が気にしているのはこの計画を立てた貴方のご健康についてですわ」

　同じようなものだ。つまるところ日本人によって捨て石にされぬように入念に計画の随所に配慮を潜り込ませた事を問題にしたいのだろう。

「閣下はお疲れになっておられるのか、少し慎重に過ぎるように思います。ベリア様は積極果敢な閣下をこそ望まれるでしょう」
「やはり渡洋での作戦ともなると、なかなか経験がないからな。新潟に着いたら少し考えを改めるとしよう」
「是非ともお願い申し上げます。あの島は我々に残された最後の海への出口なのです。失えばロシアの発展は十年は後退します。イギリスを失ったドイツがどれほど大西洋での行動に苦労しているか将軍ならばご存知でしょう」

　要は見解の不一致、そういうことかとジューコフは得心した。古いロシア人にとって、ロシアとは欧州ロシアを指し、その大陸国家としての意義に注目し、いつかは取り戻そうと考える。是に対して彼女達のロシアとはウラル以東のみを以って成る国家を指す。彼女達にとってフロンティアは海に求められるものなのだろう。ベリアの薫陶を受けて育ったからにはその背景にはベリアなりの構想があるのだろう。

　これは私が死ぬ頃にはロシアという国は全く別の国になっているのかもしれない。歪ではあっても女性の地位が向上し、国家の概念そのものに変化が生じつつある様子を見てジューコフはそう思った。

Ｓ２『列島打通作戦』

●モータリゼーション
■石橋湛山／井上成美／白洲次郎／永山時雄
▲熊本

　熊本市郊外には大規模な自動車教習場が出来上がっていた。白州次郎たちが中心になって軍の補給の機械化を勧めるために各地で大規模な自動車教習場を作っているのだった。目下その効果は上がりつつあるが、肝心の車の補給はかなりの部分アメリカに依存しているため効果を持つのは今後のことになってくるだろう。

　それらの教習場の中でも最大のものである熊本の教習場を石橋湛山首相が慰労に訪れていた。相変わらず熊本要塞で引き篭もっている井上成美国防相との連絡をとる意味もある。
　大規模な軍隊を統合運用する指揮所として熊本要塞が設備の上で適しており、事実として福岡では臨時政庁だけで都市としての機能限界に達しているので井上の行動には合理性があるのだが、なかなかそうとばかりうけとらぬ人間も多く、石橋・井上の不仲説さえささやかれていたのでそれを解消する意味でも、二人が共通の場で話す必要があったのだ。

「井上君、この戦争どこまでいくかねえ」
　隊列を組むトラックを見ながら、横の井上に石橋がボソリと問いかける。
　井上は持ち前の鋭さで断ち切るように言った。
「どこかで早いうち手打ちするより他ありません。高木君には引き続き上海で連絡ルートを確保するように言っております」
「うん、我々には日本全土を開放するだけの力は無い。あったとしてもそれをしたら、ドイツの核が飛んでくる恐れもある」

「現状を考えれば最低は関東放棄、岐阜以西をこちらにもらい、防御線の短縮と大阪までの重深を確保することですかな」
「それは東軍を包囲できなかった場合だろう？８個師団を西側で叩き潰せればもうすこしいけるだろう？」
「あまり楽観的になるのは避けたいですな。まぁ富山、松本以南、東海、南関東全域…すこし欲張りすぎかもしれませんが、これだけ取れば人口・産業という観点からすれば圧倒的優位に立てるでしょう」
「そんなところだろうか、君は悲観論者だね」
「それが私の役目です」

　話の途中に熊本要塞の兵が駆け込んできた。
「福岡に十数発の巡航ミサイルが襲来、そのうち一発が首相官邸に命中致しました！」
「発射したのは何処からだ！」
　血相を変えて石橋は連絡兵を問い詰めるも、現在調査中と言うだけで満足する答えは得られない。
「あ〜、まあそう兵を追い詰めてはいかんですよ。恐らくは東には潜水艦発射型のミサイルがあるはずです」
　井上は全くの平静であった。
「だから、私は貴方の近くに居ないように努力していたんですから」

●鎚と金床
■八原博道
▲名古屋
　大日本国陸軍、第２方面軍司令官第３方面軍司令官兼任の八原博道が、同盟軍たるアメリカ軍の参謀たちと練り上げた、上陸作戦の第２弾は、大胆にも理にかなったものだった。
　アメリカの戦車師団を中心に、滋賀・京都どころか、近畿を駆け抜けて、山陰・山陽から撤退を図ると思われる東日本軍を、西から攻撃する第１方面軍と挟撃、最終的には包囲殲滅しようとする一大機動作戦である。

　米軍の参謀は第１方面軍を金床、第２方面軍を鎚に例えて、間の東日本軍を叩きつぶす「スレッジハンマー」作戦と名付けたが、一般にはそうとは呼ばれていない。
　なぜならば、日米の将官を集めて作戦を説明する時、八原がこう言ってしまったからだ。
「西からゴリッと、東からガーンだッ」
　それを聞いた諸将は笑い出した。日本語が分からないにもかかわらず、米軍の将官も腹を抱えて笑っている。その時、この作戦の成功を確信した…とその場にいた１人の回想録は記している。
　その時以来、この作戦は「ゴリガン」作戦と呼ばれることになった。恐ろしいことに、米軍の公式書類にも「plan gorigan」と記載されているそうである。

　その一方で、この時期の八原の評価は定まっていない。大成功に終わったゴリガン作戦と同時に、東日本の戦略的遮断を狙った敦賀への空挺降下＆機甲突破作戦、「ガーデンマーケット」をも、同時に発動しているからだ。
　一般には、「ガーデンマーケット」作戦はこう呼ばれている。「誠に遺憾に存じます」作戦と。
　これは、彼が作戦後にその責任を問われた時の台詞から来ている、と言われている…。

●岩石スープ
■タイアス＝ボンバ
▲三木
「岩石スープの話を知ってるかい？」

　アメリカ第一騎兵師団の師団長、タイアス＝ボンバは、部下に良くその話をした。騎兵師団と言っても、事実上、他国で言うところの機甲師団＝戦車師団である。アメリカ人は、そのドクトリンとしては火力や歩兵を中心とする一方、大陸を駆け回った経験がそうさせるのか、機動兵力の涵養にもそれなりに熱心だった。

「貧乏人がスープをせしめる時、『岩石を入れたスープは美味しいですよ』と言うんだ。そんなはずはない、という金持ちに、じゃあつくって見せましょう、と持ちかける」
　彼は、部下の神妙な顔を見渡して続けた。
「最初は。スープをもらって石を入れる。次に、タマネギを入れたらもっと美味しいですよ、と言ってタマネギ。その次はセロリ、最後には肉までもらって、本当に美味しいスープの出来上がり…ってな」
　にやっと笑って、ボンバは続けた。
「これを教えてくれたパットン親父はな、最初はちょっとでも構わない。大事なことは、どんどん『ここだ！』と思うところに、力をつぎ込んで行け。それが戦車野郎のやり方だ、そのための足だ、と常々言っていたよ」
　彼はここで、ぱっと右手をかかげた。
「俺たちの仕事は、オオサカをスルーして、西のジャップどもを取り囲んでしまうことだ。キーは足、足の速さだ。行くぞ、野郎ども！」
　おおー！　という喊声が上がる。彼らが、その目的を果たし、合衆国機甲部隊の歴史に新たな１ページを加えるのには、長くはかからなかった。

●革命戦士
■銀狐
▲神戸

「誠意？よかろう！」
　協力には誠意が必要との岡口和雄のドスに対して銀狐は凛と見栄を切り、襟元から一気に肌蹴た。子分が好奇の視線を送ってくるが、その視線はすぐに止んだ。
「私が此処にいる、それが誠意だ。好きにするがいいさ」
　女らしさを残した体付きに革命の傷跡が無数に残っていた。 彼女がこれまでどれほどの修羅場を潜り抜けてきたか、そしてなお革命の情熱を燃やしていることは皮膚の下に纏った筋肉が物語っていた。一見しての綺麗な体からは程遠いが、なにものにも屈せずに其処にある彼女の有様は並みの女離れして美しかった。

「おもしれえじゃないか、意気込みは解った」
岡口は嘯いた。
「で、何を俺に呉れると言うんだい」

「ウチの野坂の肝煎りで、可決見込は港湾労働法。
　荷役雇用の安定化、中間搾取を排除の法。
　さはさりながら木っ端役人、できることなぞ高が知れ。
　されば財団一つを作り、全国規模で労使調整と相成ります。
　然らば神戸大阪の、港の衆の助人が、阪神地方の支部長となるは、
　これは理の当然でござんしょう。

　官に尻尾を振るでなく、吸血非道の手配師蹴散らし、
　惻隠の情もて港の衆の為を思うは、
　余程仁義を弁えた方にしかお頼みできぬ役割でござんす。
　墨付の類がお入用なら後で若い者に持たせやすが、今はこれにてご勘弁」

親指の腹を噛み千切った銀狐は血流るる親指を突き出す。
「いいだろう、乗った」
岡口も同様に親指を裂くと、差し出した手をとって血を重ねた。
「阪神の守手として、山田組と日共はこれより血を分けた戦友である。いまよりまっとうな明日のために」

　半裸で笑みかける銀狐に岡口は言った。
「こう見えても私は愛妻家でな、娘も生まれたばかりなのだ。残念だったな」
「なに、わかっているさ、道具の地図はこれだ。神戸の港と工場を守って派手にやってくれ」
「お前はどうするのだ？」

　銀狐は地に落としたトレンチを纏い、銀狐は片笑窪を残して告げた。
「止めてくれるな親分さん、世界の同志が待っている」

●英国来い物語
■ブータニア・ニューブリック・ゴッドール
／ヒュー・トマス・ジェフリーズ
／メイフライ・メイフィールド
▲ノーフォーク

　英国東洋派遣艦隊は大西洋航路をとって日本へと向かっていた。南アフリカ経由でなく大西洋航路をとったのは同盟国アメリカの支援を受けながら航行できる点にあった。 また、ジェフリーズ達にとっては不本意なことに日本やアメリカのようにパナマを通る上で問題となるような大型艦を保有していないせいもあった。 既にジブラルタルは枢軸の手に落ちており、地中海はムッソリーニの念願かなってイタリアの海となり、スエズ運河はドイツ陸軍が固めている。七つの海を支配した大英帝国は既に歴史上にしか存在しないのだ。

　艦隊は東洋へ赴く際にカナダとアメリカ東海岸へと寄港することになっている。補給と英国の遺光を見せるという外交の為であった。英連邦を形成するカナダは暖かく艦隊を向かえ、予定通り駆逐艦一隻を艦隊に参加させてくれた。
（…カナダやオーストラリアから船を借りねば遠征に１個戦隊分の駆逐艦さえまかなえないのが今の本国艦隊なのだ）

　アメリカ人はその点遠慮が無かった。もともと英国の戦争に巻き込まれて第三次世界大戦に巻き込まれ、本国に核を落とされたという逆恨みをしているものも多い。 （もとはと言えば、ノルマンディーで大敗北を喫したために、自暴で先制核爆撃を敢行したのはアメリカだったのだが）ジェフリーズは寄港したノーフォークでそれを思い知ることになる。

　東洋の重要性を信じているジェフリーズはアメリカの提督たちとのミーティングでこう言った。
「英国は米大西洋艦隊から大西洋方面への戦力抽出を支援する用意がある」
　返答は好意的なものでも絶滅寸前の小動物を見るような視線で以って返された。中には侮蔑や嘲笑の視線も混じっている。
「貴官の心意気は大変ありがたいが」
誰も返事が出来ないため、しかたなくといった風情でその場の最上級者が申し訳無さそうに言った。

「英国にはこれ以上の部隊の派遣は期待してません。まずは自国周辺の制海権を自力で確保してから言うべきですな、
そういえば貴国の首相から我が空軍に抗議文が来ておりますぞ、
本来英国に引き渡すべきセイバー５０機を日本へと供与したことで防空圏に看過できない危険が迫っているとか、
そんな中で英国艦隊の全力を派遣してくれる英国には感謝しきれません」

　痛切な皮肉であった。ジェフリーズは今回の艦隊構成が少なすぎると思っているが、既にアジアに展開している部隊を含めると、空母と駆逐艦は「英連邦」の保有する半分を投入していることになる。既にして今回の派遣は英国の国運をかけたものなのだった。二度の本土決戦と長引いた戦争が英国の体力を磨り潰していた。最早、英連邦という一体化をしたところで半分になった日本と同程度の軍備をそろえるのがやっとなのだ。

　ジェフリーズのもっと増強できないのかという議論に対して本国で下された判定を思い出す。

　陸軍部隊の追加、否。今の部隊が潰れたら回復する人的資源がない。
　スループやコルベット、否。潜水艦による通商破壊と潜水艦発射の核ミサイルの恐ろしさを知った以上引き抜きは不可能。
　戦艦、否。北海に憎きビスマルクやフリードリッヒ・デア・グロッセが鎮座している以上は不可能。
　空母、否。同じ規模の空母部隊はもう一つしかない、それを本国から引き抜けば北海の制海権を自国で守れない。
　空軍機、否。ドイツの爆撃機を今でさえ止められるかどうかというレベルだ。

　結論。ジェフリーズが率いている部隊が英国が直接的利害関係にない場所へ派遣できる最大数なのだ。
そしてそれは現代の世界においては重要な戦力ではあっても決定的な戦力ではない。その事を眼前のアメリカ人の態度で思い知らされるのであった。

ジェフリーズが自らの無力さを噛締めている頃、
メイフライ・メイフィールド航空隊長はノーフォークの航空部局を訪ねていた。

「はぁ、小型航空レーダーの供与とここでの英国機改造ですか」
　メイフィールドは現在は哨戒雷撃機ガネットの搭乗員であるが彼は本来、航空管制の道を歩いてきた。ガネットに航空レーダーを載せて早期警戒機とするアイデアが英国であったのだが、結局出航までには完成せず、ならばとＦ８６Ｆなど全天候戦闘機を開発しているアメリカの技術を積み込もうと考えたのである。

「なんとかなりませんでしょうか」
「んー、一応こっちにも機密とかいろいろあるからねぇ。それに小型機じゃあ管制まで一緒に出来るような精密なレーダーは難しいだろうな、時間もかかるからあとから空路で追いかけることになるだろう、まあ来月には日本にいけるだろうから艦隊にはおいつくだろうが、いろいろと事務的には革命に匹敵する業務が必要だな。それでもいいなら考えてやってもいいんだが」
メイフィールドは難しい決断を迫られてることになった。

●西へ
■ブータニア・ニューブリック・ゴッドール
／ヒュー・トマス・ジェフリーズ
／ネヴィル・シュート・ノーウェイ
▲ハワイ沖

　一路西へと航路をとっている英国艦隊にハワイで更に１隻の仲間が加わった。オーストラリア海軍の駆逐艦であった。
　その船にはいろいろと厄介な男が乗り込んでいた。
ネヴィル・シュート・ノーウェイ、作家にして兵器発明家の彼は新たなるパンジャンドラムを持ってオーストラリアから現れた。

「名づけてパンジャンドラム・マーク４！これさえあれば赤外線ミサイルなど恐れるに足らんわ！」
　自慢げにオーストラリア駆逐艦に設置したそれを紹介した。
それを見た、ゴッドールはこんなものでミサイルが回避できるならば今まで入念にしてきた対ミサイル訓練はなんだと嘯いた。真っ先に狙われる空母の特性から彼は特に念入りに対ミサイル訓練を積んでいた。

「何！そこの軍人、そこまで言うなら一発試してみろ！」
　自信の塊のような老人は言った。既にこの船の艦長よりも偉そうだ。ゴッドールは本国で開発がギリギリの状態のミサイルを積み込んで、艦の中で調整を行わせていた。まだまだ実用にはほど遠い状態らしいが、こんなくだらないことで貴重なミサイルを失っては適わないと思っていたがその思いは旗艦ハーマイオニーからの一言で打ち砕かれた。

「Do it」

　その言葉で信管を抜いたミサイルをインディファティカブル艦載のワイバーンがこの哀れなオーストラリア駆逐艦に試射を行うことになった。もしも当たれば延焼の恐れもある。 この時ばかりはゴッドールはミサイルが完成していないことを祈った。

　果たして白煙を立てて進むミサイルは駆逐艦の放ったパンジャンドラムがバラまく無数のフレアによって制御不能に陥ったのであった。誰もが胸をなでおろした。このことは艦隊へと良い意味での緊張をもたらした。

　自分の価値を見失いそうであった英国艦隊にミサイルを克服する力があるという自信をもたらし、ミサイル開発側はもっと正確なミサイルの必要を実感した。後にこれを命令したゴッドールは「単に腹が立って面白いことがしたかっただけだ」と述懐している。バルチック艦隊に匹敵する大航海を成し遂げて戦場へと赴くにはこうした面白みも資するところがあったのかもしれない。

●東へ
■藤堂明／土方龍／アルバート・ハミルトン／伊藤祥
▲佐世保

「それにしても」
藤堂は佐世保を離れながら岸に上がった船たちを眺めて言った。
「全くひどい有様だなぁ。まさかこの御時世に砲戦をやることになって、しかも戦術的敗北を喫するとは」

　竹島沖海戦に参加した戦艦で唯一無傷で寄港した戦艦＜尾張＞は本来の部署であるＡ艦隊に復帰して関東からの撤退を支援することになっている。彼は尾張をピケット艦として前衛に展開するように具申した。

　現在のところ世界唯一の５１センチ砲搭載艦である＜尾張＞は（独逸が旧帝国海軍の技術支援を得て５１センチ砲搭載の戦艦を建造中という噂はあるが、詳細は不明）その堅牢さ、餌としての価値からしても囮には適任といえた。

　竹島沖海戦によって敵戦艦部隊も沈みこそしなかったが、恐らくはかなりの損害を出しているであろうことを考えるとしばらく艦隊砲撃戦は生起しないであろう中で尾張の華々しい役割といえばせいぜい囮としての価値であろう。
しかたのないこととは言え、大砲屋として名人と呼ばれるほどのキャリアを積んできた彼にとっては些か忸怩たるものがないではなかった。

「それにしても」
　土方龍は沖合いを進む巨大戦艦を眺めていた。
「藤堂の奴はいつも要領がいいな、流石はタカトラだよ」
　兵学校で一期後輩であった藤堂の仇名を言って自らの不遇を呪っていた。彼の大和は佐世保で修理を待つ身だ。今回の出撃は出来ない。
「貝塚先輩の見事さ、藤堂の要領どちらも真似はできんなぁ」
不思議なものだ、かつて見知った先輩たちと殺し合いをやっているのだから。
それにしても不思議と嫌悪感は無い。この時代に大砲屋の戦場が残っていることをどこか楽しいと思っているのだった。
出あったときから大和一筋と心に定めた土方にとって、砲撃戦が思い切りできる時代はいい時代に他ならないのだ。

Ｃ統合任務部隊第２群は第３群と共に整備補給に入っている。同第１駆逐隊司令アルバート・ハミルトン大佐は整備の合間を縫って訓練の指揮を取っていた。先の海戦では僚艦を失っており、再戦への決意は強い。
「厳しい訓練だが、無理はするなよ。実戦に出る前に怪我をしたら意味が無いからな」
　山百合艦長、伊藤祥も補給の間の戦力向上には熱心であった。伊藤は対潜魚雷の配備と運用の向上に努めていた。護衛戦は艦隊決戦のように華々しくはない。しかし、伊藤の戦いこそがこの戦争でに第一線なのであった。自ら護衛のプロと位置づける伊藤にはそのことが誰よりもよく理解できていた。

●連邦の守護者
■五島喜一
▲ＦＢＩ長官室

　五島喜一は連邦の守護者を自負するエドガー・フーヴァー長官に接見していた。元来ただの一課長に過ぎぬ身のかれがこうして機関のトップに接見できたのは石橋首相の親書による特別なはからいあってのことである。人を突然アメリカに放り出す時には流石に恨みもしたが、こうした配慮をしているところから見てもただの左遷ではなく、一種の外交官ないし工作員としての派遣であることは明白だった。

　マルコメ事件のアドヴァイスについてフーヴァーは溜息を交えて応えた。
「マルコメの捕縛よりもその下部の切り崩しを図るべしか、誠に正論だ。ただし、これは君の国だから正論たりうる」

　フーヴァーの態度に怪訝な思いを持ちつつ貝塚は訊く。
「どういう意味でしょうか」
「大統領選挙を控える現在、黒人問題というのはすぐれて政治的問題なのだ」
　フーヴァーは法律の条文でも読み上げる調子で平板かつ明確に理由を説明した。つまるところ同質化していないものを同質化させようという努力はそれが人種という明白な差故に困難でもあり、重大である。更にはその数故に選挙という現実にも直面するというわけだ。正に政治である。

「民主党新人のジョゼフ・Ｐ・ケネディと共和党副大統領リチャード・ニクソンでは、どちらかといえば黒人はＷＡＳＰではないケネディ支持が多いと聞きます。しかし、一部州で彼らが投票に行くことができるか…ということですかな」
　五島は機上で詰め込んだ知識を元にぶつけてみた。
「然り。次の大統領選挙の注目点は２つ、極東戦争の戦局と南部黒人運動にどう臨むかだ。現在はほぼ拮抗状態にある両者だがこの政策次第で大きく状況が変わってこよう」

「…となると黒人指導者としてのキングとマルコメの動きは注目せざるをえませんな、民主党が勝ってしまえば選挙の無効を言い立ててアメリカが混乱しないとも限らないですから」
　フーヴァーは眼光鋭く五島を嗜めた。彼は法の番人であり、人種を理由に法を逸脱する事に関しては常に苦々しい思いを抱いている。
「私はレイシズムに基づく発言を聞くことは趣味ではない。君とて法に則りそれを執行する者、発言には気をつけ給え、それにな。その事については近々大統領によるアクションが行われるかも知れん」

「具体的には」
「秘密だ。精々妄想をふくらませろ。但し一つヒントを出すとマルコメを捕縛しておかねば面倒な事態になりかねん。暫くは帰らずともよいということだし、ＦＢＩを理解するには前線で働くのが一番だろう。頑張りなさい」
　少し話が過ぎたかという色を瞳に浮かべつつ、フーヴァーは話を打ち切った。五島は退出前にフーヴァーに更にお願いをすることにした。
「ところでＣＩＡに東アジア情勢の提供を受けたいのですが、一筆いただけませんでしょうか」

「君と君の国がそれを知って何が出来るというのだね。兵も物資も足りてない国に何か出来ることでもあると思っているのか、それとも君がヴェトナムのテロリストを捕まえにいく気かね。 先達として一つ忠告をさせて貰うとね、君はなにかにつけ大袈裟過ぎる。捜査の基本は地道な努力なのだよ。君が今からあたるマルコメ事件は世界にとって十分過ぎるほどに重大な問題であるのだ。地に足を着けて励みたまえ」

●きたえられるものたち
■キム・キニスン／グンナー・ガースラント／エルネスト・デ・ラ・セルナ
▲沖縄

　アメリカ最西端の領土、沖縄。夏らしく晴れ晴れとしたその空の元にはユカイな連中が集まっていた。
国際義勇旅団＜Strangth on Our Solidarty＞
略称ＳＯＳ旅団である。

「いやはや、なんとも大変ですな」
H.A.R.“キム”キニスンはＳＯＳ旅団長グンナー・ガースラントへと声をかけた。

眼前では兵士達がなにやら体操を始めている。
「さあ、みんな。私と同じ運動をすれば、１週間で鍛え上げられた兵士になれるぞ！　それ、１、２、３、ハイ」
　スピーカーから、轟音と何カ国語かによる、同じ台詞が流される。どことなく嫌々な感じを漂わせながら、バラバラな動きで、兵士たちは体を動かし始めた。
　彼らの前、作られた壇の上で、一人の男が、何人かの助手とと共に手本となるべき動き…踊りと言っていいかも知れない…を見せている。相変わらず、スピーカーからは、良く言えば親切、悪く言えば煩い音楽と動きの解説が流れ続けていた。

それを見ながら、グンナー・ガースラントは煙草に火をつけた。ノルウェー人にして、精強な共産主義の戦士。彼は、九州の小倉で、連合軍の援助を受けて、共産主義者の戦力化…いわゆるＳＯＳ旅団…の編成に力を注いでいた。言語も、習慣も、教育もバラバラな、素人戦士たち。共通しているのは、宗教的なイデオロギーへの偏愛だけだ。
　彼の後ろ姿に、やや疲労が滲んでいるように見えるのも、そのためだったのかも知れない。

「ええ、実態は各国からの志願者、国外追放に近い共産主義者、欧州からの亡命者、戦闘経験を積みたい民族主義者。とにかくナチと戦ってみたい連中の寄せ集めにしか過ぎません」
「それにしてもあんな体操もどきで、本当に兵士が鍛えられるんですか」
　彼の隣に立っていたキニスンが、英語で低く呟いた。確かに、珍妙と言えば珍妙な光景だ。
「貴方は、京アミという名前を知っていますか？」
「京アミ？」
「そう、京アミ。古くから日本で愛好されている遊戯…趣味かな…を大成した組織だ。個人名だというものもいる」
「その京アミが何か？」
「京アミは、舞踏をもってその志を示した。同じ動きを、同じ音楽、同じリズムで行うことによって、自然と集団の心は一つになって行くのだそうだ。彼…あそこで踊っている彼、エルネスト・デ・ラ・セルナは、その信奉者なのさ」
　まあ、ラテンの血も大きく関わっていそうな気がするがね、とガーラントは肩をすくめながら付け加えたのだった。

「それで結局のところ戦闘準備はどうなのか？」
「日本からの物資・賃金提供、そして貴方からの武器提供もありましたから、二ヶ月後（第４ターン）には日本本土で戦闘が出来るレベルになるでしょう」
「…遅いな」
「しかたありません。全世界から兵力を集めている以上は。それにしても英国は太っ腹ですね、こんな部隊にまで支援を寄越せるのですから。アメリカからの支援は警戒されてなかなか貰いにくいというのに」
「かなりの部分は私の自費だ」
「どこからそんなお金があるんです、貴族も没落したものと思っておりましたが」
「なに、リキシャを発明したので特許をとっただけです」
　ほら、あそこに使っているアレ、私の発明ですよ。と指差した先にあったのはタダのリヤカーであった。
「…全く、君の主人たる大英帝国がいまだに世界の大国である理由がわかった気がするよ」

Ｓ３『高すぎた峠』

●鉄の暴風
■阿賀野守､柚木浩太
▲松山
敗走の途上にある東日本軍にとっては戦車よりも貴重なトラックが､炎上している。非装甲の車両に2.75インチ地対空ロケット弾が二発も命中したのだ､助かる道理がない。
「誰だ､俺の標的を重複して撃ったのは。一発で済んだのに勿体無い」
第一戦闘爆撃大隊所属に属する柚木浩太中尉が､半ば本気で嘆いた。
前月の戦いにより山陽・山陰の制空権を握った西側空軍は､戦争そのものに決着をつけるべく､攻勢に出ていた。
柚木も､その一人である。
航空偵察で東日本地上部隊の動向を把握し､陸軍部隊と連携して爆撃を加える。並みの爆撃ではない､先月に山陰沖で西側戦艦部隊が受けたものを遥かに凌ぐ爆弾の雨である。それに晒される生身の兵士達の生存率は､分のいいものではなかった。
「これを続ければ､遠からず東の日本軍は瓦解するでしょう」
松山に帰還した柚木は､大隊長の阿賀野守大佐に戦況をそう報告する。
「そうすべきだな。だが､それはできない」
「『ガーデンマーケット』ですか。成功すれば､大包囲ができますが……そううまくいくものでしょうか？」
「陸軍次第だな。あとは､神頼みでもするかね」
……神の加護によるものか､この後しばらく､晴天に恵まれる。
だが､彼らは忘れていた。
伊勢におわします太陽神は､東西どちらを守護しているのか､を。

●チョーさん、感心したよ
■猪狩長一
▲福知山

　見事な光景、というものは世の中にはあるものだ。大日本帝国陸軍・第３師団長代理、猪狩長一が見ているのは、まさにそんな光景だった。

　パンツァーカイル。重戦車を先頭にし、様々な兵種をくさび形に組み合わせた戦闘形態。ドイツ軍が移動しながらでも、その衝撃力を維持するために編み出したそれは、今、その力を発揮していた。丘の上の猪狩が見守る中、戦闘の重戦車（遠目からすると、本来は帝国陸軍に配備されていないティーガーのように見えた）が、巧みに停止、前進を繰り返しながら、田んぼの中の道を進んで行く。
　ぱっと砲口から光がほとばしり、虎が巨体を奮わせると、しばらくして轟音がとどろいてくる。すでに、着弾は車体を隠していた西日本の戦車から煙を吹き出させていた。開けた見晴らしの良い場所にもかかわらず、彼方の西日本軍は巧みな戦車の射撃で砲火点を潰され、反撃も虎が巧みに車体を機動させることによって、致命傷を与えることが出来ない。
　先頭の戦車に手こずっているうちに、後方の自走砲が射撃を開始。砲煙と煙幕に紛れ、装甲車から飛び降りた歩兵が敵陣のある丘に取り付いて行く。また、彼の…彼らの勝利で終わったことを、猪狩は確信した。

　猪狩は、帝国陸軍の岡山からの全面撤退に備えて、歩兵・機動歩兵でローテーションを組む戦術を立案していた。そして、その撤退路を確保するために、戦車師団と福知山・舞鶴に至る道路を進んでいた。そして、山陰方面から突破を図る西日本軍と遭遇した…というわけである。
「見事なもんだね、ドイツの人は」
　猪狩は、感心したようにうなった。彼の戦車には、極秘だが来日していた独軍の戦車エース、オットー・カリウスが同乗していた。パンツァーカイルも、帝国陸軍顧問だった彼が、手塩にかけて育ててきた部下に教え込んだものだ。
「いや、まったくチョーさん感心したよ」
　自らのことをチョーさんと呼ぶ猪狩の唇には、ゆがんだながらも楽しそうな微笑がうかんでいた。

●かけぬけるものたち
■小野田寛郎
▲舞鶴
　猪狩が福知山で西日本軍先鋒を撃破している頃、それを演出した男たちは、もくもくと自分たちの任務を果たし続けている。

　帝国陸軍・第三師団歩兵中隊長、小野田寛郎は、実際は装甲車やトラック、軽戦車などをかき集めて編成された増強偵察中隊を率いている。少数ながら工兵隊まで所持し、独力で敵の偵察部隊を撃破できるほどの戦力を持つ彼の部隊は、帝国陸軍の撤退路の確認、確保のために、丹波の山中を駆け回っていた。

「何だか、日本人じゃないみたいだな、俺たち」
　そういって、小野田は部下を笑わせたことがある。西日本軍の先頭部隊を発見し、カリウスらのいる方面に誘導したのも、彼の部隊だった。第二次大戦前までは、機動戦力の有効活用に消極的だった帝国陸軍らしからぬ機動力をふるに発揮した活動といえる。

　もっとも、彼らの今作戦における最大の功績は、敵の誘導ではなく、撤退ルートの確保にあっただろう。道路や橋の破損、修復は、間断ない敵の爆撃を受けている鉄路の修復なども合わせて、随伴してきた工兵隊の意見、本隊への具申をフルに活用している。

「さて、では最後の仕事に出かけようか」
　そういって現れた小野田の格好に、部下たちは絶句した。歩兵帽、リュック、そして脚絆と地下足袋。無精ヒゲとあいまって、まるで土建屋の親方のようだ。肩には丈夫なロープまでかけている。
「はぁ、しかし福知山から敦賀までの道に関しては、やっと確認が終わったところですが…」
　小野田の部下の、島田庄一が声をあげる。時として突飛な上司の行動をフォローするのも、彼の役目の一つだ。
「どうした。道が使えない、包囲された時の最後の撤退路は、山道だぞ。撤退路の確認が、俺たちの仕事だ」
　島田を始めとする小野田の部下たちが、はじけるように身を起こした。山歩きの準備をすべく、無言でかけて行く。さすがに蓄積した疲労を感じさせない、無駄のない動きだった。
　彼のこの言葉は、やがて予言となって帝国陸軍に降りかかってくることとなる。

●「プラン・ガーデンマーケット」前夜
■大宮宗一郎､太田幸之助
▲小松
大日本帝国陸軍第五戦闘大隊は､陸軍の撤退を支援すべく小松に進出していた。
本来ならば訓練時間がもう少し欲しいが､消耗しきって三沢などに後送されていた部隊に補充機も与えず前線へ送り返すという非道……前田に言わせれば無駄死にを増やす愚行……が平然とまかり通る現状で､それは通らない。現場レベルで生存率を上げる努力をする他はない。
中でも､第３中隊長を務める大宮宗一郎少佐は､色々と考えている。人里離れた山間部にでも不時着した時に備えてサバイバル法をまとめたり､レーダーや通信を妨害された場合も考慮して富山の薬売りにまで頼って目の訓練や休息を図ったりするなど､実にユニークだ。そして､状況によってはかなり役立つだろうアイデアである。一番生存に役立つのは､「死んだらそれでおしまいだ。敵の捕虜になって敵の食料食い尽くす気構えでいろ」という訓示だろうが。

そんな大宮の下につく小隊長の一人である太田幸之助大尉は､中隊メンバーを一堂に集めていた。
「空戦における力学……なんて言っても､難しい話じゃない。飛行学校で習った筈だ。今更蒸し返す価値もないと思うが､何故か中隊長殿がお好きなんで､解説をする」
大宮の突飛な想いつきで､太田が解説役をさせられるのは珍しいことではない。気の毒な話である。
「飛行機はエンジンで飛んでるんじゃない。翼が空気を切ることで生じる揚力で飛んでるんだ。だから､無理な機動をするとたちまち失速､最悪の場合は墜落する。これは最初に習うことだな。
逆に言えば､相手が無理をせざるを得ない状況を作ればいい。例えば､上を取る。これも習ったな。
そのための技術は色々あるが､口で言って伝えられるものじゃない。練習と実戦で磨く他ない。
ただし､誰にでもできて､しかも飛行学校では教えてくれない裏技が一つだけある｣
そこで言葉を切り､パイロット達の注意を存分にひきつける。その上で､にやりと笑って一言。
「最初から高度を取って待っていればいいのさ」
パイロット達が一斉に肩をコケさせた。
だが､その時には太田はもう､真顔に戻っている。
「冗談で言ってるんじゃないぞ。確かに､一対一を前提にした問題であれば､ありえない解答だ。だが､現実に行われている。電探を活かして敵を早期発見し､直ちに邀撃機を上げて有利な態勢を作って戦う管制迎撃のことだ。
……いいか､一対一なんて考えを頭から叩き出せ。集団で戦うことを絶対に忘れるな。俺が教えられるのは､結局のところそれだけだ｣

大宮と太田の教育が真価を問われ始めるのは､この翌日である。

●バトル・オブ・ツルガ
■スタンリー・T・サイラス､阿賀野守､柚木浩太､樋口慶二､葵角名
▲敦賀
「ガーデンマーケット」に端を発する敦賀航空決戦は､終わる気配すら見せなかった。
下関で敗れた東軍八個師団の退路の要が敦賀であることは､地形的に明らかである。だから､両軍とも使えるだけの戦力を投入してきている。
樋口慶二少尉ら日本国第5戦闘機大隊もその例外ではない。樋口としては邀撃戦闘が望ましかったのだが､戦争は相手のあること。そうそう思うようにはなってくれない。「こちらの設定した戦場で待ち伏せる」という樋口のしたかった戦いを向こうにやられる展開になっている。
（やはり､東にも切れ者はいる､か）
口には出さずに呟いて､樋口らは今日も戦い続ける。「一撃離脱､墜とすより墜とされない」ことを優先する戦いを。

葵角名率いる大日本帝国海軍第一偵察中隊は､第二偵察中隊と共に､新潟から日本海を哨戒している。
東日本は､敦賀を巡る戦いに高千穂級超甲巡を主力とする第二艦隊や空母艦載機を投入している。ならば､西側も海軍をぶつけて来て不思議はない。艦隊決戦を避けたい東側としては､常に警戒が必要だった。
　結果として､今月は浜松沖や山陰沖ほど熾烈な戦いは生起しなかった。もし､葵らがいなかったら､奇襲できると判断した西側が強行突入する展開もあり得たかも知れない（少なくとも､海から支援しない限り､敦賀で西側が勝つことは不可能であった）が､歴史にイフはない。

「岡山や岩国から出撃できれば別だが､復旧は間に合いそうにない。それでも､我々の支援を待っている彼等の為にも、航空支援は行う」
整列させた部下の前で､戦況不利を知りつつ敦賀支援の継続を言い切る阿賀野に､柚木は首を傾げた。
「にも？　他に何か？」
「決まっているだろう､子供達の為だよ。どんなに難しくても､ここで勝てなければ統一はない。
俺は､『日本は一つの国だった』ことを知らない子供がこれ以上増えるのは認められないんだ。分断にいくばくかの責任がある大人としてな。
感情で皆を死地に送り出す俺は､部隊長として失格なのだろうが」
　しかし､阿賀野を責める声はなかった。それは､皆が完全に納得している証であり､阿賀野がいかに部下に慕われているかの証でもあった。

　だが､柚木らの奮戦も空しく､敦賀航空決戦は東有利に進んだ。
岡山や岩国の復旧が終わっていない今､依然として西側の最前線拠点は松山である。小松と富山を擁する東側とは大差がある。
この距離の差を最大限に活かして､まず電探機により敵の規模と意図を把握し､それに合わせたスポット迎撃に徹することで､東側は数的不利をよく補う粘りを見せた。分かり易く言えば､ランチェスターの第二法則（戦力自乗則）ではなく第一法則（戦力加算則）が適用される状況を作り出したのである。浜松にも下関にも投入されなかった首都防空部隊が､決して弱兵ではないことを結果で証明する。
だがそれは､敦賀に限った話である。それより西､地上軍の撤退を支援する余裕は､皆無。
言うならば､他を切り捨てることで敦賀を守り､敦賀を守ることで敵空軍をそちらに吸引し､間接的に陸軍への爆撃を減らしているわけである。
ただ､この作戦には弱点もある。
敦賀を支えきれなければ､全てを失うのである。そして､既に空母機まで投入している東に､これ以上の予備兵力はなかった。対して､米国の生産力は絶対的である。東の辛勝程度のキルレシオであれば､長い目で見れば西の勝ちになる。それ以前の問題として､落とされても落とされても新手がやってくる相手に､いつまでも辛勝し続けられるものではない。

「このままでは駄目だ」
太平洋方面軍戦略爆撃航空団司令スタンリー・T・サイラス中将は､決断した。
敦賀防空に専念する（せざるを得ない）東日本の隙を突いて､彼の戦略爆撃機部隊は手薄な舞鶴の港湾・飛行場を沈黙させている。空路や海路が使えなくなったことで撤退作戦に多少の影響を与えられた筈だが､それだけでは包囲殲滅という当初の目的は達成できない。
「これ以上､関東の部隊を待ってはいられない。こちらだけで小松の基地機能を喪失させる。出撃拠点を東に追いやることができれば､距離の不利を相殺できる。
作戦名は……そうだな､トライアングルハートとでもするか」
作戦名に拘る暇があったら他に考えることがあるだろう､と諌めてくれる人間はサイラスにはいない。とっくの昔に､諌めるだけ無駄だと見限られている。だからこそ､彼の仇名は「スターリン」なのである。

●なぐりつけるものたち
■加藤友安
▲姫路
　道を探るために山中を踏破している男たちもいれば、敵の大部隊と死闘を繰り広げている男たちもいる。

　西日本軍の歩兵が、帝国陸軍の歩兵陣地を強襲する。つい先ほどまで、断続的に抵抗のあった塹壕は、もぬけの空だった。拍子抜けする間もなく、追撃の命令が下り、彼らは急停車した装甲車やトラックへ乗り込もうとする。
　まさに、それを狙ったかのように、山なりの弾道をひいて砲弾が密集した彼らに襲いかかった。絶妙な砲撃。周囲は、完璧とは言えないが、航空隊の奮進弾による熾烈な地上攻撃を受けたばかりのはずだった。
　散乱する人体と機械の破片を前に、彼らの隊長がうめき声を上げた…。

　もっとも、攻撃をくわえた側も、決して余裕があった訳ではない。ただ、準備と狡猾さにおいて、ほんの少しだけ…たぶん幸運も…西日本軍より勝っていただけだった。
　姫路において、後退する味方部隊を支援していたのは、加藤友安率いる砲兵部隊だった。空からの攻撃に備えた巧妙なカモフラージュ、砲撃力と機動力とを兼ね備えた砲兵部隊、唯一の存在であるところの、自走砲の他部隊からのなりふり構わぬかき集め。
　それには、同じくかき集めた装備の、「持って行けないと見れば捨てて行く」という割り切りも含まれている。

　それらを成し遂げた砲兵部隊の隊長、加藤は、部下に撤退を命じる。戦果の拡大より、無事な後退を。カモフラージュの樹木を掻き落とし、自走砲に兵隊が群がった。他国ではＳＵ７６やＳＵ８５と呼ばれていた車体から黒煙があがり、鈴なりの人員を乗せたまま、次々と移動を開始する。
「まったく、俺たちも好きだねえ」
　加藤が一言、あきれたような口調で呟いた。

　彼らは、この後、第三師団の殿として舞鶴で激闘。砲兵部隊ながら、組織を保ったまま最後に敦賀に撤退する部隊となる。

●ぶちぬいてゆくものたち
■武本利勝　佐世保海
▲西脇
　では、東日本軍の遅滞防御は、大日本国陸軍の進撃を防ぎ止めていたのか？　答えは「否」。特に山陽道を東進する部隊は、むしろ東日本の予想よりやや早く前進しつつある。

　国道沿いに急造された陣地で、東日本軍は頑強に抵抗していた。それなりに重火器も配備されているのか、反撃も熾烈に行われる。第一方面軍は、国道をすすむ主攻撃連隊に戦車大隊を集中して配備し、その攻撃力を強大ならしめているが、無策の突撃は損害を増やすだけだ。
　では、どうする？　その時、敵の右翼、山地側から動きがあった。
「吶喊！　吶喊！」
　歩兵連隊長、佐世保海の命令は簡潔だが、迷いようがない。迫撃砲がたたき込まれ、重機がうなり、歩兵が敵陣に取り付いてゆく。主攻撃方面と思われた（事実そうなのだが）国道方面の陣地に予備を回してしまった東日本軍は、奇襲効果もあって、潰走してゆく。
　その動揺を逃がさず、道路でしかけられた地雷が爆破され、砲兵隊の支援の元、第６師団の戦車大隊が前進を開始した…。

　今回の進撃で、第一方面軍司令官、武本利勝は、主攻とする国道に師団を進ませながら、もう一つの師団を併走させていた。敵の防衛陣地に当たった時は、併走する師団が歩兵の足を活用して、山脚を浸透突破、主方面をフォローする。さらに、連隊を適宜後退させることによって、追撃も含めた「衝撃力の維持」も、彼は成し遂げていた。
　東日本軍がすでに後退に入ってこともを考えに含めても、下関橋頭堡の戦闘で戦力をすり減らされた第１方面軍を巧みに進退させていた、と言えるだろう。それでも、なお。
「鬼手仏心…いや、鬼手鬼心だな」
　と言う一言が、武本の心情をよく表していたかも知れない。

　連合軍が全力をあげて遂行しつつあったゴリガン作戦。その金床の役目を、武本は確実に果たしつつあった。しかし、そんな彼にも
成し遂げられないこともある。敦賀強襲作戦、ガーデンマーケット作戦は、そのころすでに崩壊しつつあった…。

●まわりこむものたち
■渡良瀬祐介
▲木之本
「いつまでここにいればいいのだ！」
　小説では、「足踏みする」という表現があるが、現実に感情の高ぶりで大人が足踏みをしているところを見たことがある人は、滅多にいないだろう。大日本国・第７師団の幕僚たちは、まさに師団長が足踏みして咆哮するのを目撃していた。

　彼の焦燥も無理もない。ゴリガン作戦に合わせて発動された、敦賀強襲作戦は頓挫している。空挺部隊の第９師団が空挺降下するガーデン作戦。第２師団と戦車師団の第７師団が滋賀から、第１０師団が西から敦賀へ侵攻するマーケット作戦。この二つの作戦によって敦賀を占拠し、完全に山陰・山陽方面の東日本軍の撤退路を絶つ。
　東日本軍を殲滅するために、絶対に必要なその作戦は、幾つかの不運に見舞われていた。空挺降下こそ、好天と味方航空部隊の支援によって成功したものの、北滋賀の国境に精鋭の敵海軍陸戦隊が配置されていたこと、そして第９師団そのものも、降下直後に移動中の日本人義勇ＳＳ旅団「葉鍵」に接触してしまったこと。そして、東日本軍が敦賀防衛のために、なりふり構わず予備兵力を投入したこと。
　たった一つの躓きが次の躓きを生み、大胆きわまりない作戦は、今や連合軍全体の躓きとなりそうだった。細く残った撤退路から、鉄路や道路を経由して、東日本軍は敦賀になだれ込み続けている。

「こうなったら、迂回しよう」
　先ほどの狂騒が嘘のように静かになった渡良瀬祐介は、幕僚たちを見回して口を開いた。何か決意を固めたようである。
「琵琶湖北岸を西走し。小浜に進出。そこで敵第三師団に阻まれている、第１０師団と手を結ぶ。そうすれば、敵の包囲を完成できる」
　数瞬の沈黙のあと、一人の幕僚が口を開いた。
「しかし、まだ転進の命令は出ていません。現時点での転進は、独断行動となってしまいますが…」
　第二次世界大戦の経験から、現日本軍は部下の独走・命令違反を酷く嫌う風がある。まして、彼らの上司は厳格で有名な八原中将だ。渡良瀬は静かに首を振った。
「構わない。上層部には事後通達になるが、連絡は行う。この瞬間にも我々は勝利を逃し続けているのだ」
　第７師団の戦車大隊長、青山京太郎が発言した。
「行きましょう。今は、時間こそが肝要です」
　一人の発言で、その場の空気が変わった。幕僚たちは敬礼し、各自の部署に散っていった…。

　結果として、第７師団の独走は大成功だった。彼らが小浜に進出する動きを見せたことで、舞鶴で抵抗を続けていた敵第三師団はついに敦賀に撤退。ここに、敵軍の大規模包囲は成功したのである。
　渡良瀬は、激しい叱責を八原から受けたが、公式の譴責は行われず、彼（とその部下）の経歴には傷が付くことはなかった。誠に日本人的だが、周囲には納得の行く処置と言えただろう。

●すたこらさっさ
■浪川武蔵
▲姫路山中
　正攻法を持って前進する、連合軍の第一方面軍。そんな中でも、不正規戦をもって戦う男たちもいる。

　ヒュルヒュルという、艦砲射撃すら聞き慣れた兵士たちからすれば、どちらかと言えば気が抜けたような音が聞こえると、それでも兵士たちは必死の速度で身を伏せた。
　激しい音と光を放ち、ついで黒煙を吹き上げたのはトラックたちだった。撤退を続ける東日本軍。伏線下も直線下も行われていない幹線道路では、しばしば渋滞が発生する。その塊に向けて、迫撃砲が撃ち込まれたのだ。
　散発的に小銃の反撃が周囲の林に打ちこまれるが、すでに反応はない。どうやら一撃離脱、米軍が言うところの「ヒット＆アウェイ」だったようだ。

「すたこらさっさ?」
「はらほらさっさ?」
　ふざけたかけ声にも関わらず、彼らの動きは異常なまでに熟練していた。迫撃砲を担いだ男と、木の上からするすると降りてきた男。迫撃砲をぶっ放したのが堀川狼、木から下りてきたのが上官の…というか兄貴分の…浪川武蔵。
　懲罰部隊の彼らは、味方部隊に先駆けて進出。敵の横っ腹をゲリラ戦で横撃する、というおよそ懲罰部隊らしからぬ戦闘を続けていた。もはや、懲罰部隊ではなく、独立愚連隊である。

　大勢への影響はともかく、それなりに成果を上げている彼らを上層部も無視できなくなったのか、この戦闘の後、浪川と堀川は、ついに懲罰部隊からの異動を言い渡された。レジェンド（いるかいないか判らない）からの脱出である。
　彼らが配属されたのは…（配属先は、プレイヤーが申請してみて下さい）。

●高すぎた峠
■瀬島龍三
▲敦賀
　男たちは、ある者は沈鬱な表情で、ある者は絶望しきった表情で座り込んでいた。彼らに共通しているのは、沈黙と疲労が折り重なって覆い被さっていることだった。終に彼らを助けえる部隊は峠を越えては来なかった。
　西日本、第９師団。空挺部隊として、その精鋭をうたわれた彼らは、敦賀で敗北し、捕虜となっていたのだ。そんな彼らの前に、颯爽と一人の男が現れる。黒い制服に銀の記章。日本人としての風貌を義勇ＳＳの服で包んだ、瀬島龍三である。降下した彼らと遭遇し、その撃破の原動力となった日本人義勇ＳＳ部隊の長だ。
　彼は何やら包みを男たちに配らせ始めた。
「戦闘、ご苦労様でした。敦賀名物、鯖寿司です。」
　表情からして、本心から彼は、男たちをねぎらおうとしているようだ。しかし、男たちは配られた包みを手に取ろうとしない。
「日本の味です。美味しいですよ？」
　にこやか度を上げた瀬島の言葉にも、やはりそれを食べようとする者も、答えようと言う者も出なかった。気まずい雰囲気を残して、瀬島はその場を去ってゆく。
「あの峠は高すぎたな」
　誰かが、ぼそっと呟いた。

Ｓ４『闘い続ける全てのものに』

●嵐の前
■七尾文七､ジョゼフ・ラインハート､荻野社
▲関東全域

　大日本帝国海軍第四戦闘機大隊に属する小隊長の一人。それが､大日本帝国海軍中尉七尾文七の新しい身分である。再編される第三戦闘機大隊にという話もあったが､七尾自身がこの横須賀で戦い続けることを志願したため､こうなっている。
ひよっこのお守りなど柄ではない……と言うより､一パイロットとして使ってこそ輝く七尾だが､戦況はそれを許してくれない。七尾もそれは解っている。

　それでも､任された部下達との初顔合わせの挨拶は､七尾らしさを残したものだった。その程度には余裕があったことになる。
「今日からお前達を指揮することになった七尾だ。
早速だが､敵がどちらから来るか賭けるか？　東か､西か､南か」
「南です」
「……賭けにはならないな」
部下達の答えに､七尾はにやりと笑う。
「状況は正しく理解できているようだな。それでいい」

　房総半島撤退作戦「悲しきわが心」。
その一環としてジョゼフ・ラインハート大尉らアメリカ第１戦略爆撃大隊に課される､高度300で突入し､爆撃高度まで上昇して厚木を攻撃……という命令を､日本国第１重爆撃大隊長たる野中五郎大佐は､一言の下に切って捨てた。
「湊川だぜ」
その評は､野中がまだ一つだった日本で最後に与えられた任務へのそれと全く同じだった。普通の爆弾や魚雷を抱えてさえ敵艦隊に辿り着けずに落とされるというのに､もっと重い桜花……人間爆弾を使えという二重に気の狂った命令を与えられた時と。
ラインハートは反発しない。できない。野中の指摘は､完全に正しいからである。

　超低空進入がレーダーをごまかせるのは､電波が直進するからである。地球の陰になる部分は見えない。だがそれは､地上のレーダーだけで監視するからのこと。東日本にも電探機はある。上空から見られればそれまでである。機上搭載レーダーは小型な分だけ性能が低いといっても､これだけの数を見落とすことはあり得ない。そもそも､30ならいざ知らず300では。
確かに､雲の上から爆撃しても望む効果は得られない。ラインハート自身が先月証明している。それにしても､これはおかしい。突入自体が困難だ。できたとしても､そこから爆撃高度まで上昇する間､撃たれっ放しになる。第一､低空飛行は燃費が悪い。当然､航続距離が縮み､戦闘可能時間が短くなる。
「……それでも､高高度ではこちらの護衛戦闘機は能力を発揮できない。成功率は似たようなものだと思うが」
「その判断が既に間違いだ」
野中がぴしゃりと言う。
「高度300なら､当然だが､相対的に上を取られる。空戦において上を取られる不利は大き過ぎる」
「ジェット機にドッグファイトが出来るのか？」
「ジェットじゃない。主力になるのは五式戦だ。高高度では脅威になるような相手ではないのに､わざわざ相手の土俵で戦おうとしているんだよ､あんた達は。
五式戦をもってすれば､低空にありても絶対不敗､高位にありては絶対的に必勝なり……そう謳われた伝説のレシプロ戦闘機と､だ」

　大日本帝国陸軍第六戦闘大隊。いまや数少ない五式戦闘機『飛燕改』を装備する部隊。
その大隊長である萩野社中佐は､爆撃機・攻撃機相手の管制迎撃に徹するよう命じている。
勝てない戦闘は避ける､機体を捨てても生き残れば良い……指揮官としては有能だが一人のパイロットとしては（生存能力を除いて）さほどでもない自分を正しく理解している萩野らしい判断ではある。『光電』への乗り換えを前提にしているのは､本来『光電』を運用する権利を持つ海軍関係者が聞けば激怒しかねないが。
その荻野は､合同航空指揮調整所のバックアップを受けて､陸海軍の枠を越えて関東圏でのシステム防空態勢を強化すべく活動している。
もとより､一朝一夕には無理な話だが､現場レベルでのパイプを確保するのはマイナスにはならない。とりわけ､同一機種を装備する第七、第八戦闘大隊との間で整備部品・整備員・予備機を融通し合うのは､当たり前のことだが大きい。

　それでも戦力的には西側有利だが､防空側である東には脱出さえできれば助かる安心感がある。西側もアルバトロスを飛ばして不時着したパイロットを助ける手は打っているが､百パーセントの保証はないし､陸上で落とされればどうにもならない。それが士気を下げる要因になっている。
始まろうとしている航空決戦の行方は､まだ解らない。

●灰色狼たちの凱歌
■糸川星人／アルベルト・エントラース／アーレイ・バーク
▲東海沖・東京沖

東海沖
「入れ食いだなぁ」今月だけで３隻目になる獲物の手ごたえに糸川は嬉しそうに言う。西側の主要な艦艇が東京と山陰へ向かい、十分な護衛がついていないにもかかわらず大規模な輸送船団が西軍上陸部隊のために行きかう東海沖は東軍潜水艦隊における楽園と言ってよかった。未だに空港機能が不全なためか対潜哨戒機の脅威に怯えることも殆どない。投入された第一、第二の二個戦隊におよぶ潜水戦隊は期待以上の戦果を挙げた。

　…尤も、彼らの戦果がアメリカの補給力から見れば「若干の損害」に収まってしまうあたりは双方の海洋戦力の際を見せ付けられているだけと言えなくも無い。当月の損害をもしも東軍が蒙ったら恐らく海運は半身不全に陥ったであろう。

（さて、東京はどうかな？）
逃亡すら余裕綽綽に構えている糸川は頭の中で敵の大規模な艦隊が向かったという東京のことを考えていた。一種の現実逃避ともいえる行動であるが、潜水艦乗りに必要なのがこうした世離れしたまでの鈍感さであることを考えるならば糸川は優れて潜水艦向きの男なのであろう。


☆

東京沖
　かつて日本の中心として船の流れの絶えなかった東京沖であるが
今は関東に飛び地として残された海岸地域を守っていた連合第四軍を巡る戦いの海へとその面影は様変わりしていた。
補給をするにしても撤退するにしても連合軍が東京沖の制海権を奪取しに来ることは明白だったため、枢軸軍としても可能な限りの戦力を結集して…といいたい所であったが、現実にはそうはいかなかった。

　主力たる第一艦隊は先の艦隊決戦で半身不随、第二艦隊・第三艦隊は今回の陸戦の主戦場となる若狭支援に駆り出されていたためだった。 結局のところ潜水艦による阻止行動が選択された。その戦力不足を補うために東日本はドイツ義勇潜水艦隊に東京沖での活動を依頼した。結果として日独合わせて３個潜水戦隊がその任務にあたることになった。

　一方連合軍は傷の深い部隊は再編に回し、Ａ艦隊とＣ１艦隊によって関東からの撤退作戦を実施することにしていた。
　この部隊の指揮はアーレイ・バーク提督が臨時に預かることになった。自らの任務群を半壊させた男に部隊を指揮させることには異論もあったが、総じて言えば日本海軍航空隊を空母2席の犠牲で壊滅させたことになり、その作戦立案力と不屈の態度が評価されたのである。
　とはいえ、もっとヘマをやらかしたＢ艦隊司令が韓国復帰を前に更迭されたお陰で、Ｂ艦隊へと転出したＣ１の艦隊司令の席が空いており、すぐには空母戦闘の運用ができるものがいなかったための玉突き人事という現実が大きいのだが。
　バークは自らのキャリアが閉ざされないことへ感謝を覚えたが、その反動か自らの提案が受け入れられなかったことには不満を覚えていた。 日本への物資の追加支援の継続と浮きドッグの硫黄島配置である。前者については日本が主要な工業地域を奪取しつつあり、アジア地域で出した損害によって本国の船舶量が逼迫しつつあることから来月を最後に打ち切りが濃厚となる様子であった。また、後者の浮きドッグはアイオワを修理することを優先するために釜山へと配備されることとなったため、恐らく彼の指揮下に入る艦隊には関係のないことになるであろう。

バークは先の失敗からより慎重なアプローチを選んだ。 アメリカといえど既に母艦に余裕があるわけではない。 アメリカ海軍は大西洋・太平洋二つの海を総合的に守らねばならない。開戦時に保有していた２７隻の空母のうち１５隻を極東に派遣しており、２隻を失った。残っている１２隻で大西洋全域と東太平洋を守らねばならない。現状でさえ、大西洋でもし事が起きてしまえばイギリスへの補給路の維持が困難であるという意見さえある。これ以上の増援を求めることは不可能とは言わないが、極めて困難をともなうだろう。

　母艦機による徹底した索敵と対潜哨戒を繰り広げ、地上支援は控え目にして先遣された戦艦の艦砲に譲り防空に徹した。
そんな中で一つの情報が入ってきた。十数隻の小型艦が本艦隊に接近中。
　日没も迫っていることからバークは之を夜間水雷攻撃部隊と判断し、Ａ艦隊からの分遣部隊を以って対処するように命じた。


　アルベルト・エントラース率いるＵ１７は日中から大船団を伴うＡ艦隊を捕捉していたものの仕掛ける機会を見出せずに居た。海岸へ向かう以上どこかで必ず艦隊を分離する必要がある。そう思って陣形が乱れるときを待っていたのだった。
　冷徹とさえ言われる落ち着きをもったエントラースに水測長ギュンター・フランクから報告が入った。
「敵に動きがあるようです」
　これはＡ艦隊の分遣によるものであった。

「よし、この機を使って外縁の部隊を叩いて逃げる」
　ここで死ぬわけには行かない。Ｕ１７は外縁の駆逐艦に狙いを定めて魚雷を放った後に一路逃走するのであった。
　もう１隻リバティー船１隻を沈めた艦があったが逃げ切ることが出来ず刺し違えとなった。結局、枢軸義勇艦隊で東京沖で目立った戦果を挙げたのは駆逐艦を撃沈したエントラース一人に与えられる名誉だった。

　Ｕ１７の雷撃によってＡ艦隊におきた混乱は艦隊の分遣を約半時間遅らせた。このことによって敵艦隊を見失うことになってしまった。
　翌朝索敵攻撃をしかけた航空部隊が一旦これを発見して２隻を撃沈した。もっともそれ以上逃げに入っていた敵艦隊へ攻撃を行うことはなかった。関東の航空部隊との対決が控えていたためである。
　この部隊が夜間水雷戦を狙ったものではなく、単に神戸から落ち延びてきた水雷艇部隊であったことをバークが知るのは少し後になってからである。バークは分遣がうまく行っていればこの部隊を全滅させられたのにと悔しがったという。

●さりゆくものたち
■高橋兼良
▲館山
　ほぼ同時期に、大日本軍でも、攻勢ではなく撤退を行おうとしている部隊もいる。房総半島に籠もったまま、危機を迎えていた第４方面軍だ。

　彼らは、エアカバー、シーレーンを失ったことで、この数ヶ月危機に陥っていたが、大規模上陸作戦を終えた連合軍は、余剰となった輸送船を再集結。海空の戦力を、彼らの救出に集中した。この方面の東日本軍、特に航空部隊が不活発だったこともあり、作戦は順調に進行している。

　それでも、第四方面軍司令官、高橋兼良は手を抜かなかった。重装備は道路をふさぐように放棄、それらやそれ以外でもブービーとラップを仕掛けたり、主要道路の橋も、先月から入念に準備したとおり、部隊が通過次第、どんどん破壊する。
　さらに、敵の襲撃を受け止めるべく、第３師団が円陣を組むなかで、輸送船が館山に接近。ＬＳＴによるピストン輸送で撤退を鮮やかに成功させたのである。
　さらに、高橋は色んな方法で、遺棄せざるを得ない装備をゲリラ部隊のために残していった。共産系のゲリラを含む様々な部隊が、これを活用することとなる。

「日本軍は同盟軍を見捨てない」
　米軍部隊を、日本軍より先に撤退させた高橋はそう語った。
「そして、日本人は日本人を見捨てない」
　さらに続けた一言が、民間協力者も一緒に撤退させた事をさしているのか、それとも今後の戦いによる『解放』をさしているのか、この時点で判る者は、西にも東にもまだ、誰もいなかった。

●悲しき我が心
■パトリシア・エドウィナ・ヴィクトリア
▲館山

　様々な混乱を乗り越え、館山からの脱出作戦は成功を収めつつあった。
直近までの輸送船団護衛を志願した英国駆逐戦隊はサンダーバードの符丁を与えられ、その勇猛さを世界へと喧伝されることになる。 ヴィクトリアは母国の陥落を経験した身として関東を放棄することになった日米両陸軍そして、それに協力した人々の感傷に思いを致していた。そしてふとした思い付きを実行することにした。

「確か、我が艦にはバクパイプの得意な兵が乗っていたわね？」
　その日、撤退行の最前線にあった駆逐艦から流れてきた音楽とそれに乗って流された女性艦長の言葉をその場にいた者たちは生涯忘れなかった。スコットランド・ザ・ブレイブに乗ってヴィクトリアは言った。
「闘い続ける全てのものに我々は救援を続けます。それが世界に助けられて存続する英連邦の恩返しなのですから」

　以後の英国艦隊は彼女の言葉通りに勤めを果たした。散発的な空爆によってしばしば撤退は危機に晒されたが、日英の両駆逐艦隊は護衛の任務を果たした。至近弾を食らった日本駆逐艦一隻が小破し、英国駆逐艦一隻が潜水艦の雷撃を食らい大破した。そうした代償を伴ったが、地上部隊事態はほぼ無傷で救出することができた。

遠く報告を聞いた英国首相イーデンはこう述べたという。
「もし第二次大戦のダンケルクで同じことが出来ていたならば歴史はどれほど変わっていただろうか」

●奮迅
■七尾文七､ジョゼフ・ラインハート､荻野社
▲関東全域
房総撤退を巡る関東での航空消耗戦は､十日に幕を開けた。
『富嶽』による爆撃を阻止せんものと『火龍改』が群がり､そうはさせじとパンサーが立ちはだかる。別の空に目を向ければ､『飛龍』とムスタングと『火龍』が同じことをやっている。戦況を把握するのも困難な乱戦が､昼夜問わず展開される。
その只中で行われたラインハートらの突貫を､東側は当初レーダーの故障と誤認した。当然である､高度300での侵攻など､誰も想定する筈はない。もしも東側の対処がもう少し遅れれば､奇襲の成功例になったかも知れない。だが､世の中はそこまで都合良くできてはいない。
「おいおい」
第六戦闘大隊を率いて､『念の為』程度で確認に向かった荻野は､目を疑った。とは言え､敵を捕捉した以上､やることは一つ。
そして結果は､野中が予見した通りだった。「エンジンがまともに稼動する高度」での「ドッグファイト」ならば､五式戦がムスタングやコルセアに負けることはない。
友軍機ばかりがバタバタと叩き落されて行く様に､ラインハートらは爆撃中止を決断せざるを得なかった。
（厚木までは辿り着けない､逃げるしかない）
誰の目にもそれが明らかなほどの､一方的な敗退だった。

その日､第四戦闘機大隊の七尾らは『富嶽』邀撃に上がっていた。
高度は12000､本来の戦略爆撃機のステージである。
彼らの乗る『炎電』は､優秀な機体ではない。とは言え､この高度でまともに戦闘できるムスタングなど存在しない。向こうの護衛戦闘機がより劣勢ならば､こちらの性能は高かろうと低かろうと同じことである。
　……その筈だった。
だが､その日出くわした相手は違った。この高度で､曲がりなりにもジェット機の『炎電』に平然と追随してくる。
「引け､ひよっこが敵う相手じゃない！」
七尾が叫ぶ､その通りであった。
　彼らが相手したのは､ムスタングはムスタングでも､マーリンムスタングMkV（マークファイブ）。かつてムスタングの改良過程において英連邦が提案した試作機（G型）を､操縦室を気密して（逆に言えば､高高度戦闘を前提にしていたにも関わらず当初は気密していなかった。イギリス人の考えることは理解し難い）制式採用した高高度戦闘機である。
彼らは､最初にそれを目撃した日本人となったのである。
そしてそれは､イギリス人が日本の空を飛び始めたことでもあった。

関東での航空消耗戦は､撤退のその時を以って終わる。撤退船団に対する航空攻撃は事実上行われなかった。疲弊しきった東日本にその余力はなかったのである。
一連の戦いは､後世には西側優勢の痛み分けと判定される。西は撤退という戦略目的を達成したのだから､負けである筈はないのである。
だが､野中以下の重爆撃部隊は､敦賀での戦いに間に合わなかった。いや､最初から間に合う筈がなかったのである。房総撤退が終了する頃には､敦賀でも決着がついていて当たり前。
案の定､小浜への突破により､事実上「ガーデンマーケット」は中止されていた。敵中に取り残された第九師団を救うための戦いに変質している。

●宴のあと
■桂言葉／穂村愛美／我妻由乃
▲大宮

　千葉から敵軍が撤退し、ひとまず関東における組織的な地上戦は終結した。しかし、それは戦争の終わりを意味するものではないし、なにより戦闘自体が終わってもいない。事実、正規戦の終了後に関東の治安はむしろ悪化した。主な原因は西側が撤退の際に入れ替わりに投入したといわれる左翼ゲリラの活動の活発化である。

　桂言葉の病院もその例外ではありえなかった。普通、病院をターゲットにするなど非人道的と称されて仕方の無い事態であるが、それ以上にこの病院についてはその存在自体が非人道性を疑わせる対象であったことがより問題を複雑にした。
　夜半、仮眠を取っていた言葉の耳に爆音が響いた。電気施設を壊されたのか病院は闇に包まれている。戦場ずれした言葉にはそれがバズーカの炸裂音とすぐに察知すると、献体置場へと向かった。彼女の所業が明るみになればどのような事態になるか解らない。この病院を狙うということは既に西側にもかなり噂が広まっているのだろうか。

　あせる気持ちを抑えつつ、言葉は駆けた。階段を駆け上がり奥まった場所にある献体置場へ。角で出会い頭に黒装束を着た男と出会う。やはり賊か、男が拳銃に手をかける前に言葉は鋸一閃、首を跳ね飛ばした。ストレス解消にスパイの汚名を着せて２つ３つ斬りたい頃合だとは心中思っていたものの、まさか本当に西のスパイを斬る嵌めになるとは。

　廊下の置くから二つ続けて男の断末魔が聞こえる。…やるわね、マナマナ。言葉は自らの忠実な看護婦を心中で褒め称えた。 「センセー、遅いですよ」
　暗闇の中からまだ暖かさを保った血を滴らせた白衣をまとった看護婦穂村愛美が浮かび上がった。手には鉈。もちろん、狙撃の的になるような明かりをつけるヘマはしない。
「ごめん、でもどうにか守り抜けそうね」
　階下では軽い負傷の兵士達がかしましく動き回る喧騒が響いていた。

「でも只でさえ人手が足りない病院だっていうのに、これは後始末が大変になりそうですね」
「そうね、遊んでいる場合ではないわね」

☆

　大宮病院で騒乱が起きている頃、一人の少女が夜道をトボトボと歩いていた。千葉での戦闘によって家と家族を失った彼女は遠縁の親戚を頼って大宮まで歩いてきたのであるが、門前払いを食らったのであった。

　遠く爆音が聞こえたような機もするが、今の彼女にとっては関係ない。戦場に慣らされた体は無感覚だ。故に自らの危機も感知が遅れた。
「オヒトリディスクァ？オシャウサン」
　片言の日本語でアジア系の顔立ちの若い男４人組に話しかけられた。中国人だろうか、この年代の朝鮮人や満州人ならばもうすこし上手く話せるはずだ。
　既に喪失感が心まで埋め尽くしていた我妻由乃は虚脱した視線で振り返りか細げに「はい」と答えた。
　
　返事や理由は必要ではなかった、治安の悪化した街で女性が一人夜道を歩いていることで十分だった。路地へと引きずり込まれ、全てを引き裂かれた。途中で注射を打たれてからは彼女の生きる灯火となっていた少年の面影すらおぼろげとなった。
　意識が消える前に僅かに聞き取ったのは上海…連行…淫売といった言葉だけだった

Ｓ５『誇りにかけて』

●よなかであるくものたち
■吉田隆一
▲多治見
　昼なお暗い山の中。まして、夜は「鼻を摘まれても判らない」宵闇だった。そんな中、ごそごそと移動している歩兵たちの姿があった。
　突撃銃を持つもの、機関銃を持つもの、迫撃砲を担ぐもの、通信機を担ぐもの。それぞれが、なるべく音を立てないように注意しながら、真夜中の山中を前進してゆく…いや、前進しようと努力している。
　ドイツ本国では、夜間用の暗視スコープも開発され、支給されている部隊もあるという。だが、彼らにはそんなものは与えられていない。目の前に誰かが現れても、敵か味方かも判らない夜間の軍事活動は、大規模なものはほとんど不可能だと言われているが、彼らはそれに挑戦すべく、訓練を行っていた。

　近衛師団は、本来「大日本帝国一の」精鋭であるはずである。しかし、他の国家の近衛師団もしばしばそうであるように、あまり精強さを持ってならした部隊ではなかった。各地からの人員の寄せ集めや、「ええとこの坊ちゃん」が多かったり、あるいは駐屯地がしばしば大都会中心だったり、様々な原因が挙げられるのだが、事実はなかなかに曲げられないものがある。

　そんな中、近衛師団の歩兵連隊連隊長、吉田隆一は奮闘していた。当初、訓練の予定だった５月は結局は戦闘に終わってしまったが、かえって師団の士気は向上した。その機会を逃さず、今度は山岳防御を命じられたことをいいことに、山中での夜間浸透訓練という、精強を持ってなる部隊でもためらうような訓練を実施していた。

　「何というか、本末転倒？」　そう言って苦笑した吉田だが、流れに乗せられるものなら、流れに乗せて少しでも練度を上げてゆきたかった。今は彼らの前に敵は現れていないが、来月はどうなるか判らないのだから。

●いや何というか、もったいなくない？（マスター私信）
■左藤大輔　仲村正憲
▲関ヶ原
　第１１師団の、四国から関ヶ原への移動は、名古屋までは海路輸送船によるものだったこともあって、スムースに進んだ。上陸作戦に使用され、現在も便利使いされている輸送船団も、今月でそれぞれの母港へと戻ってゆくのだが…。

　関ヶ原は、滋賀と岐阜…いや、近畿と中部の結節点に当たる重要ポイントである。敵の直接攻撃が予想されなくても、守るべき地なのは勿論なのだが、大作戦が進行中の現在、どうしても部隊に弛緩した気配が漂うのは仕方ないことなのかも知れない。

　そんな中、第１１師団の歩兵小隊の小隊長、左藤大輔はジープを使って、いつもの巡回を行っていた。さすがに、彼の前でだらけた態度を取る兵士はいない。いや、兵士でないものは…。
「あっｗっｓっっっっうぇｄｒｆｔｇｙふじこｌｐ；＠：」
　何か人類以外の言葉をまき散らしながら、所用でジープから降りてきていた左藤に、飛びかかってきたものがいる。
「うりゃ！」
　とっさの気合いで、副官仲村の首根っこをつかみ、そちらに放り投げる左藤。なぜか、ヒップアタックの体勢で宙を舞っていた謎の人物に仲村は激突。両者はその場に落下し、へたり込んだ。
「何だ、こりゃ？」
　そこに目を回していたのは、でっぷりと太った白人だった。駆けつけた憲兵に、その男（相当酔っぱらっていたらしい）を引き渡す左藤。
　その男が、エリツィンという名前のロシア人だった、と彼が知るのは、しばらく後のことだった。師を探していたらしい彼がなぜ、関ヶ原で左藤に襲いかかったのか、それは永遠の謎（笑）に包まれている。

●日本海波立たず
■阿部俊雄／貝塚武男／加藤源五

　対馬沖では加藤源五率いる第１地方隊が対潜水艦機雷堰の設置を行っていた。海戦当初は８隻だった隊も現在では１隻が沈み、1隻は修理中（戦力表の小破は中破したものが修理中であるという意味）
　本来は後方担当の部隊がここまで消耗していることに戦争の熾烈さを思い知らされる。更に彼らには悩みがあった。近時どうにも枢軸合同艦隊の動きが活発化し、時には空母機を韓国領海ギリギリまで接近させてくるなどの妨害が激しくなってきているのだった。新潟や秋田へ向かう部隊の安全を確保するための威嚇とは解っていても気持ちのいいものではない。

　連中に自由を許しているのは朝鮮方面を担当する艦隊を日本支援へと引き抜いているからであり、一刻も早く指揮権を返還するべきだとの声が朝鮮担当のマコーリフ将軍などからも上がっているようだ。ことに損傷艦を先に釜山によこしてその補充修理だけを押し付けたことには「売女の餓鬼め！」というコメントをつけたらしい。お陰で日本の司令部が画策したＢ艦隊からの艦艇引き抜きは立ち消えとなっていた。

　加藤らにその曰くつきの艦隊の先導が命じられたのは翌日のことだった。Ｂ統合任務艦隊は朝鮮へと返還する前に山陰沖へと出動、そこで若狭へ突破する陸軍の支援を行えと下命されたいた。

　一方、東軍においても若狭沖は重要であった。特に此処を失うと退路を喪失する陸軍の強い要請によって海軍は全力を持って敦賀の支援を行うことになったのである。 貝塚武夫はこの任務によって貴重な母艦航空隊の喪失を懸念したが、引き受けざるを得なかった。どだい西日本に展開している陸軍主力が帰ってこれなければこの国は終わりなのだ。未だに対立点を残しているとはいえ、国を滅ぼしてまで海軍としての我を通すほど愚かではなかった。第二艦隊を前衛として若狭へ突入させ、第三艦隊の機体で北陸にたいしての防空支援を実施するように決定をした。

　阿部俊夫第八戦隊司令は空母の脇を固めて出撃をしていた。阿部は先行する第二艦隊の状況を憂いた。全般的な敵の優勢下にあっては水上艦艇は無力である。このまま突き進んでしまえば大規模な損害は免れまい。出撃前に自らが立案した沖縄突進計画が如何に夢想的であったかを痛感していた。計画自体、政治的理由を盾に一顧だにされなかったが、作戦上の無能を罵られなかっただけでも良しとした方がよいのかもしれなかった。とはいえ、自分が実施するとなれば必ずしも成算がないわけと思っているのがこの男の面白いところだが。

　また、阿部は対艦ミサイルの話開発の話を聞きつけて、自分の艦で運用できるようなものが出来ないだろうかという注文をつけていた。 まぐれのような形で竹島沖では勝ちを拾ったものの砲撃戦というような事態になれば東海軍は紛れも無く劣勢であるから少しでも戦力を高めようとするのは当然であった。今のところ東の海軍はこうした一人一人の創意と首脳の合理的な決断によって戦力的劣勢を覆い隠している。帝国海軍の名を受け継いだ東日本の海軍はかつて日本が一つだった頃の帝国海軍が理想とした海軍の姿を体現していると言えるのかもしれない。

　阿部の第二艦隊に対する心配は杞憂に終わった。第二艦隊は敵の地上航空隊に小規模な航空攻撃を受けたことで駆逐艦一隻を失い、反転して撤退をしたからである。後年に至るまでこの反転の評価は定まっては居ない。艦隊の危機を救った英断であるとする意見と味方陸軍の支援を忘れた行為であったという批判が真っ向から対立している。 あるいはあっさりと引き上げたのは陸海軍の確執が未だに残っていることの現われかもしれなかった。

　結果として、日本海に投入された両海軍の母艦航空隊は大損害とはいえないながらも軽微とは決して言えない損害を出すこととなった。双方の主力はどちら側も戦略的目的の完全な達成には失敗したが、西側は「借り物」部隊の協力へ感謝し、東側は「借り物」部隊の非協力を批判した。度量の差と言うべきであろう。

●終局
■スタンリー・T・サイラス､加藤健夫､大宮宗一郎
▲北陸
「小松が失われても､富山から戦い続けるべきです」
大宮は､かねてよりそう力説していた。それが鍵だった。

トライアングルハート。東側航空優勢を一気に覆すための､伸るか反るかの小松強襲。
　結果を先に言えば､小松は破滅するほどのダメージにはならなかった。
　そして。

合同航空指揮調整所にて､静かに対峙する加藤と前田。
「どういうことだ？　小松が攻撃された場合は､全軍を新潟まで下げる手筈だろう」
「小浜まで戦線を引き延ばされた上に､新潟まで下がれば､距離の利が失われ､航空優勢を奪われます。そうなれば､敗走中の軍が帰路を断たれます。ですから､第五戦闘機大隊の希望を追認したまでのこと。数十機の損耗を恐れて三万人を見捨てる理由はありません
……まあ､どのみち助からないでしょうけどね」
当たり前のように､前田が言い切る。
「新潟からでも負けるとは限らん。それに､富山にはロシア軍がいるだろう。混成は作戦上戒むべきことだ」
「俺が負けると言うからには､負けます。
ロシア軍？　そんなものがどこにいますか？　戦う意志のない者は､いないのと同じです。
防諜の問題もいりませんな。見られて困るほどのものはこの国にはありませんから」
そこまで言われては､加藤は折れざるを得ない。前田の評価は､全く正しいのだから。
「分かった。任せる」

「作戦中止だ」
　敦賀の西日本第九師団が救援される可能性をなくす決断だが､生来冷酷非道なサイラスは特に感慨もなく言い切った。
東日本軍が健在な富山から戦闘を続けるという決断をした以上､そしてこちらに富山まで攻撃するつもりも準備も最初からなかった以上､この作戦は完全に失敗である。このまま攻撃を続けて小松基地だけでも完全に潰しておく選択肢もあるが､そんなことをして何になる。作戦目的を達成できなかった上に今後達成できる見込みもないのなら､損害が大きくならないうちにゲームセットとする以上の方策はない。
　サイラスの判断根拠には､ようやく稼動し始めた独露義勇空軍への警戒感がある。一連の戦闘で疲労したパイロットを休養させてやらねばならない。また､がら空きの静岡方面で敵が再度前進に転じたことを発見したためでもある。これが､急遽投入された英軍がよく戦線を形成し得た理由の一つになるのだが､それはまた別の話。
「本来なら独露が本格介入する前に決着を着ける予定だったが､問題ない。こちらも増援は届く。とりあえず､Ｆ８６Ｆセイバードッグ､Ｆ８４Ｆサンダーストリ−ク､Ｂ４７ストラトジェット､合わせて二百機ほどな」

●ナッツ！
■白石海斗
▲福知山
　西日本軍の包囲環が完成して、２週間。帝国陸軍の精鋭たちは、最初の進撃から下関橋頭堡での死闘、そして福知山包囲網に至る全てを戦い抜いてきた兵士たちは、ついに降伏した。

　その一週間前、西日本軍は被包囲部隊に降伏勧告を行った。彼らは、福知山の市街ではなく、郊外の山岳地帯に籠もっていた。周囲の道路網は完全に封鎖されていたが、山岳の簡便ながらも陣地に籠もっている部隊を歩兵で攻め上がって行くことは、出来うることなら西日本軍も避けたかったのだ。彼らも、特に西から進撃してきた第１方面軍は、激しく消耗してたのだから。

　その勧告に対し、包囲部隊を率いていた白石海斗中将は、一言「くそったれ！」と返した。軍使からその返答を聞いた西第１方面軍司令官・武宮利勝は苦笑して、「ご苦労様」とだけ漏らした…と伝えられている。
　　開戦時の攻勢より、むしろ下関橋頭堡からの撤退戦で異彩をはなった白石中将は、どうやら日本人より敵対した米国人に強い印象を残したようで、この時期を題材にしたウォーゲームには、ずばりこの返答をモデルにした「ナッツ！」というタイトルのものも、のちに発売された。

　では、白石は包囲部隊と運命をともしたのか？　然らず。有名な言葉を返した彼は、その前後から山岳越えの散発的な撤退を開始させている。彼自身も、最終的には年齢を考えれば驚異的な体力を発揮して、敦賀まで「歩いて帰った」のだった。もちろん、被包囲部隊の大部分は最終的には降伏したのだが、「自分で自分の運命を選び取りたいもの」、そしてそれに身体がついてゆくものは、彼に従った。

　戦後、この行軍に参加した有名作家は、「行軍記」という小説を上梓している。敗北ながら、いやだからこそ、この撤退行は多くの人に印象を残したのかもしれない。

●土を喰らふ
■横井庄一
▲丹波山中
　山中を歩いて踏破する、と言っても、もちろん容易なことではない。道筋は小野田率いる偵察隊がある程度は確認し、目印をつけ、場合によっては案内者を残していったが、もともと体力も衰え、過労もきわまった兵士たちがたどり着けたのは、もう一つ、補給地点も設置されていたからだ。

　山中の補給ポイントと言っても、せいぜいが山の陰に空中から見えないように木の枝などを組んだテントや、蛸壺のように地面に掘られた穴に、同じように木の枝などに蓋をした程度のものだった。
　しかし、そこには引用に耐える水、煙を出さないように工夫された燃料、そしてそれを使って食することの出来る粉スープや缶などの食料品が揃えられていた。

　可能な限り多数作られた補給ポイントと、そこで取ることの出来た温かい食事は、撤退する兵士たちに強い印象を与えたと見えて、回想録でも必ずと言っていいほど言及されている。これらの準備を整えたのが、帝国陸軍・第三師団の輜重兵、横井庄一曹長だった。

「いやあ、帰ってきた兵隊さんたちが、『恥ずかしながら帰って参りました』と言うのを聞くと、そんなことはない、生きて帰って来れたんだ、胸を張って下さい…と言いたくなって」
「そのためにも、山で倒れたりと言うことがなるべくないように。温かい食事を食べると、元気が出るでしょう？　まあ、運ぶのは結構大変だったんですが。もともと、これは太閤さんの中国大返しにヒントをもらったんですよ」
　と、この撤退戦の後、新聞記者の取材に対し、横井はそう答えている。

●○眼流？
■範馬蛮
▲丹波山中
　日本の山は、里山はそれなりに手を入れられているが、山奥ともなると一般人には原生林と見分けがつかない。そんな中、西日本軍の兵士たちが周囲を警戒しながら、一列になって山中を進んでいた。
　福知山の包囲網から、歩いて山岳突破を図る帝国陸軍の兵士たちは、かなりの数に上った。放っておけば山の中でのたれ死に…ではなく、組織的な支援を受けて予想より多くの兵士たちが敦賀にたどり着いているのを知った西日本軍は、歩兵を「歩かせる」ことで、その追撃を図ったのである。

　ふっと草むらが揺れた。ただの風か…と思う間もなく、兵士の一人が音もなく崩れてゆく。彼の目には、一瞬だが肌色の影が映っていた。
「うっほ」
　微かな声が響く。それに気が付く間もなく、赤い霧を吹き出させながら兵士たちは一人、また一人と倒れていった。その間、わずかに１５秒。

「うっほうほ」
　最後の兵士がどさどさと物の倒れる音に気づいてグリースガンを構え直した時、影は彼に向かって光るものを伸ばしていた。ぷしっと何か柔らかいものを切り裂く音がして、また赤い霧がしぶく。
　日本刀で人を倒す時、必ずしも真二つに両断したりする必要はない。大きな血管を、数センチも切り込んで切断すれば用は足りる。西日本軍の兵士たちが全滅した時、そこに立っていたのは上半身裸で、両手に日本刀、背中に重機を担いだ範馬蛮、その人だった。
「うっほうほうほうっほほ?」
　奇怪な彼の雄叫びが、ようやくあたりに響き渡った。それを聞いた者は、西日本の兵士なら恐怖を、帝国陸軍の兵士なら安堵を覚えたのだった。

Ｓ６『迷いのときの中で』

●悪意の世界
■グリゴリー・エフィモヴィチ・ラスプーチン
／ボリス・エリツィン
／逝毛田Ｂ作
／ニキータ・セルゲーイェヴィチ・フルシチョフ
▲下関ほか

　ラスプーチンは西軍に保護され、捕虜たちと一緒に下関の病院へと担ぎ込まれた。しかし、ここにあっても彼の複雑な立場は変わらなかった。否、いっそう増幅されたと思っていい。
　本人は「手足を失っても口があれば平和を説くことができる」と言い張ったように未だ意気軒昂なのであったが、そういした態度からどうせ観戦武官くらいだろうと目をつけていた西側へ疑念を招いたらしい。それに追い討ちをかける如く一人の面接者がラスプーチンの下へと連行された。

「おお、エリツィンよ、捕まってしまうとは情けない」
　目の前に引き出されたのは彼の弟子の一人であった。引き連れた係員は知己である様子を記録すると獲物を見つけた狩人のような笑みを浮かべた。

「なるほど、武装して密入国を図る露探の一味か…ひっとらえろ」
　なんとなく不穏な空気を感じ取ったラスプーチンは覚えたての日本語で言ってみた。
「チョ、チカウヨ！」
「誓うのは法廷でやってくれ」

翌日、日本国はロシアのスパイを逮捕したと公表し、露西亜の敵対的行為を非難した。


一方ロシアでは…

　政治委員フルシチョフの発案で「害虫の有効利用」というレポートが提出されていた。現在のドイツにとってポーランド問題は鬼門の一つであり、そんなことをほじくりかえすロシア人など存在そのものが罪であった。しかし、政治上全ての人命には存在価値を与えることが可能である、たとえそれがより多くの人命を無価値へと変えることであっても。

「わが国の平和運動家にして宗教家であるラスプーチン氏が日本の反動主義者たちによって暴行を受け、拉致監禁されている件について」

　ロシアのスポークスマンは強い調子で述べた。
「彼は確かに我が政府に対して批判的であった。しかし、正しい言論の自由を機会を与えられたロシア人の一人を無残にも暴行し、拉致監禁している日本の反動分子は許しがたい。日本反動分子はすぐに彼をわが国へ引き渡すべきである。また、わが国は人命救出に対してあらゆる手段を活用する。そのために日本が正しい政府の元統一されるように人道的支援団を送ることも辞さない」

☆

　信者にロシア政府のラジオ放送を流して聞かせながら逝毛田は内心で思った。よく言うわ、ロシア式の正しい言論の自由っていうことには政府を批判する自由は含まれて居ないし、人道的支援団とやらは戦車に乗ってやってくるじゃないか。まあ俺様も口先では似たようなものだが。

「皆さん！お聞きになったでしょう」
　ラジオの放送を受けて発した逝毛田の声が歓喜で迎えられる。
「西の悪逆非道な振る舞い、平和を愛し武器一つ持たず、その証明に裸になったラスプーチンを集団で遅い殺すことすらせず四肢を折ると言う虐待行為を行う彼らの精神の貧しさ、彼らこそが禍です。主犯である井上成美のなんと悪逆無道なことか！
　天罰覿面無間地獄に堕ちるであろう無能かつ人権蹂躙の大悪人です。さあ皆さん、今こそ我ら想価会へ。そして想価会と共に歩む後藤首相の下で一致団結し、この国の愛と平和と自由、人権、心の平穏を守らねばなりません。さあ南無妙法蓮華経の下、共に国家にいえ、国民に尽くそうではありませんか！　さすれば家庭円満、商売繁盛、家内安全、それらは来世にまで保証されるでしょう」

　信者たちが一斉に「フォルツア後藤、ビバ逝毛田」と喝采の声を逝毛田の演説にあげる。
逝毛田は彼らに対して遠慮ぶって私はノーベル平和賞は事態しますなどと言っていた。

　ウラジオストックでは人道的支援団である救日義勇軍本隊の第一陣、ロシア兵三個師団を乗せた大船団が出航の時を迎えていた。

●鵞鳥歩き
■イワン・セーロフ
▲ウラジオストック
　華やかなマーチが拡声器から轟くなか、兵士たちは華麗にグースステップを踏みながら、綺麗にまとまって行進していた。ここはウラジオストック。今遂行中の日本戦争では、支援の中心になっている重要な港湾だ。

　その中で、パレードを見ているイワン・セーロフ上級大将は、素直に感動していた。パレードの上手い軍隊は弱い、などと言われるが、まったく隊列を組んで行進できない軍隊はまた、問題外である。
　セーロフの祖国、ロシア共和国は、ソ連の頃こそ精強をもってなる陸軍を所有していたが、その後は経済的な理由、そして宗主国のドイツに対する遠慮から、軍備に対する配慮は…そして軍隊の質は、低下する一方だった。

　今回の極東の戦争を奇貨として、セーロフは配下の軍を鍛え直そうとした。様々な配慮共に、独軍との共同訓練をも行ったのは、一つにはそのためだ。その努力の甲斐あってか、戦前は隊形を組むのも難しかったロシア軍は、パレードをこなせるほどに成長している。装備も、見違えるほどに充実した。
　これで、戦争に送らなくてすむなら一番なのだが、政治的にはそうも行かない。むしろ、独義勇軍主力が到着する前に、形のある成果を上げなくてはならない立場だが、それはそれで、実戦経験という貴重な財産を手に入れる好機だと、キーロフは割り切っていた。

　色んな思惑を後に、親衛戦車師団１個、機械化狙撃兵師団２個のロシア義勇軍は、日本の土を踏むことになる。

●レディズム
■野田松之助／真壁六郎／立花雪音
▲新潟

　立花雪音は新潟港で鍵十字付の白青赤のスラブ旗を振っていた。迎えるのは日本国内に初めて入ってきたロシア軍である。
「人道的支援団」「アクシスボランティア」「救日義勇軍」
言い換えはいろいろあるが、それは外国軍以外の何者でもない。
　隣からは黄色い喚声に混じって「大きいよねー」とか「でもちょっと臭いねー」とかいう言葉が聞こえていた。輸送船に余力のない枢軸が大軍を運んだために、船内の居住環境が悪かったせいもあり、白人に多い男臭さが周囲に漂っているのだった。

　雪音は日本では見られないような平べったく重厚な戦車（Ｔ５４というそうだ）を頼もしく思うと同時に、これから外国人がどんどん増えていったときに日本がどうなるのか不安でしかたなかった。この戦争がまた、日本人の統御を超えてしまったら、また子供の頃のようにお腹を空かしたり、空を恐れたりしなくてはいけなくなるのではなかろうか。早く終わってくれないかと切に願っている頃、彼女の運命は彼女の思惑外で動き始めているのだった。

☆

　軍需省では野田松之助事務次官が頭を抱えていた。
　現在、馬渕の指導によって、国家中から徹底して無駄を省いている真っ最中である。工場から前線まで、徹底した在庫の管理を以って少しでも生産力を上げるべく職員は跳び回っている。ことに統合空軍化の現場では（陸海軍の対立をよそに）協力な供給管理・一元化が進みつつある。それはいい、順調だ。北海道や東北での工場建設も順調だ。

　しかし、軍需省内での人員が不足し始めている。馬渕は戦死者遺族・女性・戦傷者を軍需省・工場に大量採用することで解決しろと命じた。馬渕はそのときは冗談で「俺の秘書団は若い美女で固めろよ」などと言っていた。その時は野田も冗談と思い、新たな職員向けのマニュアルについて考えていたものだ。

　野田が悩んでいるのは徹底した能力主義を貫くために募集対象者に振り分けのペーパーテストを行ったところ、結果的に馬渕の冗談が本当になりつつあることだった。結果として、最も母数が大きくしかもテストで優秀な層は現在教育中の女学生であった。当然といえば当然ではある。男子学生は動員や志願で既に居ない。既卒の女性は現在の工場や交通を支えている。傷病兵は教官として軍が手放さない。

　結局のところ高等教育をうけるだけの余力ある女学生が残された。このことを馬渕に報告したとき、馬渕は大いに落ち込んだ。戦争経済の責任者として「大日本帝国最後の贅沢品」である彼女たちまで使い切るという現在の総動員体制の底が見えたことは長期の戦争に対する絶望感を抱かせた。そして、敵の多い政治指導者としては、軍需省が権力にあかせて少女を囲っているなどと言われることの危険性に思い当たった。馬渕は全力で自分の冗談を撤回し、そうした危険を回避しなくてはならなかった。

　悩む野田にヒントをあたえたのは想価会の「ウッシオ」だった。想価会は不安定な情勢の中で首相のお墨付きを得た団体として急速に勢力を伸ばしつつあるのだった。その勢いは官僚機構や軍の侵食が懸念され始めるほどである。彼らの成功にはひとつ質はともかくとして面白く伝える広報力にあるのだった。 想価会への対抗のためにも、正規の国家機構にも広報力が必要であるということは認識できた野田であったが、その具体的方法論となれば頭を抱えるよりなかった。手元には年頃の知的で見目麗しい女性たちという資源を揃えたものの効果的な運用となるとこれまでの官僚生活ではノウハウが全くないのだ。

　考えても答えが出ない気休めとして、日常業務である大臣への面会希望者のリストのチェックを始めた野田はその中の職業に今の自分が求めているものがあることを見つけ、パチンを指を鳴らした。

「おい、この真壁とかいうのをさっさとここに連れてこい」
「はっ、はじまして、私は真壁六郎と申します。芸能事務所に勤めております。この度は…」
　いきなり、引き立てられるように呼びつけられた真壁は何が起きたのだといわんばかりに慌てて自己紹介をしたが、厚かましくも野太い声に途中でさえぎられた。

「応、早速だが、うちに若い女性がたくさん入るんだが、ふしだらだとかそういった悪いイメージを持たれない様しっかりとした広報力を持たせるようにしたい。君のところで協力をしてもらえんかね？」
　大チャンスだ。政府の後ろ盾を受けられる上に人材発掘まで勝手にやってくれるなんてそうあることじゃない。真壁は自分の幸運に心の中で万歳を三唱した。
「喜んで、わが社の死力を尽くして…ただ、ひとつだけお願いがあります。この軍需省で奉職されている立花氏のご令嬢を我が事務所で活動できるようにお願いをしてもらえないでしょうか」

「は？ああ、そういえば君は陳情に来ていたのだったな、それが本論か、拘るほどの事なのかね」
「ええ、彼女を後ろに回して闘う限り兵士は闘い続けられるでしょう。彼女こそは守らねば儚く掻き消える美しいこの国の姿なのです」
真壁は自らの直感を確信して言った。

●航空作戦本部
■加藤健夫
▲新潟
「ご着任おめでとうございます､本部長殿……あ､失礼致しました､本部長閣下」
「ああ､そんなにしゃちほこばらなくて良いよ。どうせ僕は飾り物の本部長だ､余計な口を挟むつもりはない。良いようにやってくれ」
直立不動の加藤健夫航空作戦本部次長……大日本帝国陸軍中将から､「海軍式の」敬称で呼ばれた老人は､にこやかに言う。ただし､お飾りという言葉にはとても似合わぬ存在感を漂わせて。
航空作戦本部を発足させるための前田の策は､コロンブスの卵というべきものだった。
陸軍中将の加藤がトップでは､海軍航空隊が下につくことはない。ならば､「誰もが納得せざるを得ず､セクショナリズムとは無縁で､自分がお飾りであることを認識してその通りに振る舞える人物」を担ぎ出して名目上の本部長に据えれば良い。
うってつけの人材がいた。第二次大戦当時のGF長官。第三次大戦においては終戦工作の中核となり､戦後は故郷長岡に隠遁していた､大日本帝国海軍でただ一人存命の元帥。
名を､山本五十六という。
今では航空作戦本部首席参謀という肩書きになっている前田に言わせれば､
「さして有能ではないが､自分がお飾りだと分からないほどの馬鹿でもない。それに､たまたま新潟から近いところに住んでいて担ぎ出しやすかった」
程度の人物だが､大多数の人間にとっては充分なカリスマである。石頭揃いの海軍省が､現役復帰申請を拒めないほどに。

とは言え､組織ができても動かす駒がなくてはどうしようもない。
その点､幸か不幸か､独露両国がかなり張り込んできている。
ロシア義勇軍機は､既に展開しているMiG17にIｌ28。ありがたいことに､最新鋭機ではない（ロシアにおいて､「最新鋭」は「故障」または「欠陥」の同義語であるからだ）。整備の観点からも､機種は少ない方が良い。
対するドイツ義勇空軍は､ケッセルリンクの尽力もあって新鋭機で固めてきた。
現用主力戦闘機､Me1101ローテバロン。Ta183�U（MiG17）に航続距離で勝り､しかも空対空自己誘導ミサイルの運用を前提とする凶悪な機体である。
そして､技術者として歩むべき道を頑ななまでに歩んできたハインケル社が､He343の後継機として送り出した戦術爆撃機､He443フレスベルグ。狂王（ヒトラー）と豚（ゲーリング）あるいはケッセルリンクといった上層部､そしてそれに連なるメッサーシュミット社によって不遇を託ち続けたハインケルが久々の自主開発機として世に出し､誰もが平伏さざるを得なかった会心の作である。
23ミリ機関砲7門という反則的な自衛能力。セイバーに匹敵する1050キロの最高時速。最長7200キロの航続距離。最大で9トンもの爆弾を搭載できる上に､対艦ミサイルも運用可能。米軍のサンダージェットに匹敵するか､あるいは勝る。
空中給油機や管制機こそ､ヒトラーの尻尾どもが大嫌いなガーランドに「狭い日本で､そんなものが必要か？　いや､必要になる戦いをする気があるのか？　そもそも､東日本の態度が気に入らないというだけの理由で国家意志に逆らうようなバトルジャンキーに使いこなせるのか？」と皮肉たっぷりに斥けられたが､正面戦力は非常に充実したものになっている。

　だが､それでも足りない。今月は米独露とも二百機規模の増援部隊を送り付けてきたわけだから差し引きすれば二百機分のリードになるが､これは独露にしてみれば息切れする動員ペースである。対して､米国にはまだ余力がある。本気で飛ばしている独露と徐々にギアを上げてくる途中の米国が長期戦を構えれば､結果は明らかである。
西日本にしたところで､狭い列島で殴り合いを続ければどちらも焦土と化すだけである。メリットは何もない。
　だが､戦争にどう幕を引くべきかは､まだ誰にも見えなかった。

●義勇空軍群像
■モンティナ・マックス､イヴァーン・ヌィクィートヴィチ・コジェドゥーブ
▲新潟
抗米救日義勇軍航空隊司令官､モンティナ・マックス少将。
執務室の壁にはキノコ雲の写真､BGMは「ワルキューレの騎行」。バトルジャンキーな義勇軍総司令官のシュトロハイムですら「奴の『好き』と俺の『好き』は同じ戦争好きでも意味が違う」と言い切って近寄ろうとしない､筋金入りの殺人狂である。
前大戦で対米核攻撃作戦立案／実行の中心を努めた時に空軍へ移籍した､決して航空戦のプロではない彼が司令官になることは､この義勇軍が､いや､今のドイツ国家そのものが､いかにSS主導かを雄弁に語っていた。
尤も､そんな人間が大手を振って乗り込んできたことを､そしてそれを受け入れた空軍主流派を､絶対に許さない人間もいるわけだが。

抗米救日義勇軍航空参謀､イヴァーン・ヌィクィートヴィチ・コジェドゥーブ少将の経歴は謎に包まれている。
36歳と称しているが､それで少将とはいかにも若過ぎる。大体､第一次大戦・第二次大戦の撃墜王云々とは何なのだ。36年前には第一次大戦は終わっている。第二次大戦・第三次大戦の誤り？　それもない。ロシアは公式には第三次大戦には関与していないことになっている。
勿論､気付かないわけはないから､故意に「すぐ嘘だとわかる嘘」をついているのである。管理社会のロシアにおいて経歴秘匿が許される人間は限られるが､そういった者なら「自分は経歴を秘匿していますよ」と大声で叫ぶに等しい真似はしない筈である。
ただ､彼はそこにいる。それだけが事実である。

殺人狂と秘密の塊。かくも個性の強い人間が率いる義勇軍と､もっとアクの強い前田との間で板挟みになる加藤は､胃に穴を開けるほど調整に苦労することになるのだが､それはまた別の話。

●ドイツ情勢報告書
■遠田賢
▲ベルリン

１９５６年７月、ドイツ大使館月例報告
　ミサイルの共同開発の議案は速やかに承諾され、技術者が日本へと派遣された。

　ドイツ国内の諸勢力、ドイツ国内には大きくわけて二つの政治勢力がある。
ドイツ一国の国益を追求する「総統派」そして欧州全体での覇権の維持をはかる「皇帝派」である。

大雑把に言って前者に含まれるのは軍や外務省といったドイツ固有の部署である。
彼らは外交的に見れば孤立主義的であり、現在の体制からなるべくドイツの利益を増大させようとしている。
しかし、海軍の主流派や空軍の一部はこの姿勢に必ずしも賛成していない。

海軍や空軍はドイツ一国の国力では自由主義陣営に対抗し得ないと認識しているからである。
彼らは皇帝派として親衛隊や西欧のファシズム国家をはじめとした諸勢力と
欧州の連合帝国的な政体樹立を望むゆるやかな連帯を組んでいる。

　潜在的対立に留まっている両者の抗争が激化することになれば、総統の直接介入による大規模な欧州全体の再編がおき得る為注意を払う必要があるであろう。なお、ドイツ総統は「国内派」が今回の派遣に対する慎重論を唱えていることに非常に不快感を示しているようである。

●ミステル
■矢追順一
　／ギュンター・ヘスラー
▲ウラジオストク

　ギュンター・へスラーが本国の海軍省へと要請していた潜水艦を更に一個戦隊自由投入するという案は承認された。
今後は日本海における攻撃的な作戦、或いは太平洋での作戦にたいし、任意の３個潜水群を投入することが許される。
それ以外の部隊については、引き続き日本海の聖域化に従事することになる。日本海の聖域化という使命はあるものの、これでは戦力の逐次投入ではないか、へスラーは憤りを覚えていた。

　前線から上がってきた報告を読んでも結果は捗捗しくない、こうした狭い海では最早制空権を持っていなければ潜水艦が使いにくいものへ変わっているのだ。少し考え方を変える必要があるのかもしれない、例えば敵の航空機が使えない海域へと誘い込むとか、もっと後方まで手を伸ばして通商破壊を行うことも考えられる。

　とはいえ、彼の行動は本国からは高く評価されている。東京沖においては大規模な敵艦隊の護衛を突破し、撤退船団に対して一撃を加えている。損害は決して小さくは無いが、植民地人に対して灰色狼の存在感を見せつけたと思えば、引き合わないものではない。
　副官が外線を取り次いだ、ベルリンからだ。偉大な先輩であり最高司令官である相手と、義理の親子としての会話を交わした後、ヘスラーはまるで世間話をするように言った。「国軍情報部より耳にしたところによれば、我等と因縁の執念深いマティフスの諸君が動き出したとか。我等、狼がよもや彼等に遅れをとる訳には参りますまい」

☆

業務に忙殺されるヘスラーの元に副官が続けて日本人の技術者が面会を求めてきた事を伝えた。
日本から潜水艦技術を学びにやってきた矢追順一と名乗る男は自己紹介をした後に
「ドイツだったら潜水空母とかドリルのついた潜水艦でも作ってませんかね？ミステル・ヘスラー」と自分の興味を言った。
「っていうかお前はドイツを何だとおもっていやがる」

　相手をするのが面倒になったヘスラーは副官に命じて適当なところを見学させるように命じてつまみ出した。全く、これだからドイツに幻想を持っている奴は困る。尤もドイツが未だに世界の覇権国たりうるのはその幻想に拠る所大ではあったのだが。

●ブラックトゥモロー
■Ｍ．Ｌ．キング．Jr／マルコメ・バッテン
▲北米

　キングとバッテンは黒人運動家であるが、そのめざすところは真逆であった。アメリカ人としての地位向上によって差別を廃止しようとするキングに対して、バッテンはアメリカ社会からの分離によって差別する存在そのものを抹消しようとした。その二つの道のどちらを選ぶのか、今のところはまだはっきりとした答えは出ていない。
　キングは引き続き南部で軍における黒人の地位向上や公民権を訴え続けた。一方マルコメは東部の荒れた地域を逃げ回りながら麻薬を売りつけているだけだった。じんわりと二人の違いが差を生みつつあった。

この頃からキングは「ファシストによる暗殺」の恐れがあるとしてＦＢＩの護衛がつくようになった。
キングは「呈のいい監視」じゃないかと笑い、口さがない者は「ファシストじゃなく、白人至上主義者の間違いだろ」と嘲ったが
国家に追われる者と守られる者、この点を見ればアメリカが何を望んでいるかは明確であった。

●宗教は阿片だ！
■野坂参三／宮本顕治
▲福岡

　野坂は報告に怒っていた。彼を怒らせる原因は関東での工作活動の失敗である。
破壊行為を慎むように厳命したはずがまんまと追い詰められて、病院を襲撃する結果となってしまった。
現地の宮本からの報告によると、共産党に対する非常に厳しい監視が始まっており、
浸透が困難であることから起死回生の手段として行ったとしている。

　共産党への取り締まりが急に厳しくなった背景には東の宗教団体「想価会」が東日本政府との協力関係を築いたことが在るようだ。元々貧民救済に優れた両者の支持層は近接しており、その声を吸い上げるパイプを想価会がこなしたせいで取り締まりの精度や厳しさが段違いになった。一部では民間警備と称してシンパまでが「狩られる」場合まであるという。
全く持って宗教は阿片だ。それに依存する国家は根から腐ってしまう。港湾労働法の成立や労働の効率化で目覚しい成果をあげつつも野坂は前途に現れた邪悪な敵の存在に憂いを覚えざるを得なかった。

●東洋の魔都
■高木惣吉
▲上海

　交渉相手は上海の雑踏の中、それもかなり品性に欠ける場所を待ち合わせ場所に指定してきた。
ひょっとすれば、これは秘密交渉と称してハニー・トラップを仕掛ける為の罠ではないかと高木が疑い始めた頃に
ドハハと場所に似つかわしい品性に欠けた笑い方をしながら交渉相手がやってきた。
「やあやあ、お待たせしたね。海軍サンの上品さではこういうところは苦手かね」

　厭な奴だ。第一印象からしてその交渉相手には好感を持つことが出来なかった。
「将軍は大変得意でいらっしゃると聞き及んでいますが」
「いやいや、私も退役して今はただの中華料理店経営者でしてな。
今はまぁ、日本では商売上がったりでして仕入先の知り合いの縁でこちらに身を預けております。
上海は金さえあれば大変楽しいですぞ、何人でもよりどりみどりですからなぁ。いやっははは」

「それで、東側はどういった条件で…」
「いやいやいや、ちょっと一杯入れてからにしましょう。金は政府から機密費としてもらっとりますしな。楽しまねばバチがあたるというものですわ」
　この男、モンゴルで部下を飢えさせて戦線を崩壊させかけたことなど覚えていないのだろうか。

　相手はキョロキョロと店を物色すると店先で達者な上海語を操ってなにやら交渉を始めている。
店先で１００ドル札を束で渡して中へと入る。
「さあさあ、私もちでいいですから。入りましょう」
　それは貴様の金では無いと心中で罵りつつも交渉ルートに行き詰まりを感じていた高木は乗らざるを得なかった。

　中ではさぞや酒池肉林の光景が広げられているかと思ったが、通された部屋は普通の談話室じみた場所であり、
その場には未だ少女と言ってさしつかえない女性は一人座っていた。
　傍らの男が「辛かったろう、国へ帰してあげよう」少女はワッと声をあげて泣き出した。
「ありがと…ありがとうございます」

☆

「これが我々が起こした戦争の現実なのだ。混乱によって、食べるに困って身を落とす者、人攫いに浚われる者…挙句見ず知らずの土地まで流されるものもいる」
「こんなところまで連れ去られるとは、流石に知らなかった」
「フン、だから世情に疎いものはいかん。なあ、元提督、君ももう少しここに居るならば少し勉強した方がいいかもしれんよ？
中国の混乱によって海賊になる人員は腐るほど居る。その中の一部は日本にだって来る。そうだろう？」
　少女はコクと頷いた。
「薬は打たれたか？」少女にさっと手を伸ばし瞼の下や舌を吟味する。
「大丈夫、大日本の医療技術は世界一だ、すこし辛い時期もあるが、きっとよくなる」
少女の瞳には絶対的な信頼をこの老人へとよせているのが覗える。高木は些かこの男に対する偏見を考えなおした。
ただ、将軍という権限と責任に精神的骨格が着いて行かなかっただけで、本質的にこうした性質の男なのかもしれないと。
同時にこうした被害者が日本から出ているならば救援の必要があるだろうという政治的算盤も弾いた。
特に東日本からの被害者を西日本政府が救出すればそれは人道上の成果となりうるだろう。


「そこで、本題なのだがね、我々が引き裂いたこの国が、二度と馬鹿げた戦争を起こさないような終わらせ方が必要だとは思わんかね？我々で終わらせなければならんよ、こんなことは」

●暴虐
■貝塚修／吉見健三
▲名古屋

「手筈はどうか？」
　東海道を確保したことで繋がった電話線を使って吉見健三は名古屋の軍政を預かっていた貝塚修に尋ねた。
「抜かりなく」

　名古屋に自らのスタッフを引き抜いて軍政局支部を立ち上げた貝塚は
軍との打ち合わせを経て自らのやるべきことを確定した。
元より、東に属したこの地域であり、今後も最前線になるであろうこの地域においては緩やかな改革などやる必要はない。
たとえ、強引であっても徹底して改革して日本国の血肉として消化し、
大日本帝国が取り戻したとしても直すことができないくらいに徹底的に作り変えるのだ。
このやり方が多くの反感を買うことは解っている。失敗をしたときの覚悟を決め、
かつて帝国陸軍兵士であった頃の九四式自動拳銃を再び懐へ納めるようになっている。

かれが推し進めた政策は２つ、農地解放と工業大疎開である。
この二つの政策はかれと反対の立場に立つ者からは農地略奪と強制連行として後代まで批判されることになる

農地解放の名で布告されたのは
不在地主からの土地の無条件・無保証没収
在住地主に関しても1ha以上に関しては物価スライドオプション無しの１０年債権にて強制的に買収。
資産価値からすれば紙くず同然であった。
この政策に一斉に地方有力者を為す地主層が反発した。
西軍占領下にある静岡、愛知、岐阜では多くの地方官吏のサボタージュや、地主の暴動が発生し、
それに対する反感を持った小作人の逆暴動や殺害も発生した。

これに対して貝塚は両者を争うだけ争わせた後に重要地点では徹底した弾圧を行った。
このことによって多くの不満分子を難民として国外に追い落とした。
東軍が奪回した浜松地域などでは東京や新潟の不在地主と小作人の権利関係の争いが激しくなり、
現地の空気は著るしく大日本帝国に対して敵対的になりつつあった。

工業大疎開では大はトヨタ、三重名航から小は各協力工場に至るまで
図面、金型 、一部技術者及び熟練工など運びうる
工業関連の資材・人材を補給船団の帰路に搭乗し九州への「疎開」を実施した。
これを拒否した経営陣は全て拘禁した。
自分の工場ががらんどうになる様子を見て好意的になれる工場主がどれほどいるのだろうか、
協力をしたのは労働者が過酷な条件に晒されないように涙を呑んで彼らに同行した少数のものだけだった。

「暴動などはなかったのかね」
「全て鎮圧致しました」
　冷然と貝塚は言い放った。
「少なくとも、現在我が軍が統治している領域においては喚きたてるような輩は一人もおりません」
「そうか、ご苦労だった」

貝塚の政策は少なくとも短期的には「軍隊にとっての楽園」を作ることには成功した。
長期的に見ても東側の最前線であった中部地域の価値を再定義し、西の発展に資するものであるのかもしれない。
しかし、日本国にたいする怨念めいた何かを深く刻み込むことになったのである。
それは日本国そのものの骨格さえも歪めたのかもしれない。
なぜならば軍の専制から逃れることが日本国成立の最大の動機であり、苦境において自らを成り立たせる根源であったからである。

●横逆
■馬渕駒之進／後藤孝志
▲新潟

「３個師団が壊滅、どうにか逃れてきた５個師団も纏めてしまえば３個師団程度の人員しか確保できない。再編には最低でも１月はかかる模様…大阪にて殿を命じられた第十二師団は敵の重包囲下にあり、市街を灰にする覚悟で徹底抗戦する」
　後藤は馬渕に陸軍から上がってきた報告を読み上げた。風通しは良くなったとは言え、なかなかセンシティブな情報は文官の大臣には回ってこない。馬渕は北海道コンビナートの建設や、生産力向上案報告に赴く時に首相から聞くことでこれを補っていた。

「まあ、お陰で義勇軍への補給はだいぶ楽になりましたが。困ったものですね」
「仕切りなおしだな。こちらとしても悲願である関東の回復は成った、本来ならここでやめるべき戦争だが」
「外国軍がいなければ戦争を続けることはできないが、外国軍が居るゆえに止めることが出来ない。矛盾もいいところです」
「日本国の一部は店仕舞をしたがっているが、この戦争が極東の全体故に勝手に店仕舞いをするわけにはいかんだろう。我々も同じことだ。今の在日米軍が朝鮮へ入ってしまえば満州・ロシアが危なくなる。我々だけ生き残っても生命線たるシベリアラインが不安定になれば結局はジリ貧だ。当面は敵の更なる攻勢を食い止め、機を見て反撃して敵に打撃を与えて継戦意志を削ぐ」

「そんなとこですか。できればもう一度去年ごろに見た夢でも見たいものですが。東西日本の生産力が逆転し、たとえ奪回しても当面はどうにもならない名古屋を抱えるのは補給担当者としては悪夢ですね。瀬戸内海も敵の手に落ちたので神戸あたりから補給線を延ばせますから策源としての価値も薄いですし、ああ、敵の攻勢拠点を潰す意図なら意味はありますがね」

「ままならないな、航空部隊の統合一つとってもままならない」
　後藤はセクショナリズムによって航空部隊の運用が未だに効率的に行われていない事を口にした。
「一人二人クビを飛ばして喝を入れてはどうですかね」
「そんな人事権は首相にはない。陸海の統帥権云々でもめているところに割り込んでしまえばロクなことにはならん」
「統帥権？なにをおっしゃっているのです。冗談ではない、法に則って国を誤った過去を未だに引きずるなど理解できません。
憲法？停止してしまえばよろしい、プロセイン憲法が何度停止されたと思っているんです。何のための権力ですか」

　馬渕は激して言った。普段温厚な人間が不敬に等しいことを平然と言いのけた事に後藤は驚いたが、慎重に少し首を縦に揺らした。
「なるほど、その発想はなかった」

1956年、７月。西軍の包囲殲滅の企図は半ば成功を修めた。しかし、義勇軍を迎えて東軍も再編を急いでいる。
戦争の波は個人・団体・国家のあらゆる熱狂を飲み込んで一層高まるばかりであった。

第二ターン政治判定

東軍

・東軍初期生産力372

キャラによる変動
馬渕　　　　　　+9
後藤　　　　　　+3


支配変化
島根　　　　　　-5
鳥取　　　　　　-5
岡山　　　　　-10
兵庫　　　　　-20
京都　　　　　-15
大阪北部　　-20
奈良　　　　　-10
三重南部　　　-3
千葉　　　　　　+9

工場建設　　　+8

合計313

・東日本貢献度46（-9）
ラスプーチン+10
後藤　+2
援軍　-20（空軍４００機：8　４個師団：12）
枢軸軍損害　-1

西軍

初期生産力285

キャラによる変動
野坂　+5
白州　+3
貝塚　-8（中部強制疎開による）


支配変化
島根　　　　　　+3
鳥取　　　　　　+3
岡山　　　　　　+7
兵庫　　　　　+16
京都　　　　　　+7
大阪北部　　+18
奈良　　　　　　+5
三重南部　　　+1
千葉　　　　　　-15

復興　　　　　+13


合計343

西日本貢献度　48（-14）
ラスプーチン　 +5
キング　　　　　+3
マルコメ　　　　-2
井上　　 　　　 -2（物資輸入）
援軍　　　　　-18(航空機200：4　英海軍：6　１個師団2個旅団：8)

生産関連特筆事項

西軍は人員整理によって補充人員３０００名弱を確保した。（８パーセント補充×３回）

損壊した施設
航空基地
伊丹／舞鶴／木更津

主要港
舞鶴

補足ルール
・光電２型のライセンス生産開始

地対空ミサイル陣地（両軍生産可能）
生産力５×1月

地対艦ミサイル陣地（東軍が現在開発中）
生産力５×１月
　数十キロの射程を持つ対艦ミサイルの陣地。
　本陣地からの攻撃に無防備に晒された場合は大型艦であっても沈没の可能性有り

空対空ミサイルや空対艦ミサイルは普通の弾薬扱いとし、
開発以後は装備可能に搭載しているものとみなす。


今回の主要な増援部隊
東軍
露西亜連邦義勇戦車師団＜リューシカ＞
露西亜連邦義勇機械化狙撃兵師団＜トーニア＞
露西亜連邦義勇機械化狙撃兵師団＜モーリァ＞
独逸第三帝国義勇降下猟兵師団＜ローゼン＞
独露義勇航空団400機程度

西軍
米82空挺師団
英近衛戦車旅団＜エルトリア＞
英空挺旅団＜チェンバレン＞
米航空隊200機程度
英東洋艦隊

■７月１日
・後方の東日本軍、主として鉄道輸送で前線への移動開始。
・房総では東軍の､山陰・山陽では西軍の航空地上攻撃が継続

■７月３日
・東軍は山陰・山陽方面にて撤退行動を開始。戦車師団を中心に、鉄道を中心としての輸送が始まる。
　山陰、山陽両方面の歩兵師団は、時間を稼ぐため順次交代しながら陣地構築を繰り返す。

■７月５日
　連合軍、近畿・北陸地方において大規模な戦闘を開始。
・山陽、山陰方面軍は、複路を確認しながら着実に、そして巧みに敵陣を潰しつつ前進。その進撃速度は東日本軍の予想を上回ったが、東日本軍の遅滞防御を完全に覆すにはいたらない。
・一方、滋賀の米軍は戦車師団を中心に西方に進出。大阪の敵空挺師団は手当のみで無視し、神戸において東日本軍を東西挟撃・包囲すべく突進（プラン・ゴリガン）。この方面の東日本軍は完全に虚をつかれた形となる。
・同日、西日本の第９空挺師団が敦賀に空挺降下。降下そのものは好天に支えられ、成功する。東日本軍の敦賀撤退路を遮断するためのプラン・ガーデンマーケット開始。
・敦賀空挺降下。以後､敦賀支援のため､山陽・山陰への航空攻撃が緩和される。敦賀においては､空母艦載機まで投入しスポット迎撃に徹する東軍の粘りを崩せなかったが､舞鶴を含む敦賀以西への東軍の出撃も以後全くなくなる。

■７月６日
　予備として控えていたＳＳ義勇軍が降下した西第９師団に散発的ながら激しい戦闘を開始。北上してきた西日本軍は、展開を終えていた東日本の第一陸戦隊の山岳防衛戦に巻き込まれ、停滞してしまう。
　舞鶴方面への西第１０師団の攻撃は、東第三師団の防衛によって完全に頓挫。
　舞鶴港・飛行場が西軍航空攻撃により破壊、以後東軍の撤退路が陸路に限定される。

■７月７日
　岐阜方面の東日本軍、随時撤退開始。１５日までに松本、恵那に順次再布陣。同日、静岡の東第五師団、西方に移動を開始。西日本軍はこちらに兵力を配置していなかったため、順調に進撃する。

■７月８日
　米海兵第５師団、大阪方面に布陣。以降、東十二師団と小競り合いを繰り返す。

■７月９日
・第十九師団などの部隊が敦賀に到着したため、福井方面への西日本軍の攻撃は完全に失敗。西第九師団は包囲下におかれる。
・神戸を通り抜けた米戦車師団の先鋒が福知山前面に進出。舞鶴方面の連合軍が進出を阻止されているため、完全な包囲はならなかったが、この方面の東日本軍は危機的状況に。

■７月１０日
・姫路方面の東日本軍、かろうじて福知山〜舞鶴経由で敦賀に撤退。以降、近畿・北陸の戦闘の焦点は、福知山で防衛戦闘を続け、味方の撤退を支援している東日本の山陰方面軍、及び舞鶴ルートに絞られることに。
・房総方面の西日本軍の撤退作戦、「悲しき我が心」発動。連合軍の海軍航空兵力による制空権獲得作戦開始。

■７月１１日
　プラン・ガーデンマーケットのために琵琶湖東岸で待機していた西第７師団（戦車）、半ば独断で舞鶴に向かって転進。方面軍司令はこれを追認。

■７月１２日
　房総半島から、連合軍の撤退開始。
前後数日にわたり、関東地方において航空消耗戦が繰り広げられる。
撤退そのものは東日本軍が介入しなかったため、１３日までに撤退は完了する。

■７月１３日
　東第五師団、浜松まで進出。ここで、緊急に移動してきた英連邦師団と接触。以降、三ヶ日で双方対峙が続く。

■７月１４日
・西第７師団、小浜に進出。舞鶴で善戦していた東第三師団は、挟撃される前に、ついに敦賀に撤退。福知山の東日本軍、完全に包囲される。
・伸るか反るかの小松基地強襲作戦「トライアングルハート」。両軍とも航空部隊に大被害を出すが､東軍は富山から戦闘を続行。敦賀の空挺部隊救援は絶望となる。

■７月１６日
・敦賀で包囲されていた西第９師団、大部分が降伏。残余は福井山中を突破し、滋賀に撤退。
・新潟に、ロシア義勇軍の第一陣到着。

■７月２０日
・福知山の東日本軍に、降伏勧告。指揮官の白石少将は「くそったれ！」とのみ返答。このころから、小部隊の山岳踏破による東日本軍の脱出口が開始される。
・新潟に、独義勇軍（空挺師団）、空路で到着。

■７月２７日
・福知山の東日本軍（第八・第九・第十三）、降伏。白石少将らは、山岳踏破で敦賀に撤退。

第二ターン終了後、配置概観（白地図提供 http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/map/map.html）

凡例

赤字＝東軍
青字＝西軍


ＵＳ＝米国
Ｂｒ＝英連邦
Ｇｅ＝独逸第三帝国
Ｒｕ＝露西亜連邦
無地＝東西日本

Ｍ＝海兵（軍の所属反映であって海兵師団全てにＭを付けているわけではない）
Ｔ＝戦車師団（名称反映であって戦車師団全てにＴを付けているわけではない）
Ｃ＝騎兵師団
数字＝師団番号

Ｂ＝旅団
Ｒ＝師団

特に記載なき場合は師団番号である。

マスターより

■陸戦担当マスターより
　陸戦のアクションそのものはかみ合っていて、その点は良かったのですが、
今後の展開を考えると、どうしたらいいのかなあ…と悩んでしまって。
　結局、他のマスターに「なるべくプレイヤーさんにフリーハンドを与える形にしましょう」との一言で目が覚めました。
そんなつたないマスターで申し訳ないような気もしますが…（汗）。

・東日本軍は大変なピンチ…ですが、同盟国の支援は健在です。ただ、手持ちのカードがますます少なくなってしまいましたが、ここが踏ん張り所かと。

　今回は、東陸軍のアクションは、総合的な判定としては、ほぼ満点だったと思います。…第１ターン、下関攻勢がなかったら、全師団が逃げ延びられたかも知れません。無念。 再編成中の師団は、来ターンは使用できません。第４ターンから再び動かせますので、その点ご注意下さい。

・西陸軍のアクションもまた、見事なものでした。…敦賀強襲を除いては。「ビックリしたよ！」　…ビックリしただけの結果に終わってしまったのが、残念です（汗）。 第１ターンから始まった西日本の反撃は、これで一応の目鼻がつきました。
今おかれている状況を更なる飛躍の踏み台に出来るかどうかは、プレイヤーの皆さんの決断にかかっています。
　硫黄島への撤退は成功しましたが、重武装をそっくり失っていますので、実質再編成状態と考えて下さい。

・ええと、そう言う系統のアクションを出されても、このマスター陣だと、逆の結果が帰ってきますよ？（謎）

■海軍担当マスターより
遅延申し訳ありません。

・連合海軍の再編
　Ｂ統合任務部隊の朝鮮帰還と英東洋艦隊の編成が行われました。
　前回の海戦で打撃を受けているため、Ｂ統合任務部隊からの引き抜きは出来ませんでした。
　英東洋艦隊編成のため、他の艦隊の編成も変わっていますので、注意してください。
　次回ＭＳＰ５を投入することで、英艦隊のガネット哨戒雷撃機のうち４機を早期警戒機に変更することが出来ます。
　現在積んでいる対艦ミサイルは未完成です。（ＭＳＰをミサイルの完成に使うか、早期警戒に使うかは自由です。）
・枢軸海軍義勇艦隊の運用
　潜水群の運用制限が１個緩和されました。
　日本海での攻撃的な作戦、或いは太平洋での作戦に、任意のＵボート３個潜水群を投入できます。
　指定した以外の潜水艦はマスター判断で動き、日本海聖域化のため哨戒任務につきます。
・移動予定について
　エクセルの「場所」は今ターン開始時の所在を、「派遣先」は今ターンの作戦海域を表しています。
　今ターン終了時の所在については、記述が無い場合はマスター判断（基本的に初期配置へ帰港）になりますので、
　配置転換などを行う場合は必ず明記してください。

西側戦力表の訂正、Ｃ３駆逐隊と地方隊の数に修理中の艦艇を含んでいませんでした。
正確には６隻（うち１隻修理中）／７隻（うち１隻修理中）です。

■空軍担当マスターより

「してみせて､言って聞かせて､させてみる」（上杉鷹山）
マスターの立場ではしてみせるわけにはいかないので､言って聞かせます。
と言っても､大体はリア中で書き尽しているので付け加えることは少ないですし、
平マスターが言うべきではないことも混じっていますが。

まず､根本的なことを言っておきます。PCの所属国に力があるからといって､
PCの階級が高いからといって､PLが偉いわけじゃありません。
また､情報はきちんとチェックしましょう。自分に都合の悪い情報から目をそらすことは敗北への近道です。

一握りのPCの勝手で圧倒的多数のNPCを蔑ろにすることはできません。
NPCにはNPCの思惑があります。それを動かすには､動かし得るだけの方法が必要です。
MSPを使うとか､理詰めで説得するとか。ましてや､国家意志を簡単に左右できるわけがありません。
そして､「全面核戦争を避けつつ､東日本の崩壊（太平洋への出口を失うこと）を防ぐ」という
ドイツの国家意志は明示されていましたよね。
戦争目的を達するための戦略､戦略目的を達するための作戦､作戦目的を達するための戦術です。
バトルジャンキーを暴れさせてやるために戦争する国はありません。

何もかもアクションの通りになるわけではないのです。
例えば､「お姫様を救う」ことを目的に行動するのは構いませんが､「救える」とは限らないということです。

……失敗するアクションには失敗するだけの理由があります。
阿賀野守さんのように､作戦以外のことが書いてないのでドラマにしづらいという稀有な例もありますが。

空戦の結果は､東軍が関東と敦賀に絞ったのに対し､
西軍はそれに加えて山陽・山陰への地上攻撃も抱えていたこと､
そして基地から戦場までの距離の差が最大要因になりました。

ドイツ降下猟兵が強引にやって来る判定になったのは､
空軍の内輪揉めに拍車をかける人が多かったからです。

名古屋的道化師でした。

＞東日本航空作戦本部について
もっと早く設立されていれば､有利に戦えたのですが。
陸海軍のセクショナリズムについて配慮が足りないあのアクションでそれは無理です。
関係者多数が一致団結した共同行動でなければ､設立自体を認めませんでした。
なお､前田俊夫の出演については､内田弘樹先生の承認を頂いております。

＞NPCについて
誤解なきように明記しますが､NPCは物語を進めるための存在です。
必要以上に出番はありませんし､判定のプラスにもしません。
さもないと､「あの人が欲しい」アクションばかりになりますから。
あまり頼り過ぎませんように。物語のメインになるのはあくまでもPCです。

＞七尾文七さん
航空作戦本部の部隊配置と食い違ったので､折衷してこうなりました。ご了承下さい。

＞ジョゼフ・ラインハートさん
ドイツ義勇空軍の司令官と前大戦時に対米核攻撃をプランニングした者が同一人物であることは､知っていることにしても知らないことにしても構いません。

＞ドイツ軍機について
He443フレスベルグは､史実ソ連のTu16バジャーに対応しています。なお､ソ連のバジャーは武装すると航続距離や速度が最大値の六割くらいにまで下がりますが､独ソの技術力格差を鑑み､もう少し高値で安定するように設定しています。

■政治外交・民事担当マスターより
まあ、アクション全体に関するお説教は上で散々言われておりますので省略。

列強各国それぞれ「爆弾」を抱えています。この爆弾をどうやって最後まで爆発させないか
あるいはうまく処理して武器に変えるかが大きな鍵と成って来るでしょう。
トップがＮＰＣということもありますし、歴史という奔流に抗って流れを作り出すということは非常に難しいでしょう。
しかし、どこかに必ず流れが行き先を失うような場面が現出します。
その時を発見し、機会を逃さずに適切な手を打ち、流れおことによって人は歴史に名を刻むのです。
ゲーム終了時の目標を見据え、自分の立ち位置を捉えて行動して下さい。

＞井上成美様
ライセンスを取っていない外国機は生産できません。欲しい場合はライセンスをとるか輸入措置を取ってください。
また、外国部隊の補充は増援扱いになります。一部不明瞭な部分については修正を加えました。
本戦争の終結にはまずもってプレイヤー同士での合意が欠かせません。
また、列国の意図も混じってきますのでこれを説得するだけのものがなければ難しいでしょう。

＞貝塚修様
大幅マイナス判定と致しましたが、意味のある行為ではあったと思います。
小牧は修理されていないため運用できません。

＞グリゴリー・エフィモヴィチ・ラスプーチン様
西日本政府当局に保護されました。
裁判をうけるか、第三国への送還を願い出るか考えておいて下さい。

＞我妻由乃様
謎の外国人に連れ去られました。
一応行き先は上海が想定されています。

＞馬渕駒之進様
ミサイル関連の生産については補足ルールを設定いたします。
参考にしてください。

＞ヒュー・トマス・ジェフリーズ様
イギリスは史実と異なり「連邦としての実態」を有していることと
その力の限界には要注意してください。


ミサイル技術について補足
地対空（東西ともに現状で地対空ミサイル陣地を建設可能） （枢軸共同で複合誘導の新型を研究開始）
地対艦（東日本開発中、予定通り開発が続けば、第３ターンから生産可能）
空対艦（東日本・ドイツ軍で運用開始、英国は開発中）
空対空（枢軸軍で第３ターンから本格運用開始）

地対空ミサイル陣地は生産力５を消費して建設可能
（設置の手間が少ないので艦艇より期間は短いが、レーダー施設も立てる必要があるため艦艇よりも消費量は大）

空対空ミサイル運用機は光電／光電2型／火龍改／征風／Me1101
空対艦ミサイル運用機は爆撃５以上の機体
（特段ミサイルの生産の必要はなし）